表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
761/1904

第761話 新緑の探究者(ボース村)3

 引き続きミア視点です。彼女の本名はミア・セレイド・ギルフォード、主人公の側近であり、妃ですが、共に過ごすうちに学んだギルフォード流交渉術について語ります。

「もっと速く進みませんか?」


「ダメですよ。ゆっくりという約束でしょう?」


「ですが、このままだと暗くなってしまいます」


「その点は大丈夫ですから、気にしないで下さい」


「はぁ」


 馬車の窓越しにジェシカ隊長が顔を覗かせ、馬車の速度を上げるよう進言してくるが、軽くいなしました。実は移動手段を徒歩から馬車に譲歩する際、速度を遅くする条件を飲んでもらっていたんです。ふふふ、これも譲り合いの交渉術ですね。


 元々、徒歩の予定だったので、途中で夜になるのは想定していましたが、馬車なら急げば、夕方までに到着できるとジェシカ隊長は踏んでいたんでしょうね。

 

 でも今回の目的は国内視察もあります。普段行かない郊外をよく視察しておきたいですからね。それにはゆっくり進む必要があります。観光気分はありますが、決してそれだけではありません。


「「「わぁ」」」


 思わず、みんな、声を漏らす。馬車が都市部を抜けると、一面に耕作地が広がってきました。大いなる自然の恵みは有難いものですね。自然と笑みが浮かびます。


 隣席のラーシャが外の風景を見ながら、話しかけてきました。


「お母様、結構、農作物が育っていますね。クラナス島は不毛の地と聞いておりましたが?」


「ふふふ、もう不毛の地ではありませんよ。農業改革を推進しましたからね」


「流石はお母様です」


「私の力は大したことありません。皆さんの努力の賜物ですよ」


 私と陛下アレスの【成長促進】スキルは食料危機の時しか

 発動しない設定ですが、ここまでくればもう大丈夫でしょう。


 それにしても、よくここまで耕作地を広げることができました。


 あっ、沿道で手を振ってる方がいますね。こちらも手を振りましょう。


 この辺りは私も前に来ましたから、当初の荒地と今の状況の違いがはっきりと分かります。きっと住民の皆さんもそうなんでしょうね。私が手を振ると笑顔で振り返してきました。


 この馬車は旧法王が使用していた物であり、豪華な装飾が施され、私の趣味ではありませんが、巡行で目立つのはいいかもしれません。それに就任式の際、思いっきり私の顔が受信機テレビで国内外に放送されましたから、民が私に親近感を持ってくれてる感じがして、いいものです。


※補足※

法王国内では各家庭に受信機テレビはありませんが、人が集まる場所に大型モニターの受信機テレビが設置されており、主に国内向け公報に使われています。法王国という特殊環境を考慮して、番組内容は国内の教育番組(教会関係)が中心です。連邦放送局長のサラはミアの娘であり、この地の放送については、全面的にミアの意向に沿っています。


 私は本当に法王になったんですね……

 

 まわりが私を法王として認識するのを見てると、

 その感慨は否が応でも強まってきます。


 法王になると、人とのやり取り、交渉事も必要ですが、ギルフォード流交渉術は私に合っています。通常なら相手を力でねじ伏せ、その力でごりごり相手を押し込んでいくんでしょうが、それをせず、先制してこちらから譲歩するのはいいですね。これならお互いに禍根を残しません。


 その代わり、こちらが譲歩したんだから、そちらもお願いしますよ。というスタンスです。つまり、相手に自らの意思で譲歩してもらうのです。決して強制ではありません。


 譲り合いの精神、そのものです。


 ただ、これを成立させるには、双方の信頼関係、そして正確な情報認識が必要です。今回の場合、私の護衛の力を相手が見誤ってましたので、力を見せましたが、あくまで情報として見せただけで、威圧するのは本意ではありませんでした。


 例えば、蟻が象に喧嘩を売った場合、それを買うのではなく、蟻は相手を自分と同じ蟻と勘違いしてる場合もありますので、「相手は象です」と教える必要があります。


 ほとんどの対立は情報不足、情報誤認識が原因だと思いますので、それが解決すれば、問題の半分以上は解決したようなものです。


 もし、双方が最初から相手の事をよく知り、状況も把握して、相手を思いやる気持ちがあれば、お互いが譲り合う状態になるでしょうから、交渉にすらならないでしょう。


 こちらが譲歩した時、相手がどう出るかで、相手の本性が分かります。譲歩を思いやりと受け止め、恩には恩で返すタイプ、譲歩を弱さと受け止め、さらに譲歩を迫るタイプ、譲歩を疑心暗鬼に受け止め、不気味に思うタイプ。


 私は陛下アレスとの付き合いが長いので、

 実務の際、それを見てきましたが、ものの見事に分かれます。


 今回は教会関係者ですし、恩には恩を返すタイプだろうと分かっていましたが、

 実際の現場ではそれ以外のタイプが多いです。


 それなら、ギルフォード流交渉術は

 役に立たたないじゃないか?


 と思われるかもしてませんが、続きがありました。


 こちらが譲歩提案したのに譲歩しない。もしくは、さらなる譲歩を迫ってきた場合、第四の交渉術が発動します。それは――


 “譲歩取消し“です。


 実は最初の状態に戻っただけですが、相手からすれば、押し込まれた感じを受け、少なからず動揺するでしょう。要は覚悟を見せるわけですが、いったん引いてから押すは、相手によって有効です。


 例をあげれば、子供にお菓子を見せて、宿題をさせようとして、「もっとお菓子をくれるなら、宿題をする」なんて、駄々をこねる場合です。「じゃあ、お菓子をあげない」と引っ込めれば、効果覿面でしょう。欲しいものを見せて、引っ込める交渉術ですが、物欲の強い相手には有効です。


 それでも譲歩しない場合は第五の交渉術が発動します。それは――


 “道徳的優位性の主張“です。


「私は譲歩しました。なぜ、あなたは譲歩できないのですか?」という問いかけになりますが、譲歩できない相手に対し、道徳性を説く形になります。ポイントは相手を変えるのではなく、相手自身に自分から変わるよう促すことですね。


 そして最後、第六の交渉術は“相手に道徳的責任を取らせる“になります。


「私は譲歩したのに、あなたが譲歩しないせいで、交渉がまとまらなくなります」ですね。交渉決裂したら、そちらの責任、こちらは努力したのに、そちらは努力しなかったという追い込みになります。


 この結果、最終的に交渉決裂になっても、相手はこちらに禍根を持つ事は少ないと思います。なぜなら、その原因は自身にある事が明白だからです。


 もっとも、法王国でここまでこじれたことはありませんが、陛下アレスはギルフォード商会の現役時代、しばしばあったそうです。


 ギルフォード流交渉術

一、相手の情報不足、情報誤認識を正す。

二、先制譲歩で相手の出方を伺う。

三、相手に譲歩を促す。

四、譲歩取消しで相手の出方を伺う。

五、相手に道徳的優位性を主張する。(やんわり)

六、相手に道徳席責任を取らせる。(やんわり)


 見て分かる通り、ギルフォード流交渉術は道徳性が高いです。というより道徳そのものです。だから、相手の道徳性が高ければ高いほど、早く決着が着きます。


 巷によくある交渉だと

一、相手に情報を与えず、攪乱させる。

二、先制攻撃(威圧、脅し)で相手の出鼻をくじく。

三、相手に譲歩を促す。

四、譲歩したら、もっと譲歩させる。

五、相手から悪者と思われる。

六、相手から恨まれる。


 こんな感じでしょうか。力任せで攻撃的、威圧的で、相手の気持ち等、お構いなしです。一時的に利益を得るかもしれませんが、一回の取引で相手から恨まれ、信頼関係を構築できず、長期的取引は望めないでしょう。


 私は商売のことは詳しくありませんが、商売にも、いえ、人との関わりが深い商売こそ、道徳が必要だと思います。道徳を重んじるギルフォード商会が発展するのは当然の道理でしょう。


 あらっ、延々と続く穀物畑の様子を眺めていたら、交渉術なんて、世俗っぽい事を考えてしまいました。やはり法王という立場は政治的でもあり、世俗的でもあるんですね。旧法王達がそっち方面に走ったのも、ちょっと分かる気はします。


 でも、だからこそ、自らを律する必要があるんでしょう。

 今の私なら、それができるはずです。


 何と言っても、あの陛下アレスに見込まれたのですから……



 ◇    ◇    ◇



 そろそろ、見知らぬ場所ですね。

 

「ミア様、耕作地が途切れました」


 メヌールが声をかけてきましたので、応えましょう。


「このあたりに来ると、もう荒地ですね。私も詳しくありません」


「ミア様のお詳しくない場所ですか? それなら油断できませんね。私もしっかり警戒します」


「ええ、頼みます……」


 メヌールは馬車の中でも、護衛意識はまったく変わらず、常に周囲を気にしています。いかにも彼女らしい。彼女はギルフォード王国の要人護衛隊長であり、かつ連邦護衛隊長でもあります。護衛に関して、プロ中のプロと言っていいでしょう。


 以前、チルザーレ王国の案件を受けた時、彼女一人で王城内の兵士をほとんど無力化したのは圧巻でした。しかも誰一人殺さずにです。


 ※参考※ 第570話(神聖結界)


 護衛だけなら、彼女一人でも十分な位ですし、今回の案件なら余裕でしょう。だから、本音で言えば一緒に楽しんでもらいたいんですよね。でも彼女は私を護衛する事に強いやり甲斐を感じていますので、あえて「気楽にしてもいいですよ」とは言わないようにしています。それこそがプロに対する敬意だと思うんです。


 しかし、馬車はどんどん荒地に入っていきますね。幸い、平地が続いていますが、あちこち雑草が生い茂り、先程より路面状況は悪くなったようです。


 ガタッ(馬車が揺れる)


「あらっ、揺れてきましたね。お母様」


「そうですね。このあたりは人の手が入っていないようです」


 ラーシャは王国で馬車に乗る機会が多いでしょうが、王国の路面はきちんと整備されてますから、それと比べたら、大きな揺れを感じることでしょう。


 それでも、流石、法王用の馬車と言ったところ。

 緩衝材もあり、乗り合い馬車のような揺れはありません。


 そう思っていたら、前方の扉が開き、御者ぎょしゃ

 を務めているチベル隊長が顔を出してきました。


「法王猊下、この辺りから、荒地が続き、道が悪くなりますが、お体、大丈夫でしょうか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


「この分だと、速度を落とさざるを得ません」


 ふふふ、今回はゆっくり視察が希望だから、むしろ好都合です。


「ええ、いいですよ、ゆっくりで。遠方までゆっくり見ることができますから」


「お気遣い、感謝致します。その分、先方に到着するのが遅くなってしまいますが……」


「それも気にしていません。大丈夫ですよ」


「しかし、もう、日がだいぶ傾いてきました……」


 あと数刻もすれば、日が暮れるでしょうが、まったく気にしていません。


「大丈夫ですよ。私が何とかしますから」


「はぁ、そうですか」


 皆さん、日が暮れるのを心配されてるようですが、

 私には備えがしっかりあります。その時が来たら教えてあげましょう。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ