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第765話 新緑の探究者(ボース村)7

 平和的な話し合いで行われる友好関係強化の提案。侵略とはまったく違います。

~アレス視点~


 クラナス島の外れにあるボース村に滞在中のミアから念話が入る。以前の食料援助のお礼で来訪しているが、村長さんと今後の付き合いについて、話してる最中とのことだ。


 ミアの念話で音声付きの視覚情報を送ってもらったが、ずいぶん気さくな村長さんだな。ボース村と言えば、以前、法王国の結界の影響を避けるため、転移迂回地に使った地だ。


 何度も足を運んだが、あの時はあくまで迂回、つまり、一瞬、通り過ぎるだけだから、交流は無かったんだよな。リンクス司教とチベル警備隊長は最初に行ったよしみでパイプがあるようだが。


 同じ島民だし、クラナス法王国がボース村と友好関係を結ぶなら、それは双方にとっていい話だ。ミアが友好関係を希望するのもよく分かる。僕も賛成だ。


 それに乗って、僕もある提案をしてみよう。

 ちょっと、ミアの目と耳を通して、会談内容を見せてもらうか。


※補足※

【念話】は発信者が見聞した情報も同時送信可能で、受信者はさながら、音声付きの動画を見てるような状況です。慣れてくると、目の前の人と会話中でも、その場にいない第三者と念話できます。今回はミアの目と耳を通して、主人公もその会議にリモート参加してるような感じです。


――――

――――――


~ミア視点~


 陛下アレスと念話回線を繋ぎながら、村長と話を続けていますが、

 陛下アレスからの提案を聞きましたので、お伝えしましょう。


「なるほど、大陸との交易ではボース国、ここではボース村にしてるんですね」


「まあ、そんな感じだな」


「その上でご提案です」


「ん?」


「法王国に加わりませんか? ずばり“編入“です」


 陛下からのご提案、それは編入案です。


「はぁ? 編入? さっき言ったよな。どこにも従属しないと」


「いえいえ、従属ではありません。自治権を認めます。今迄通りで構いません」


「それでも法王国の一部に変わりねぇ。俺達にメリットが無いじゃないか?」


「ボース村は大陸と交易してますよね?」


「ああ、そうだが」


「法王国は大陸の連邦に加盟しています」


「連邦?」


「だから、ボース国のように連邦外の国として、交易するより、ずっと有利です」


「ほぅ、例えば?」


 ふふふ、村長さんが乗り気になってきました。


「法王国になれば、交易の際、関税がかからなくなります」


「ええええ!? 関税がかからない!? 本当かい!?」


「はい」(にっこり)


「う~む……」


 ふふふ、村長さん、考えてますねぇ。しかし、それだけじゃありません。


「それに、法王国になれば、当然、法王国での交易もしやすくなるでしょう」


「おお、それはいいな! だが……」


「ん? どうしたのですか?」


「ここに来たから、猊下も知ってると思うが、ボース村はこの島の外れで、法王国から、ここに来るまで距離がある。それに途中、狼も出るよな……」


 なるほど、それも交流の足枷になっていたんですね。


 ちょっと、陛下アレスに相談(念話)しましょう。

 これまでのやり取りをずっと見てるはずだから、説明は不要でしょう。


(陛下、どうしましょう?)


(そんなに距離があるのか? 僕は転移ばかりだから、よく分からないんだが)


(朝出て、馬車で急いで、夕方到着ですね。ゆっくりだと泊まりを入れて、翌日昼に到着です)


(う~ん、距離の割に結構かかるな)


(途中の荒地は整備されてませんからね)


(ああ、なるほど。乗馬だけなら、もっと早いだろうが、馬車だと飛ばせないか)


(その通りです)


(じゃあ、道さえ整備すれば、いいんだね?)


(そうですね。そうすれば、半分ぐらいの時間で済むでしょう)


(分かった。僕が道を整備するよ)


(陛下が!? それは助かります)


(他に注意点はあるかい?)


(途中、狼が出ますね)


(狼か、それなら、その区間の両側に柵を設置しよう)


(いつもながら陛下はお話しが早くて助かります)


 さて、村長に提案しよう。


「村長、法王国とボース村との間の道をこちらで整備しましょう。狼が侵入しないよう柵も設置します」


「えっ、大工事だぞ!?」


「いいです。いいです。ボース村が法王国に入ってくれるなら、それぐらいしましょう」


「ううむ……」


 ふふふ、だいぶ傾いてきたようですね。


 ですが、そう思った瞬間、村長さんが厳しめの表情に変わりました。

 さすが、村を治めるだけありますね。気を引き締めてきたようです。


「俺は先代から、うまい話には必ず、裏があるって聞かされてきた。いろいろ確かめさせてもらうぜ」


「ええ、いいですよ。確認は大事ですからね。正直に答えましょう」


「法王国に入っても、自治はこれまで通りという事だが、徴税があるのか?」


「徴税はしません」(即答)



「なああっ!?徴税がない!? 本当か!?」


「ええ、本当です」



「本当か?」


「ええ、本当です」



「本当に本当か?」


「ええ、本当に本当です」



「本当に本当に本当か?」


「ええ、(以下略)」


 しばし、目を合わせたままの状態が続く。

 広い室内は宴の和やかな雰囲気ですが、この周辺だけ緊張感が走ります。


「ふぅ、分かった……猊下の言うことを信じよう……」


「ありがとうございます。他には?」


「徴兵はどうなんだい?」


「ありません」(即答)


「なっ!? 本当か!?」


「はい、本当です」(きっぱり)


「徴兵も徴税もないのか……そいつは凄いな……俺たちの先祖はそれが嫌でこの地に来たんだが、もし、それが本当なら、編入も悪くないな……」


「ふふふ、でしょう」(にっこり)


「だが、おいしい話しには罠があるとも聞いている。それ以外に何か、法王国にしなければいけない義務的なものは無いのかい?」


 疑り深い村長さんですが、おさたる者、これぐら用心深い方がいいのかもしれませんね。だからこそ、数百年にわたって自立できていたのでしょう。こういうのを見ると、内政、外交の難しさを再認識しますね。


 教会の教えだと、通り一遍で「信じる=助かる」になりがちですが、世俗ではそうとは限りません。権謀術数渦巻く内政、外交では「信じる=騙される=助からない」になる場合もありますからね。聖と俗の双方を学んだ今ならよく分かります。


 そもそも法王国は国内全体で徴税、徴兵は無いんですよね。徴税の代わりに寄付(上納)はありますが、これはあくまで自発的なものです。強制ではありませんし、余裕がある者だけです。


 防御結界で覆われている島国であり、まわりから攻められる事がないから、対外的に戦う軍隊も無いんですよね。一応、聖騎士隊と警備隊はいますが、数百人規模で、法王の私兵みたいなものですしね。


 国民が法王国に対して、義務的な事ってありましたっけ?


 すると、陛下アレスから念話が入る。


(それなら、僕の二大政策を伝えてくれ)


(働く、悪事をしない、ですね?)


(そうそう)


(教会の教義はいいんですか?)


(本当は入れたいが、精霊信仰だし、いきなりは抵抗感があるだろう)


(それもそうですね)


(それに、僕の二大政策をきちんと実行すれば、自然と教会の教義も守られるようになるんだ。イメージを送る)


 教会の教義

◇七つの美徳 謙虚、節制、忍耐、感謝、慈善、勤勉、純潔


 働けば、忍耐を覚え、勤勉になり、取引相手に謙虚になり、労働を通して節制するようになる。悪事をしなければ、純潔になり、感謝を覚え、慈善の気持ちが芽生える。


(確かにそうですね)


(それと、働くは傍楽で、まわりを幸せにする意味だからね。そこを強調してくれ)


(分かりました)



 村長にうまく説明しませんとね。目の前に意識を切り替えましょう。



「義務というか、守ってもらいたい事があります」


「何だい?」


「皆さんに、働いて欲しいんです」


「ああ? 当然、働いてるぞ」


「連邦加盟国の代表に聖王陛下という方がおられまして、そのお方は、働くことを推奨されています。内容は何でも結構ですが、まわりを幸せにするよう働いてもらいたいのです」


「ああ、それなら家族のために働いている」


「それで結構です。人に役に立つ行為なら、形式にこだわりません。勉強、家事仕事、介護、介助、雑用、みんな『働く』です」


「分かった。それだけか?」


「もう一つあります。『悪事をしない』です」


「漠然としてるが、具体的には?」


「先程の『働く』は人の役に立つこと、喜ばれることになりますが、『悪事をしない』は人の迷惑になること、人を苦しめることをしない、になります」


「なるほど、分かった。簡単に言えば、『善い事をして、悪い事をするな』という事だな」


「その通りです」


「ずいぶん、道徳的なんだな」


「聖王陛下も私もそれを物事の最優先に考えていますので」


「なるほど、分かった。この件は村で協議しよう」


「ありがとうございます」


「しかし……」


「何でしょう?」


「猊下の提案だと、うちにメリットはあっても、法王国にメリットがないようだが……」


「そんな事はありません。島の二地域が仲良くなるのは、それ自体が大きなメリットです。そして、今回の場合、編入が自然だと思われました。他人でも仲良くなると、縁組して、一つの家族になりますが、国や地域も同じだと思うんです。法王国という一つの家族になりましょう」


 異端の村として、警戒するよりも、交流して仲良くする方がいいに決まっています。それに距離が離れているのも、お互い、教会信仰と精霊信仰を保守するのに、悪くなさそうです。


 村長さんは編入案にかなり前向きになってくれたようですが、正式な返答は村の会合の後になりました。いい返事がくるといいんですけどね。できうる限り最大限の譲歩をしたつもりです。


 村長さんの言う通り、短期的に見た場合、法王国にとって、編入にメリットはありませんが、長期的に見た場合、島全体の統一がもたらす心理的安心感は計り知れません。同じ島民なら、他人同士より家族同士の方が住み心地がいいはずです。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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