第760話 新緑の探究者(ボース村)2
引き続きミア視点です。
ガタガタ、ガタガタ、ガタガタ。
今、私達は不本意ながら馬車に乗っている。この地は道路の整備状況は王国ほど良くないようで、ガタガタと少し耳障りな音がします。やはり王国の道路は素晴らしい造りだったんですね。今更ながら実感します。
ビローチェ「主人、なんか思ったのと違う感じになってしもうたのう」
メヌール「う~む……まあ、これはこれで……」
ラーシャ「まあ、たまにはこういうのもいいんじゃないですか?」
私達『新緑の探究者』のメンバーはボース村に向かっている。でも、私達が思い描いたのとはかなり違うスタイルになりました。というのも私達四人は馬車に乗っているんです。徒歩でのんびり行くつもりでしたが、様相が大分変りました。
しかも、変わったのはそれだけでなく……
~回想~
出発前、城の門の前で私達四人が待っていると、
リンクス司教が息を切らせながら戻ってきました。
ジェシカ隊長ら聖騎士隊と一緒に……
「法王猊下、異端の村に行かれるなら、私達もお供します!」
開口一番、ジェシカ隊長から強く言われてしまいました。
ふぅ、こうなりそうだったから、こっそりと出発しようとしたんですが、
そうは問屋が卸しませんか。そうですか。そう来ましたか。
しかも――
「私達もお供します!」
何と、警備隊のチベル隊長まで来てしまいました。
「ええと、ちょっと待ってください。私達は四人だけで大丈夫ですよ」
「いえ! 護衛三人だけでは無謀です!」
「そうです! 法王猊下の御身に何かあったら大変です!」
すかさず、ジェシカ隊長とチベル隊長に反論される。チラッと見ると、リンクス司教が「うんうん」という感じで頷いています。う~ん、私の行動を読んでいたのですね。リンクス司教だけなら、言い含め易かったのですが、二隊長が加わると圧が違います。
まあ、法王国の防衛を預かっている身ですから、
当然と言えば、当然なのでしょうが、しかし、これでは数が多すぎますね。
こうして足止めを食らっている間にも、人が集まってきました。たぶん、百人は超えているでしょう。こんなに連れて行ったら、先方にどう思われるか……
もう一度、言ってみましょう。
「この護衛三人は一騎当千の猛者です。本当に十分なんですよ」
「「いえダメです!!!」」
二隊長が揃って反対してきた。う~ん、これじゃ埒が明かないですね。でも、この状態を非常に喜ばしく思っている自分もいます。旧法王時代なら、法王に向かって反論など絶対にできなかったでしょうからね。健全な国家運営で反論は大いに結構なことです。
しかも彼らは自分のためでなく、真に法王国のことを考えて動いています。私と陛下が理想とする国に近づいていますね。ふふふ。
でも、それはそれです。このままだと前に進みません。旧法王なら、強権で押し通したんでしょうが、私はそういう手法を取りません。じゃあ、どうするか。
意見が対立する場合、それを解決する手段が“交渉“です。陛下がよく使われるのを見てきましたから、私も自然と覚えてしまいました。丁度、この場面だと使えそうですね。
では使いましょう。ギルフォード流交渉術を。(笑)
第一、“意見の違う相手に対し状況認識させよ“です。この場合、彼らは護衛三人を過少評価していますから、護衛の実力を教えてあげる必要があります。
ちょっとビローチェに念話しましょう。
(ビローチェ、ちょっと、向こうの人にあなたの力を見せてあげられますか?)
(おお、主人、それを待っておったぞ)
(でも、いいですか。あくまで力を見せるのが目的ですからね。決して、殺したり、大怪我させないで下さいよ)
(うむむ、手加減か、どうすればいいんじゃ)
(あなたの長い手で足払いすれば十分です)
(しかし、またすぐ立ち上がったら)
(そしたら、また足払いすればいいですよ)
(そんなもんでいいのかや?)
(ええ、それで十分です)
よし、作戦会議終了!
「では、ジェシカ隊長、聖騎士隊から、十人、いやに二十人ほど、選んでくれますか?」
「えっ、どういうことでしょうか?」
「私の護衛の一人が相手をしますから、力を見て下さい」
「ちょっと待って下さい。一対二十ですか!? 無謀ですよ!」
「ふふふ、無謀かどうかは、戦ったら分かります。もし負けたら、あなたの言い分を聞きましょう。でも負けたら、こちらの言い分を聞いてもらいますよ」
「うぅ、わかりました」
◇ ◇ ◇
急遽、正門前で、冒険者一人と聖騎士隊二十人の戦いが始まりました。しかし、聖騎士隊の面々の表情は真剣ではなく、中には「やれやれ」「嘘だろ」といった感じで頭をかく者までいます。まあ、相手がたった一人ではそうなるのも分かりますが、外見で人を判断すると痛い目に合いますよ。
「じゃあ、始めようかのう。ふぉ、ふぉ、ふぉ」
ビローチェが不敵な笑みを浮かべ、腕組みすると、聖騎士達がじりじりと近づき包囲しました。多数が少数に対峙する際、包囲戦を選ぶのは兵法の常道でしょうが、これでは返ってビローチェの思う壺です。
皆さん、ちょうど、ビローチェの手が届く範囲に入ってしまいました。
ですが、彼女はまだ顔色変えず腕組みしたままです。
じりじりと、円が小さくなっていきます。中の者に逃げ場はありません。
普通なら、この時点で勝負ありでしょう。
ですが、今回の場合、包囲する側だけでなく、包囲されてるビローチェ
もそう思っているのが面白いところです。
ジリ!
聖騎士が勝てると確信し、突撃できる間合いまで近づいた瞬間!
「「「うおおお!」」」
一斉に剣で振りかかる。
「うわっ! 死んだ!」
見物人から思わず声が漏れる。
普通なら、二十本の剣が一斉に向かえば、防ぎようがない。
まさに絶体絶命の状態でしょう。しかし――
バシイイイイイイイイイイイイイイイ!
「「「うわああああ!」」」
瞬時にビローチェの手が長くなり、ムチのようにしなって、聖騎士達の足を払う。ビローチェが両手(アルラウネの蔓)を伸ばしたまま、その場をグルっと回った状態です。
「痛てて、何が起こった?」
「いきなり倒されたぞ? 何だ、一体?」
良かった。ビローチェはちゃんと手加減してくれました。彼女が力を入れたら、魔獣ですら真っ二つに切断してしまいますからね。彼女にとっては本当に撫でた程度でしょう。
「降参するかや?」
「はっ? 何やら得たいのしれない技を使ったようだが、傷一つ無いぞ!」
「そうか? じゃあ、もう一度いくぞえ」
バシイイイイ!
「うわっ」(転ぶ)
「何の何の! これしき!」(立ち上がる)
バシイイイイ!
「うっ」(転ぶ)
「まだまだ!」(立ち上がる)
バシイイイイ!
「ひゃ」(転ぶ)
「くそっ」(立ち上がる)
バシイイイイ!
「ぐあっ」(転ぶ)
バシイイイイ!
バシイイイイ!
バシイイイイ!
聖騎士達は立ち上がる間もなく次々と転げまわる。
「どうじゃ、まだやるか?」
「「「うううぅぅ……」」」
ビローチェの手は動きが速い為、聖騎士達は何が起きているか分からないでしょう。得体の知れない技で何度も倒されれば、底知れぬ恐怖を抱くはずです。
まわりを見ると、みんな、ビローチェの力を肌で感じたようです。目の前で二十人が一人に対し、為すすべもなく手も足もでないのですから、当然ですよね。
聖騎士達が地に膝をつき、動きが止まりました。皆、意識はあるものの、戦意は大幅に喪失したようです。膠着状態ですが、私の方から切り出しましょう。
「ここまでにしましょう。私の護衛の勝ちでいいですね?」
すると――
「ま、待って下さい!」
ジェシカ隊長が待ったをかけてきました。でも、はっきり言いませんとね。
「どう見ても、私の護衛の勝ちですよね?」
「た、確かに、護衛のお力は分かりました……」
「それなら……」
「で、ですが、私の隊員達も負けを認めておりません!」
う~ん、手加減が裏目に出ましたか。
でも、不殺生主義により、それしか選択肢がないんですよね。
では、しかたありません。
「わかりました。今回は引き分けにしましょう」
「そうですか(ホッ)」
客観的に見て、ビローチェが勝っているのは一目瞭然ですが、ここでは勝負をつけるのが目的ではなく、あくまで「力を見せる」のが目的でしたから、これで良しとしましょう。それに、こうすることで、聖騎士隊の名誉を守ってあげたという心理的な貸しもつくれます。
交渉術の第一は成功しました。次に第二です。
「聖騎士達の皆さんの心意気に免じ、譲歩しましょう」
ギルフォード流交渉術“先制譲歩“です。
「つまり、私達の随行を許して下さると?」
「はい、そうします」
「「「おおおお!!!」」」
聖騎士隊と警備隊の皆さんが一斉に声を上げる。
余程、嬉しかったんでしょうが、続いて交渉術の第三が発動します。
「但し、人数は制限させて頂きますよ」(にっこり)
そう、第三の交渉術は“相手にも譲歩を迫る“です。
「「「えっ! そんな!」」」
ここで畳みかけます。
「私も譲歩したんですから、そちらも譲歩をお願いしますね」(にっこり)
「「「うっ」」」
~回想終了~
ふふふ、あれで結局、聖騎士隊十人、警備隊十人まで減らすことができました。あの状況で最初から、この人数を提示したら、反対されるのは分かっていましたので、柄にもなく交渉術を使ってしまいましたが、こうすることで、お互いの妥協点を見い出せ、後々、禍根を残さないようにできるんですよね。
ただ、計算外だったのは……
パッカ、パッカ、パッカ、パッカ(馬車の音が聞こえる)
聖騎士隊も、警備隊も馬に乗るため、
移動手段に馬を勧められてしまったんですよね。
「私達四人は徒歩でいいです」
と言ったのですが、
「法王猊下が徒歩なら、私達も歩きます!」
と返された。でも警備隊はともかく聖騎士隊は
甲冑を身に着けており、徒歩は相当きついでしょう。
それに聖騎士隊から馬を取れば、それだけ彼ら自身の
防御力を弱めてしまいますので、それも気になりました。
私達四人は馬に乗れません。王族なら乗馬ぐらい嗜むものでしょうが、生憎、私もラーシャも平民上りの王族ですから、そんな器用なことはできません。
第一、冒険者は馬に乗るものではありませんからね。
そういう訳で、私達は馬車に乗ることになったわけです。
「でもお母様、たまにはこういうのもいいんじゃないですか?」
隣席のラーシャが窓の景色を見ながら、満更でもない様子。
まぁ、彼女は王妃で、護衛付き馬車に慣れてますからね。
「わらわはちと不満じゃがのう……」
ビローチェが言うのも無理はない。彼女の場合、馬車うんぬんよりも、引き分け判定されたことが気になっているんでしょう。ちょっとなだめましょう。
「ビローチェ、あれは誰が見ても、あなたの勝ちですよ」
「だったら!」
「だからこそ、勝者の余裕を見せてあげるんですよ」
「勝者の余裕のう……」
「つまり、器の大きさです。こんな小さい戦いなんて気にしないという。もっと言えば、戦いにすら、なっていないということです」
「ううむ」
「戦いは同じ位の力の者同士がするものです。今回は圧倒的にあなたが強かったですから、そもそも勝負になっていないんですよ」
「主人からそう言われると、気持ちが晴れてくるのう」
するとメヌールも私の意図を汲んで加勢してくれる。
「そうですよ、ビローチェ。あれだけ手加減しながら、かつ力の差を見せるのは難しいです。しかも禍根も残っていませんし」
「うむ、分かった。もう気にするのはやめようぞ」
「ははは、そうですよ。その方があなたらしいです」
ふふふ、ビローチェの気分が戻って良かったです。まあ、馬車に乗りながらでも、窓越しに視察できますから、これはこれで良しとしましょう。馬車に乗ってるから、言うわけじゃないですが、“人間万事塞翁が馬“です。
陛下の御言葉でしたが、人の吉凶・禍福は変転し、予測できないので、安易に喜んだり悲しむべきではないということでしたね。
ちなみに馬車の前方は警備隊、後方は聖騎士隊が随行しています。何でも警備隊のチベル隊長は以前、ボース村まで行ったことがあり、道もよく知ってるそうなんです。
聖騎士隊十名、警備隊十名を引き連れていますから、お偉いさんの行幸(遠出)みたいになってしまいました。あっ、客観的にみたら「行幸みたい」じゃなくて「行幸」そのものでした。私は法王でしたね。
しかし、気軽に国内を視察して、ボース村にお礼参りに行くぐらいに考えていましたが、法王という立場はいろいろ面倒なんですねぇ……国内だと遠出もままなりません。
ロナンダル王国の公爵でも、そこまでうるさくありませんでしたが、やはり一国の代表となると格段に違うようです。陛下がお忍びを多用するお気持ちがよく分かりました。冒険気分が観光気分になりましたが、まあ、良しとしましょう。どうせ大陸に戻れば、羽を伸ばせるのですから。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




