第758話 住宅購入
芸能人達がついに住宅を購入しました。
~第三者視点~
ここはヨウス領の新興住宅地、ギルフォード商会が平民富裕層向けに開発したエリアだが、最近、その中に一際大きな住宅、いや豪邸が完成した。買主はトップ役者マーミヤである。
その豪邸にマーミヤと恋人のハレッツが引っ越したが、今日は役者仲間を呼び。お祝いをしているところだ。差し詰め、豪邸お披露目会というところだろう。もちろん、マーミヤとハレッツの同棲祝いも兼ねてるが、それは公然の秘密に近い感じだ。関係者は知ってるが、人気役者がファンに配慮して恋人の存在を表に出さないのは、どこかの国と状況は同じなのかもしれない。
「みんな! 来てくれて、ありがとうね!」
「しかし、凄い家ですね!」
「本当ですよ! まるで貴族の御屋敷みたいだ」
「そう? ふふふ」
仲間にそう言われ、マーミヤも満更でもない様子。しかし、立派なのは家だけではない。庭もかなり広い。こんな広い庭は王都では無理だろう。
屋敷回りには侵入除けに高い柵があるが、それ以外にも天然の樹木が屋敷を囲むように生い茂っており、外部から侵入はおろか、様子を伺い知ることさえ不可能だろう。ここでなら、どんなに騒いでも近所迷惑になることはない。
「それじゃ、お庭でバーベキューでもしましょうか?」
「「「バーベキュー?」」」
マーミヤがそう言うと、メイドが肉や野菜の入った大皿を持ってくる。それに庭師が火の準備を始める。彼らは新居購入に合わせ、マーミヤが雇ったのだが、王国職業紹介所から派遣された地元民である。王国職業紹介所からの派遣は職業訓練をするし、身元がしっかりしてるので安心だ。
「うわあ、火が付いた」
「ふふふ、ここで焼きながら、おいしく頂くのよ」
ヨウス領は山の麓ということもあり、木材が豊富である。少し散策すれば、いくらでも燃料が手に入る。それを燃やしてバーベキューをするのが、この地域の日常でよく目にする光景なのだ。
「おお、肉がじゅうじゅう焼けてきましたよ」
「焼けたら、どんどん食べてね、いくらでもお替りはあるから」
「「「は~~い」」」
マーミヤがバーベキューを選んだ理由は外からの方が家の外観がよく分かるのと、広い庭、まわりの自然環境を感じることができると思ったからだ。
「しかし、ここは緑が多くて本当にいい所ですねぇ」
「そうね。朝になると、野鳥がいっぱい来るわよ」
「へぇ、いいですね」
「それに、水と空気がとても美味しいわ」
「すぅ~ 本当ですね。空気が美味しい」
マーミヤの横にハレッツが寄り添い、そっと肩を抱く。
「マーミヤ、ここに来て良かったね」
「ええ」
二人はバーベキューを楽しむ仲間を見ながら、
麦酒を飲み、満足感に酔いしれるのだった。
※補足※
早速、マーミヤがメイドと庭師を雇いましたね。彼らは王国職業紹介所の紹介で来ました。王国職業紹介所は人材を紹介しますが、労働者から手数料を取ることはしません。そのかわり使用者(雇用者)から手数料(一回のみ)を取ります。この手数料は使用者(雇用者)の状況と労賃の額によって開き(無料~労賃半月分)があります。マーミヤの場合、みなしホワイト事業で労賃の四分の一になりそうです。
ちなみにブラック度があるグレー事業は労賃の半月分で、完全なブラック事業はそもそも紹介されません。無料になるのはホワイト事業が短時間労働者を雇い、労賃が一定額以下の場合です。現時点で月額金貨一枚(十万円相当)以下が該当します。
※参考※
第408話(王国職業紹介所)第409話(王国職業紹介所2)
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~ルシャラ視点~
マーミヤさんのところは、役者仲間を呼んで、新居のお披露目会をしたみたいね。うちもやろうかしら? 呼ぶなら、仕事仲間の踊り子と楽師は当然だわね。それに私はモデル講師もしてるから、教え子の役者、歌手も呼ばないと。うう~ん、結構な人数になりそう。
どんな感じでやったらいいか、後でマーミヤさんに聞いてみよう。何たって私もここに新居を買って、ご近所さんになったわけだし。
マーミヤさんの家はまさに豪邸という感じ、庭も広いし家も大きい。ギルフォード商会にいろいろ注文を付けたみたいね。注文と言えば、私の家も大きなこだわりがある。
それは美術館を併設したことだ。元々、大きな部屋に美術品を並べる予定だったが、どうせなら、専用の建物をつくろうという流れになり、住居と美術館を分けたのだ。それと貴重品が多いので、つくりも頑丈にした。美術館は耐火も考慮し、全面石造りだ。
マーミヤさんは豪華さ、私は防災防犯を最優先に考えたが、このエリアは周囲を高い柵で囲んでいるし、領兵の巡回警備もあるので、防犯面は安心だ。
マーミヤさんはメイドと庭師を雇ったようだけど、私もそうしようかな? 後で聞きにいこう。うちの場合、貴重品があるから、余程、信用のある人でないと家に入れたくない。確か王都に紹介所があったわよね。そのあたりも調べよう。
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~ニナッタ・カナッタの父視点~
最近、娘達が故郷に新居を建て、「一緒に暮らそう」と俺と母さんを呼んでくれたんだ。いやあ、涙が出る程嬉しかったね。これまでも資金援助してくれたんで、楽に生活できていたが、本当に孝行娘だ。
地元のみんなも応援してくれてるし、俺も鼻が高い。そう思っていたら、ある日、あの御方がいらっしゃったんだ。受信機では何度も見たことがあるが、聖王陛下、その人だ。
聖王陛下と言えば、連邦で最も有名な御方だ。たぶん娘達よりも有名だろう。でも、聖王陛下は謙遜され、「いや、ニナッタ・カナッタ姉妹の方が有名だよ」とおっしゃった際は、謙遜と分かっていても、嬉しさを隠せなかったよ。
聖王陛下からも一目置かれる我が娘!
本当に嬉しくてしかたなかったね。そんな聖王陛下から、
「ニナッタ・カナッタ姉妹の記念館をつくるから、その責任者になってくれませんか?」
とご依頼を受けた時は、一も二もなく快諾したもんだ。だって大好きな娘に関われる仕事だぞ。俺意外に適任者なんて、いないっての。俺こそが娘達の一番のファンだからな。
よくよく詳しく聞いたら、娘が故郷に住むにあたり、自宅へファンが集まる可能性があるから、それを避けるため、代替先として思慮されたとここと。
なるほどね……
娘は有名人だから、人が集まるのは良い事だと思っていたが、
娘からしたら、自宅にまで来られたら、気が休まらないか……
そう思うと、合点がいく。
娘との関係は良好なはずだが、だんだん、娘が実家へ帰る頻度が
減っていたもんな……
ちょっと俺も浮かれていたかもな。聖王陛下の御言葉で気が付いた。
今後は大きな家で、家族四人で暮らせるから、最高に幸せだ。
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~アレス視点~
「芸能人三本柱への住宅の引き渡しが完了しました」
「おお、三本柱が新居に引っ越したか」
ミローネが富裕層向け住宅の件で、経過報告してきた。僕もあの三本柱のことはずっと気になっていたからね。三本柱というのは、王国専属芸能人で最も有力なニナッタ・カナッタ姉妹、マーミヤ、そしてルシャラのことだ。
「これで、他の芸能人にも広まりそうですね」
「芸能人もそうだが、他の富裕層にも広まるだろうな」
「そうですね。彼らは影響力がありますから」
「うん、影響力がある者はそれを良い方向に使わないといけない」
「良い方向ですか?」
「そう、良い方向。仕事で成功を収め、財を成した者は、それを社会に還流させる必要がある。金は天下の回り物なんだ」
「ふふ、そうですね」
「彼らが家を買えば、それに付随して、土木、建築等の仕事が増えお金が動く。家ができた後も、その維持のため、お金が動くしな」
「富裕層はお金を使う必要がある。まるでギルフォード商会みたいですね?」
「そうそう、だから、彼らにも、いずれ社会貢献に目を向けてもらうつもりだ」
「社会貢献? 寄付ですか?」
「それもあるが、芸能人ならば、チャリティーコンサートというのがある」
「チャリティーコンサート?」
「営利を目的としないコンサートだ。貧困、病気、災害などで弱っている者を元気づけるんだ」
「へぇ、そういうやり方があるんですね……」
「まあ、そのあたりはボチボチだけどな」
富裕層はお金を使うべき。というのは当初、そこまで考えていなかったが、この大陸の実情を知るうちにそう考えるようになった。この大陸では国の税収として、領主(貴族)、農民からの納税(物納)と事業者(商会等)からの納税(金納)で成り立っている。裏を返せば、一般労働者である個人は納税していないのだ。
そのため、領主、農民、事業者以外の個人労働者はいくら稼いでも、納税する必要がない。大部分の個人労働者はそこまで収入が多く無いが、例外がある。
それが芸能人等の富裕層だ。
要は納税の抜け穴だが、だからといって、今更、個人労働者から徴税しようとは思わない。というのも、彼らは納税しない代わりに、国から社会保険(年金、保険)も受け取っていないからね。だから、一般の個人労働者はそのままでいいだろう。
その代わり、富裕層には、稼いだ分の一定額を消費に回してもらい、資金還流してもらいたいのだ。生きたお金が社会に回れば、全体の生活向上につながるだろう。
商人にしても、芸能人にしても、大衆のお陰で富を得たわけだから、その大衆にお返しするのは当然なんだ。返し返されて経済は循環するのだから。ギブアンドテイクは世の常道だ。テイク(もらう)ばかりでは世の中、成り立たない。
その一方、僕は貯金も推奨する。(富裕層以外)
多くの個人労働者に社会保険(年金・保険)が無いからね。働いて、老後や有事(病気・負傷)に備える必要がある。それも頭にあるからこそ、僕は労働推奨政策に注力してるのだ。
前世(日本)の感覚なら、自力で社会保険の備えをすることに不安を覚えるだろうが、その心配はない。そう言える最大の理由は、この大陸ではインフレが無いからだ。連邦会議で連邦通貨発行量を決めているが、インフレが起きないよう、最大限の注意をしている。
前世では資本主義の考えが横行し、年々物価が右肩に上がる経済をまるで、成長経済のように扱っていて、大きな違和感を持っていたんだよね。まるでインフレが善であるかのように。
庶民にとってインフレは物の値段が上がるばかりでいいことはない。しいて言えば、給料も一緒にあがれば影響は抑えられるだろうが、大抵の場合、昇給は後追いだ。だから、庶民の生活は苦しくなる。一方、インフレで喜ぶのは資本家だ。彼らは投下資本(借金)が目減りし、売り上げが増え、手持ち資産(株と不動産)の価値が上昇するからね。
だが、この世界でインフレが起きることはない。なぜなら、資金量は連邦会議で、物量はギルフォード商会で調整できるので、起きようが無いのだ。聖帝国でも同様の処置をしてるしね。
それにこの世界では、金融(金貸し)、証券(債権)等の非実体経済は存在しないからね。現物優先の実体経済だけだ。一部の者だけが儲かる博打的経済さえ無ければ、一般個人でも、将来や有事(病気・負傷)の分も含めて、十分貯金することは可能なんだ。当然、中高年の貯金を狙うハイエナのような連中もいない。
あと、社会保険は無いと言ったが、本当に困った場合のセーフティーネットはしっかりある。教会もそうだし、ギルフォード商会も慈善活動をしてるしね。意外に何とかなるもんだよ。
僕は資本主義から、硬貨主体の貨幣経済を取り入れたが、紙幣(虚偽通貨)、資本(借金)至上主義、際限の無い拡大再生産、使い捨て、依存、博打の商慣行は取り入れなかった。取捨選択は大事だね。
自分さえ儲かればいい、自分さえ良ければいい。という悪行さえ消えれば、個人が努力して稼いだお金が悪党に奪われることはないし、自然と貯まるものなんだ。もし、お金の保管が大変なら、ギルフォード商会の資金保管サービスがお勧めだ。富裕層だけでなく、庶民にも普及してほしいね。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




