第762話 新緑の探究者(ボース村)4
引き続きミア視点です。法王国の行く末についても、しっかり考えています。
何もない荒野を進むうちに日が暮れてきました。そろそろ、アレを出しましょうかね。そう思っていたら、また馬車の前方の扉が開き、御者役のチベル隊長が顔を出してきました。
「もう、日が暮れますが、いかがいたしましょう?」
見るからに不安げな表情をしています。確かに暗くなってきましたが、そこまで心配する必要があるのでしょうか? 私がいるから? う~ん、それにしても……
「そうですね。今晩はここ迄にしましょう。馬車を停めて、皆さんを呼んで下さい。今晩はここでお泊りです」
今回は私達『新緑の探究者』のパーティー以外に聖騎士隊十人、警備隊十人いますから、アレが役に立ちそうです。ついに出番ですね。ふふふ。
さて、馬車から降りましょう。
四人で馬車から降り、う~んと背伸びしてると、
今後はジェシカ隊長が声をかけてきました。
「法王猊下、これから野営の準備をします。今晩は聖騎士隊が夜通し見張りをしますので、どうぞご安心下さい」
おっと、説明しませんと、いや、見せた方が早いですね。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。ちょっと待って下さいね」
「?」
<<「家を【取出し】!」>>
何も無かった荒地に家を出現させました。以前、陛下から贈って頂いたもので、ずっと収納に保管して、使う機会を伺っていましたが、ついにその時が来ました。
「えええええ!?」
「うわあ! 突然、家が出てきた!」
「えっ!? どうして!?」
聖騎士隊と警備隊の皆さんが驚いてますが、何か笑ってしまいます。
きっと、陛下も皆の反応を楽しんでましたね。ふふふ。
「ほ、法王猊下……貴方様は一体!?」
ジェシカ隊長も驚いてますね。ちょっと説明しておきましょう。
「これは、聖王陛下から頂いた御力です」
「聖王陛下から……ですか……?」
「私が凄いんじゃなくて、聖王陛下が凄いんですよ」
「はぁ……」
「でも、聖王陛下もきっと、神様から頂いた力、とおっしゃるでしょうから、あまり気にしないで下さいね。大元は神様の御力なんです」
これは本心から、そう思っています。私達の力は神様からの贈り物に過ぎません。自分の力だと思えば、慢心につながるでしょう。自力ではなく神力、つまり他力なんです。
「わ、わかりました」
まだ、みんな、ざわざわしてますが、とにかく中に入ってもらいましょう。私が出した家は簡素な家ではなく、貴族が住むお屋敷レベルです。二階建てで、部屋がいくつもあり、皆さんもきっと満足されることでしょう。もちろん水や食料もセットされてます。
ハーピィーの里へ行った際は使う機会がありませんでしたが、
やっと日の目を見ました。してやったりです。ふふふ。
※参考※ 第577話 新緑の探求者(ハーピィの里)2
実は陛下の共有収納にはこの国で臨時政府を樹立した際の臨時聖王城まであります。流石にこの地でお城を出したら、オーバースキルなので自重しました。
――――
――――――
家に入り、私を含め『新緑の探究者』のメンバー四人で応接間のソファでくつろいでいます。ずっと馬車に揺られていましたから、これで、ようやくのんびりできますね。ちょっとマナー違反ですが、足を伸ばすと気持ちいい。他の三人も首や肩をぐるぐる回しています。
ビローチェ「おお、やっぱり柔らかい椅子はいいのう!」
メヌール「確かにこの椅子はかなりフカフカですね」
ラーシャ「この椅子は義父上のお手製ですね?」
ミア「ふふ、分かるわよね。王宮のソファと同じですから」
このソファという椅子は陛下が関連施設で当たり前のように設置されていますが、初めて使う人は、当たり前でない衝撃を受けます。その反応を見るのも面白いですね。
さて、聖騎士隊と警備隊の皆さんはどうでしょうか?
二隊には、部屋割りして、それぞれの部屋で休むよう指示しました。さすが、陛下お手製のお屋敷、二十人以上いても余裕で収容できます。
少しして、部屋割りを終えた二隊長が戻ってきました。二人とも何か言いたそうですね。先ず、ジェシカ隊長が口を開きました。
「全員、部屋割りしましたが、あのように上等なお部屋で休ませ頂いて、本当によろしかったのでしょうか? ベッドも布団も最高級品でフカフカですが」
「ふふふ、いいんですよ。ゆっくり休んで下さい。後で食事も用意しますから」
「えっ!? 食事もですか!?」
「ええ、パンとシチューとサラダぐらいですが」(にっこり)
「えええ!?」
「ふふふ」
食料も収納に入っていますが、どうせなら、おいしく食べてもらいたいと思い、調理済みの料理の状態で保存してるんですよね。しかも、この収納の凄いところは、熱々のシチューでも、まるで時間が止まったかのように、その状態で保存できるんです。もちろんパンとサラダも新鮮なままです。
続いてチベル隊長が前に出てきました。
「それで、今晩の警備はいかが致しましょう?」
「警備ですか? このまま休んでもらって構いませんよ」
このお屋敷は強固なつくりであり、暴徒が襲来しても侵入はできないでしょう。
何しろ陛下のお手製ですから。
「し、しかし……」
よく見たら、隣のジェシカ隊長も気にしてる様ですね。
私としては、二隊に楽をしてもらいたいと思っていますが、
責任感の強い彼らは気にしそうですね。
「それなら、それぞれの隊から一人ずつ出して、交代で屋敷回りを見張ってもらいましょうか?」
「えっ、そんな楽をしていいのでしょうか?」
ジェシカ隊長が申し訳なさそうに言います。
「ええ、それで大丈夫でしょ?」
しかし、チベル隊長が不安げに口を開く。
「実はこの周辺は夜になると……」
「夜になると?」
オオオオオオオオオオオオオオ――――ン!
「えっ、今のは獣の遠吠えですか?」
私の問いにチベル隊長が答える。
「野生の狼です」
「野生の狼?」
「はい、夜になると出るんです」
いくら狼でも、この屋敷の中にいれば、
どうってことはありません。
オオオオオオオオオオオオオオ――――ン!
なるほど、だから、急いでいたんですね。
しかし、遠吠えが聞こえると、嫌でも気になってしまいます……
これだと外で見張りをすると、かえって危険かもしれません。
オオオオオオオオオオオオオオ――――ン!
「やはり、全員起きて、見張りした方がよろしいかと」
狼の遠吠えが聞こえる中、ジェシカ隊長が硬い表情で主張しましたが、
皆さんを狼ごときで、睡眠不足にさせたくありません。
相手が狼なら……
「ビローチェ、ちょっと頼まれてくれますか?」
「おお、待っておった!」
ビローチェは狼の遠吠えが聞こえた時から、
ずっと行きたそうにしてましたね。
「ミア様! 私も行きます!」
間髪入れず、メヌールも続きます。
こちらもそうでした。
「お母様、私も」
隣のラーシャも加わるようです。
ふぅ、分かりました。
「それじゃ、ビローチェ、ラーシャもお願いできますか?」
「「はい!」」
その前にちょっと確認しておきましょう。
「チベル隊長、その狼は魔獣ではないですよね?」
「えっ、魔獣!? いえ、違うと思います。野生の狼です。たぶん……」
ふぅ、ただの狼ですか。
私達『新緑の探究者』は山に分け入り、狼どころか、狼の魔物、ホーンウルフを血祭にあげたことがあります。まったく恐るるに足りません。
※参考 第233話 高山の薬草採取
三人に言っておきましょう。
「今回はただの狼のようなので、くれぐれも手加減を忘れないで下さい。それと、あの頃と違って、不殺生の方針を強くしてますから、殺さない様お願いします。脅かすだけで十分です。あなた達の力はオーバースキルなんですから」
ビローチェ「分かり申した。主人」
メヌール「了解しました。ミア様」
ラーシャ「心得ました。お母様」
ミア「できれば、夕食迄に片づけてもらえると助かります」
狼さん達には悪いですが、先に遠吠えして威嚇したのはそちらです。それなら、追い払われても、しかたないですよね。
二隊長が「私達も!」という顔をしてますが、ここは任せてもらいましょう。
オオオオオオオオオオオオオオ――――ン!
狼さん、いい気になって遠吠えできるのも今だけですよ。
――――
――――――
ジェシカ「あれ? 狼の遠吠えが聞こえなくなりました!」
チベル「本当ですね!?」
ミア「でしょう。ふふふ」
三人が出て、しばらくして、狼の遠吠えがぱったり止みました。
どうやらうまくいったようですね。
そうだ。ちょっと二人に聞いてみましょうかね。
教会の件で前から気になることがありました。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」
ジェシカ「はい、何でしょうか?」 チベル「はい、法王猊下」
「あなたたちも教会の信徒ですよね?」
「「はい」」
この国の人はほとんどが信徒でしたからね。これは想定通りの答えです。
一般の信徒の方に聞きたいことがありました。
「教会では不殺生を教えてますよね?」
「「はい」」
「それで、動物等も殺さないようにしてますよね?」
「「はい」」
「でも、肉は食べますよね?」
「「……はい」」
「そのあたりはどう思っていますか?」
「「えっ!?」」
普通に聞いただけですが、思った以上に驚いた様です。実はリンクス司教とも、この件について話したことはありますが、結論から言えば「前からそうでしたから……」という答えでした。この件に触れると気まずそうにしてましたが、二人もそうみたいですね。
ジェシカ「教会からそう教えられましたので……」
チベル「私もです……」
やはり、長年の習慣ですよね。
「それなら、次の質問です。私達が食べる肉は元々、生きた動物ですが、それを殺した人をどう思いますか?」
ジェシカ「それは蔑みの対象になります」
チベル「私もそう教えられました」
やはり……
動物は殺していけない。でも肉は食べたい。
その整合性を取るため、殺した者に罪をかぶせて悪者にして、
食べる行為の免罪符にしてるんですね。
「私は思うんです。肉を食べる人も多かれ少なかれ殺生に加担してると……」
これは歴然とした事実です。目をそらしてはいけません。
「「ええ! そんな!」」
「でも、気にしないで下さい。生きるために食べる行為は許されるはずですから。それと動物を殺した人を蔑むのは止めるべきですね。彼らは私達の代理で手を汚しただけですから」
「「……」」
「むしろ、私達の代わりに汚れ役をしてくれた方に感謝すべきでしょう。当然、日々の糧になってくれた動物に対してもですね」
それと、もう一点。
「それと、結婚についてですが、一般の信徒の皆さんは普通に結婚されてますよね?」
「「はい」」
「教会の教義に“純潔“を尊ぶ記載がありますが、結婚はいいんですね?」
※補足※ 純潔は七つの美徳の一つです。
ジェシカ「そのあたりは教会勤めの信徒は気にしてるようですが、一般信徒は気にしていません」
なるほど、出家組と在家組で運用を分けてるんですね。ご都合主義と言えるかもしれませんが、この場合は現実的運用として、許されそうな気がします。そもそも、たくさんいる信徒の行動を一律に規制するのは無理な話でしょうから。
法王国は国民のほとんどが信徒です。もし信徒全員が結婚しないなら、国が滅んでしまいますから、そうだとは思っていました。ただ、トップの法王は初代クラナス以降、ずっと独身だったようなので、そういう空気感(独身=純潔)はあるんでしょうね。
さて、次の質問です
「出家信徒の結婚について、どう思いますか?」
ジェシカ「普段、純潔の教えをされてますから、少し矛盾を感じます」
チベル「そうですね。いい感じはしません」
やはり、そうでしたか。
「私は聖王陛下と結婚してますが、それによって汚れた感じはまったくしていません」
ジェシカ「あっ!? そんなつもりでは!」
チベル「すみません! とんでもない事を!」
「いえいえ、気にしないで下さい。皆さんの率直な意識を確認したかっただけですから。ただ、これだけは言えます。純潔と結婚は矛盾するものではありません。結婚したら汚れるというのは行き過ぎた考えだと思います」
「「……」」
「結婚しようが、子供を産もうが、人の魂はそんなことで汚れるものではありません。むしろ、魂の錬磨につながると確信しています」
「「……」」
あらっ、教会の説法みたいになってしまいましたね。
でも、二人もしっかり聞いてくれたようです。
教義には素晴らしい事が書いてありますが、それを過度に追求すると、初代法王クラナスのように、辛く厳しい状況になってしまいます。
幸か不幸か、旧クラナス教会はそのあたりをご都合主義(?)で乗り切ったようですが、いずれ整理した方がいいかもしれませんね。独身が続く歴代法王で、私が初めての既婚法王になりますが、そもそも、純潔を絶対視して、独身法王の土台(慣行)を築いたのは、私の前世、クラナスです。前世の後始末は今世でしませんとね。
陛下の弁ではありませんが、結婚を否定したら、人類は滅びてしまいます。一人静かにそういう考えを持ち、静かに生活する分には、個人の人生判断として目を瞑りますが、その考えを世に広めようとするのは頂けません。クラナスの場合、積極的に広めようとまではしませんでしたが、その立場ゆえ、影響力があり、周囲の者が習ってしまったんです。(特に歴代法王が)
歴代法王は神の代理人として神聖視され、絶対的な権限を持つようになりましたが、独身のため世襲されず、法王が代替わりする度、権力争いが激化したのでしょう。現在、そのような状況はありませんが、先を見据えた場合、対策を考えた方がいいかもしれませんね。世襲制か……
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




