第766話 ボース村編入
ボース村の法王国編入に向けて動き出しましたが、道のりは平坦ではないようです。内政(自国優先)と外交(他国との協調)の調整は一筋縄ではいきません。
~ミア視点~
「じゃあ、猊下、帰りも気を付けて」
「ありがとう、村長も編入の件、前向きに検討して下さいね」
村長が私達をお見送りする。これで任務は完了しました。
今回の訪問は、ボース村へのお礼と友好関係の構築が目的でしたが、それに加え、編入提案もできました。帰って報告しませんとね。
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――――――
法王城に帰り、早速、会議を開きました。
出席はミア(法王)、アレス(聖王)、リンクス(司教)です。
「こちらが村長と会談した内容です」
資料を配る。
<ボース村編入案>
・ボース村を法王国に編入する。
・ボース村の自治を認める。
・ボース村から徴税、徴兵しない。
・二大政策(働く・悪事をしない)を守ってもらう。(努力)
・法王国(中心部)とボース村の間の道路を整備する。
私と陛下は既に会談内容を知っていますので、
主にリンクス司教向けの資料ですが、目を見開き、驚いた様子です。
「法王猊下、あの異端の村で、よく編入案を提案できましたねぇ……」
「ええ、きちんとメリットを話しましたから」
「メリットですか?」
「ボース村が法王国に編入されれば、大陸との交易がしやすくなりますし、当然、法王国ともしやすくなります」
「なるほど、交易のメリットですか」
「彼らは元々、ボース国として、大陸と交易していましたが、連邦外の国のため、関税がかかりますからね。これが無くなるのは大きなメリットです」
「連邦加盟にこんなメリットがあったんですね。長年、法王国に従属しない村をスムーズに従属させたのは流石です」
「あの、リンクス司教……」
「はい?」
「私は従属させたとは考えていません。あくまで友好関係を構築する最良の手段として、編入を提案したんです」
「ああ、これは失礼しました」
「それと、今後、この村を『異端の村』と呼ぶのを禁止します」
「えっ!?」
「その呼称は前の法王が異端認定したからでしょう? そういう敵愾心を煽るレッテル貼りは良くありません」
「……そうですね。長年の習慣でしたが、改めさせて頂きます」
◇ ◇ ◇
~アレス視点~
ほぅ、ミアが法王らしくなってきたじゃないか。外交を成し遂げ、自信を持ったようだ。ボース村の件はミアが主導して動いていたが、前世のクラナス時代に目が届かなかった地域だから、宿題のように感じていたのかもしれないな。
それにリンクス司教に小言を言う際、ジェシカ聖騎士隊長、チベル警備隊長がいない場を選んでいるのが心憎い。褒める際は人前で、叱る際は人のいない所で、というのが人心掌握術のセオリーだからな。
今回の会談により、こちら側にできた宿題と言えば、
道路整備だが、その件でちょっと気になったことがあるんだ。
「そう言えば、ミア法王」
「何でしょうか? 陛下」
「道路整備はいいんだけど、途中の荒野で狼が出るんだって?」
「はい、夜になると出ますね」
「狼が出るということは、獲物になる草食動物がいるということだよね?」
「ええ、おそらく」
「ということは、その草食動物が食べる草が生える場所があるんだろうな?」
「言われてみれば、そうですね」
「狼が出る場所はボース村寄りかな?」
「そうです。境界に近くなると出てきましたね」
「たぶん、ボース村とその周辺は酸性土じゃないんだな」
「なるほど」
「しかし、逆に言えば、ボース村の近くは狼が出るから、大変そうだな」
「でも、そういう感じではなさそうでした。ひょっとして……」
「風の大精霊の加護か?」
「かもしれませんね」
ボース村、風の大精霊が加護を与える地域か……
――――
――――――
その頃、ボース村
ザンナ村長が村人を集め、会合を開く。
前回、法王国から、たくさんのお礼をもらい、法王国の印象は良くなっているが、それでも、法王国への編入案に対し、異論が続出する。
「これまでもうまくやってこれたんだ。わざわざ、法王国に編入する必要はなくないか?」
「向こうとは信仰が違う」
「騙されてるんじゃないのか?」
それに対し、村長が応じる。
「編入しても、自治は認められる。大きな後ろ盾はあった方がいい」
「自治があるから、信仰は大丈夫だ」
「騙すような奴なら、大精霊の加護をすり抜けて、ここに来れない」
と反論する。
さらに、村人達と村長の対話は続く。
「なぜ、編入案に肩入れするんだ?」
「法王国は大陸の連邦に加盟しているんだ」
「連邦?」
「村が法王国に編入されれば、村も連邦の地域になる」
「それで?」
「そうすれば、関税がかからなくなる」
「「「ええええ! 本当か!?」」」
「ああ、それに、法王国に編入すれば、法王国とも交易ができる」
「でも、法王国は距離があるし、途中、狼が出るだろう?」
「ああ、その点だがな、向こうで道を整備して、さらに狼対策もしてくれるらしい」
「「「えええええ! そんなうまい話、あり得ない!」」」
「だろう? あり得ない話だ。そこまで言うってことは向こうがそれだけ本気ってことだ」
「話がうますぎる。何か条件は付かないのか?」
「徴税も徴兵も無い。特段、義務的な行為は言われてない」
「「「うう~ん……」」」
「あっ、そう言えば……」
「何だ!? やはり厳しい条件があるのか?」
「働く、悪事をしない、この二つを守るよう言われた」
「「「働く、悪事をしない!?」」」
「何でも、連邦を治める聖王陛下の二大政策らしくてな。働くは、人のために働く、人に喜ばれるって事だそうだ。悪事をしないは、人に迷惑をかけないって事だな」
「なんだか、漠然としてるなぁ」
「ああ、俺もそう思ったが、要は、人のために行動しろ、人の嫌がる行動はするな、って事だな。道徳的な話だし、むしろ、この村にとって、いい話だと思うぞ」
「それは強制か?」
「いや、努力義務だな」
「それなら、悪い話じゃないな……」
「だろう? だから、俺は編入案に肩入れしてるんだ」
「「「ううむ……」」」
「まあ、みんなが心配する気持ちも分かるが、俺があった法王国の代表は信用できそうだったぞ。これまでの法王国とはまるで違う」
「確かにそれは感じた」
「そうだな。そうじゃなきゃ、わざわざお礼なんて、持って来ないよな」
「だから、俺は法王国を信じたいと思う!」
「「「うう~む……」」」
ここで、編入案に流れが傾きかけたが、やり手の村民が口を開く。
「村長、相手はこれだけいい条件を提示してくれてるんだ。ということは向こうは下手ってことだ。それなら、こっちが上手として、もう少し押し込んでもかまわないんじゃないか? 弱くでる相手には強くでる。これが交渉の基本よ」
「「「おおお、それがいい!」」」
これに村人が同調し、強硬的な意見が優勢となる。
「いや、しかし、なあ……」
「村長なら、村の利益最優先で考えるべきだ!」
「う~む……」
「「「村長! 強気でいけ!」」」
「うう~む……」
「村長、俺らには大精霊様の加護が付いている。何の心配もないさ!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
「ふぅ……しかたない。それなら、向こうが提案した道路整備を先にさせるか?」
「「「おおおお! さすが村長!」」」
(ふぅ、どうにか、これで村民達を納得させられた。俺のみたところ、あの猊下は優しそうだし、こっちの要求を案外聞いてくれるんじゃないかな? 頭を下げて、お礼もあんなにくれたしな)
こうして村の会合により、法王国が先行して道路整備完了するよう、編入案承認の条件に加える事となった。はたしてこの決定が吉と出るか凶と出るか。先んじて礼を尽くし譲歩した法王国に対し、上から目線で追加要求する決定が、どんな影響をもたらすか、この時点の彼らはまったく知る由もなかったのであった。
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