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第764話 新緑の探究者(ボース村)6

 ミア視点です。ボース村への来訪目的はお礼だけではありませんでした。

 実はもう一つの目的こそが真の目的だったりします。

「もうすぐボース村です!」


 チベル隊長の声が明るい。昨晩は快適に過ごせたようですね。朝起きて、早々に出発しましたが、昼ぐらいに到着しそうです。昨夜は狼も出ませんでしたし、見張りをした聖騎士隊と警備隊も交代で休めましたので、疲れはないようです。


 しかし、何もない荒地がずっと続いて、緑が多くなってきたら、程なくしてボース村領内ですから、途中の境界障害(大精霊の加護ブロック)はまったく気が付かないぐらいでした。ボース村に難無く入れましたので、大精霊から歓迎されてると解釈しましょう。


 そう言えば、昔、法王国の聖騎士隊がボース村に向かったら、境界で風の大精霊に追い払われたと聞きましたが、あれは邪な心があったからかもしれません。精霊はそういうのには敏感ですからね。


 さて、このまま目的地である村長さんの家に向かいましょう。


――――

――――――


 馬車を停め、村長さん宅の前で降りる。


 以前、チベルさんがここに来たことがあるようで、スムーズにたどり着きましたが、村で最も大きな家のようです。事前に、リンクス司教経由で、早馬を飛ばし、村長に来訪希望の旨、伝えてもらっていますが、返事は頂いていません。大丈夫でしょうか?


 とにかく戸を叩きましょう。


 私が戸に近づくと、チベル隊長が先に回り込み、


「法王猊下、私が呼びかけます」


 と言ってくれました。


「それではお願いします」


「はい」


 チベル隊長が戸を叩く。


 トントン!


 そして、中に声をかける。


「ザンナ村長いますか! 私です! 法王国のチベルです!」


 在宅だといいんですが……


 すると、中から


「は~い!」(女性の声)


 ギィー


 扉が開く。


「ああ、あんたかい、今日はどうしたの?」


 女性が入口で応対する。村長の奥さんでしょうか?


「今日はお礼に伺いました。ザンナ村長はいますか?」


「ああ、いるよ、ちょっと待っとくれ」


 良かった。いるようです。


 私を含む『新緑の探究者』四人とジェシカ隊長、

 チベル隊長が居間に通されました。他の隊員は外で待機です。


 さて、うまくいきますように。


――――

――――――


「ええと、お礼に来たんだって?」


 男性が居間に入るなり、気さくに話しかけてくる。

 この人がザンナ村長ですね。


 初対面は大事です。きちんとご挨拶をしましょう。


「私は法王国の代表のミアと申します。ザンナ村長さん、初めまして」


 椅子から立ち上がり、軽く会釈をすると、それに合わせて、他の同行者たちも慌てて、会釈しました。今回の恰好は冒険者スタイルなので、親しみやすさを演出しています。“郷に入っては郷に従え“ですね。陛下のお言葉です。


「ん? 法王国の代表?」


「ええ、代表です」


 すると、ザンナ村長がチベル隊長に近寄り、耳元で訊ねる。


「法王国の代表って、お偉いさんか?」


「はい、法王猊下です」


「ホウオウゲイカ?」


「ええと、とにかく一番偉いお方です!」


 少し間が空く。


 ゴホン!


 すると、その間を嫌がるように、ザンナ村長が咳払いし、

 椅子にドカッと座り、私をジッと見つめてきました。


「そのお偉いさんが、わざわざここへ来て、お礼を言いに来たと?」


 う~ん、ちょっとぞんざいな態度ですが、

 村長としての威厳を出そうとしてるようですね。


「ええ、そうです」


 そう言った後、私も相手の目線に合わせるように椅子に腰かけました。立ったままだと上から目線になってしまいますからね。それに、相手が先に座りましたから、私も続かないと不自然です。そして、私に合わせ、『新緑の探究者』のメンバー達もバタバタ座りました。(二隊長は私の後方に立ちました)


 皆さん、私に動きを合わせてくれるのが、ちょっと面白いですが、

 ここは真面目にいきましょう。


「前回、法王国が食料危機に陥った際に、食料を援助頂き、心から感謝致します」


 今度は先程より、もっと深く頭を下げました。

 すると、みんなも(以下、省略)


 しかし、あれですね。一人だけでお礼をするより、たくさん連れてお礼した方がいかにも仰々しくお礼をしたという感が出ます。この時ばかりは一人で来なくて良かったと思いました。


 頭を上げると、ザンナ村長がじっと私を見つめ、

 

「いやぁ、お礼をされると嬉しいもんだなぁ」


 とにこやかに返してきました。言葉は少ないですが、

 この瞬間、一気に場が和みました。第一印象はクリアしたようです。


 食料を頂いたのは私が法王に就任する前のお話しですが、職務というものは、前任を引き継ぐものだと、陛下も言われていました。もし私が「就任する前の事は関係ない」という態度をすれば、信頼関係を構築できないでしょう。


 担当者が変わるのは組織の都合。外部には関係ない話です。内務大臣の時、各省庁で引継ぎの重要性を説いてきましたが、どんなに仕事ができる人でも、着任時、退任時に、引継ぎできなければ、決して一流にはなれません。


 引継ぎを軽視する組織では、引継ぎなしで仕事を始めますから、トラブルが多いですし、経験の蓄積を積めません。進歩せず同じミスを繰り返します。そして、引継ぎを受けなかった者は退任時、引継ぎをしません。こうして負の連鎖は続き、その組織は劣化していくのです。


 そうならないよう、しっかりしませんとね。


――――

――――――


「食料を【取出し】!」


「なっ!? こ、これは!?」


「どうぞ、受け取って下さい。私達の感謝の気持ちです」


 村長さん宅の前でたくさんの食料を【取出し】ました。

 リンクス司教から量の確認をしましたが、頂いた量の倍返しです。


「こ、こんなに……!」


「ボース村からの援助で急場を凌ぐことができました。どうぞお受け取り下さい」


「ああ、しかし……こんなには……」


 と言いかけたところで、奥さんが割って入ってきました。


「いいじゃないの。あんた! くれるものはもらっておけば!」


 おっ、奥さん、いいお仕事されています。そうそう、どうぞ受け取って下さい。


「わ、分かった。じゃあ、頂こう」


 これでお礼が完了しました。しかし、今回はもう一つ目的があります。

 

――――

――――――


「まあ、飲んで下さい。ホウオウゲイカ」


「あはは、はい、村長さん」


 お礼が終わると、隊員達も全員、家に招き入れられ、突如、宴が始まる。まだ明るいですが、たくさん食料が入ると、こういう習慣があるらしい。しばらくすると、村中から人が集まってきました。


「みんな! 法王国のゲイカからたくさんの返礼品だ! 楽しんでくれ!」


「「「おおおお!!」」」


 いきなりではありますが、明らかに歓迎のムードであり、私としては、してやったりです。これなら、例の話もしやすそうですね。


「ザンナ村長さん、今回の目的はお礼だけではありません。実はもう一つあります」


「何だい? ゲイカ?」


「私達は同じ島に暮らす仲間です。きちんとした関係、友好関係を築きませんか?」


「友好関係?」


「つまり、仲良くするということです」


 しかし、この場合の友好関係って、どうなんでしょうね?

 国対国なら、お互いに友好国になるんでしょうけど、ここは村? 国?


 少数で団結して、うまく生活をされてるようですが、見たところ、国としての体を為していない気がします。どう見ても村ですよね。


「それは構わないが、俺達は俺達のやり方でいくぜ」


「ええ、それは当然です。私達も同じですから」


「それに対等の関係だ」


「……分かりました」(対等……?)


 陛下アレスなら、違うやり方をされるのかもしれませんが、間違いなく、専制的な支配、力による従属は望まないはずです。ですが、対等でいいのでしょうか?


 念のため、村か、国か、ぐらいは確認しておきましょう。


「つかぬ事をお伺いしますが、ここはボース()でいいんですよね?」


「ああ、ボース村だ」


 やはり……


「だが、どこにも従属してないし、どこからも自由だ」


 えっ? じゃあ、国じゃ?


「だが、国というほど人も多く無いし、整ってもいない。だから村ってことにしてるんだ」


 なるほど、そういう事ですか……


 そう言えば、ボース村は漁業が栄え、大陸との交易があると聞きました。


「大陸との交易はどうされているんですか?」


「ああ、便宜上、ボース()ってことにしてる」


 なるほど、対外的には「国」にしてると……


 実質、村であるこの地と最もいい関係を築くには

 どういう形がいいでしょう?


 法王国とは面積も人口も圧倒的に差があります。

 そしてお互いに同じ島の陸続き。


 それなら、平和的に飲み込む形が自然のような……

 

 陛下アレスに念話でご相談しましょう。何しろ陛下アレスは何もない島から、王国をつくり上げたご経験があり、私はその様子を見てきました。きっとお力になって下さるでしょう。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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