第759話 新緑の探究者(ボース村)
ミア視点です。ミアはクラナス法王国の法王の任に就いてますが、ロナンダル王国の公爵(準王族)でもあり、二拠点生活をしています。日中は両国間を行き来し、夜はロナンダル王国(王都の離宮)で子供達と過ごしています。そんなミアの法王国での活動になります。
法王城の執務室でリンクス司教と会議をしているところ。議題の大半が島の農業推進政策であり、農耕地の地理が分かるよう、テーブルの上に島の地図が常備されています。そして地図を見て状況確認しながら、話をするのが日課です。
しかし、こうして地図で見ると、法王国の人口は中心部(法王城近辺)に集中してるんですねぇ。まだまだ周辺の土地で、畑を開拓できそうです。そのためにはいろいろ準備していきませんとね。
そう言えば、先日、陛下から、農具をたくさん頂いていました。
「リンクス司教、各地区に農具はきちんと行き渡りましたか?」
「はい、法王猊下、予定通り配りました」
「そう、これでさらに農作業が進むでしょうね」
「はい、有難いことです」
このリンクス司教は現地民なので現地状況に明るく、かつ関係方面と連絡できるので、本当に助かります。今では私の右腕と言っていいでしょう。
法王国の政治体制(執行部)は次のようになっています。
法王 ミア
大司教 マザーナスターシャ(内政不関与)
司教 リンクス(宰相)
司祭 七人(内務、財政、外交、農業、土建、福祉、学問)
聖騎士隊長 ジェシカ
警備隊長 チベル
お母さん(マザーナスターシャ)は政治には関わらないという約束なので、名目みたいなものです。それに定期的な説法会以外では、大陸の本部にいらっしゃるので、ここでの存在感は大きくありません。実は私も少しずつ説法会への参加を減らしているので、相対的にリンクス司教の存在感が大きくなっています。
ですが、これこそ私と陛下が望んでいたことです。私は前世クラナスのご縁により、この地に来ていますが、法王国のことは法王国の民に決めてもらいたい。それこそが当初から目指していた法王国の自立に繋がりますからね。
内政の件もリンクス司教にどんどん任せ、私はチェック役に徹するぐらいにしていきたいと考えています。チェックならロナンダル王国の内務大臣として培ってきましたから大得意です。
「あれ?」
「どうされましたか?」
「この地図のずっと端の方って……」
「ああ、そこは異端の村ですよ」
異端の村? ああ、ボース村のことですね。「異端の村」という言い回しに抵抗感がありますけど、悪気があって言われた訳でなく、長年、そういう言い方をしてきたようですね。
以前、転移迂回地として、利用した経緯がありますが、法王国とはどういう関係なんでしょう? これまで、少し避けてきた話題ですが、落ち着いてきましたし、ちょっと聞いてみましょう。私の前世の記憶にも、ボース村のことは出てこないんですよね……
「この、異端の村、ボース村ですが、法王国とはどういった関係なのでしょう?」
「えっ、そうですね。教会の教えに従わず、精霊信仰してる村です」
ああ、それで、クラナス島なのに、ここだけ精霊の加護があったんですね。
「精霊って、風の大精霊シルフィードですよね?」
「その通りです」
教会は神を信仰し、ボース村では精霊を信仰してきました。でも、世界樹の精霊アガーシャさんのお話しによると、クラナスがこの島に来る前から、ボース村に精霊信仰があったわけですよね。それなら、後から来た教会が信仰を押し付けるのは余計なお世話かもしれません。
※参考※ 第704話(地の大精霊ノーミード)
信仰の話はいい。そもそも信仰は自由ですからね。
それより――
「このボース村というのは、法王国なのでしょうか?」
「えっ!?」
「?」
「え~と……」
「??」
あれ? リンクス司教が困った表情をしてますね。正直な話、私もよく分からなくて聞いてるんですよね。私の認識ではクラナス法王国は島全体を指しています。でも、よくよく思い出したら、島全体を詳細に確認したわけじゃないんですよね。
少し間を置いて、リンクス司教が返答する。
「……法王国では長年、島全体を法王国と認識していました」
やはり……
「ですが、ある時、島の外れに人里があることを知り……」
「……(それがボース村なんですね)」
「それで、何度か法王国に従うよう持ち掛けたようです」
「教会の教えに従うよう言ったのですか?」
「そうです。しかし、聞き入れられませんでした」
まあ、当然でしょう。精霊信仰があるのですから。
「それで、最後は聖騎士隊を引き連れて、行ったようですが……」
「……精霊の加護で追い返されたんですね?」
リンクス司教が小さくうなずく。
「と言うことは、ボース村は法王国じゃないと?」
「彼らは法王国と、文字通り一線を引いてますから、その認識で合っていると思います」
「なるほど、じゃあ、村というより独立した地域、国ですね……」
「……そうですね。彼らの船に乗せてもらった際、連邦海軍の臨検があって、その際、『ボース国』と呼称していました」
「ボース国?」
「まあ、住民の数も数百人程度ですし、実態は村でしょうが、経済的に自立してますので、国と言えなくないかもしれませんね」
「なるほど……」
でも、その規模で国というのも、かなり無理がありそうですね。
少し実態が掴めてきました。
「ああ! そう言えば!」
何かを思い出したように、リンクス司教が声を上げる。
「どうしましたか?」
「実は以前、食料危機の際、あの村に食料を援助して頂いたことがあったんです。いやあ、いろいろバタバタしていて、すっかり失念しておりました」
「まぁ……」
助けて頂いたのなら、当然、やるべき事は決まっています。
「それなら、一度、お礼をした方が良さそうですね」
「そうですね」
同じ島に住んでるわけですから、仲良くしたいですし。でも、お礼はどうしたらいいでしょう? 食料なら、食料をお返ししましょうか? 法王国には陛下が持ち込まれた食料が多めにありますし、私なら【収納】で持っていくこともできます。
でしたら、誠意を示すため、私が行きましょうかね。ボース村(ボース国?)にもきちんと挨拶したかったですし。ちょっと冒険心が出てきましたよ。まあ、私のいう冒険心は魔物等を倒す危険なものではなく、まだ見ぬ地で自然とふれあい、ワクワク気分で探索するイメージ。法王国は薬草も少なく、探索する機会(名目)がありませんでしたが、お礼参りなら、立派な名目になります。
――――
――――――
~リンクス視点~
先程まで、ミア法王猊下と会談していたが、猊下から「私がボース村にお礼に伺います」と言われ、一瞬、目が点になってしまった。「いやいや、国のトップである猊下が行かれるのは不味いです」とお答えしましたが、頑として聞いてくれません。
いつも柔和で、私の意見をほとんど聞いて下さるのだが、こういう面もあったのですね。それなら、せめて「聖騎士隊を同行させましょう」と提案しましたが、それすら、「友好目的で行くのに、兵は連れていけません」と断られてしまいました。
「ですが、お一人では道中、危険です。何かあったら大変です」
と粘り強く説明し、
「それなら、一旦、保留にします」
と言ってもらえた。
猊下のお言葉に呆れてしまう。一人でボース村なんて無茶だ。
それに万一、猊下の身に何かあったら、一大事です。
猊下はこの国の最大の支援者である聖王陛下のお妃様でも
いらっしゃる。万一の事態もあってはなりません。
しかし、このまま大人しくして下さるか、胸騒ぎがしますね……
ちょっと警戒しておきましょう。
――――
――――――
~ミア視点~
リンクス司教は私の提案を無謀だと思ったことでしょうが、私はこれでもSランク冒険者『新緑の探究者』のメンバーです。そろそろ気分転換もしたいと思っていたので、メンバーのみんなと冒険としゃれ込みましょう。目的地はボース村です。
今回は転移無しで行きましょう。道中の状況もこの目で見たいですしね。
さて、メンバーに念話しましょう。
◇ ◇ ◇
数日後、法王城の正門前にメンバーが集まる。
ラーシャ「ここに来るのは、お母様の就任式以来ですね」
メヌール「ここが法王城、ミア様のお城ですか……」
ビローチェ「おお、大陸の外じゃ。楽しみじゃな。大陸外は聖帝国以来じゃ」
私を含め、みんな既に冒険者の恰好をしている。ボース村自体は転移迂回地として、何度か通ったことはあるが、本当に「通った」だけだ。しかも転移スポットだけ。途中経路はまったく見たこともないし、村の様子も詳しく知りません。
でも、いつも島の地図を見てるから、だいたいの方向と距離は察しがつく。
歩いて数日といったところでしょう。
「さて、皆さん、出発しましょう」
「「「は~~い」」」
しかし、城の門から少し歩を進めたところで、後ろから私を呼ぶ声がします。
振り返ると――
「ミア法王猊下~~~!」
なんと、リンクス司教ではありませんか。
「お待ちになって下さい。お止めになったのでは!?」
「止めるなんて言ってませんよ。保留にしてただけです。それで、やはり行くことにしました。但し、あなたの意見をきちんと聞いて護衛を付けました。これなら大丈夫ですよね?」
「ええ!? 護衛と言っても、たった三人ではないですか!?」
「この三人がいれば十分です」(にっこり)
「いやいえ、ダメですよ!」
「そんなに心配なら、あなたが付いてきたらどうです?」
「えっ!? 私がですか!?」
「ふふ、冗談ですよ。あなたは仕事で忙しいでしょうから結構です」
するとリンクス司教が少し考え込み、
「ちょっとお待ち下さい!」
と言って城に戻っていきました。誰か代わりに連れて来るのでしょうか? 数日不在にする旨、書置きを残して、ひっそりと行こうとしたのですが、あの感じだとリンクス司教は私の行動を読んでましたね。さすが私の右腕です。でも出発を止めるつもりはありませんよ。
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