第756話 住宅説明会2
住宅について一通りの説明をしたが、芸能人達の意見も聞いてみたい。何しろ平民富裕層向け住宅は初めての試みだからな。これまでの富裕層は主に商人、軍人、冒険者が多かったが、彼らは王国への貢献度が直接的で分かりやすかったから、騎士爵、男爵等の下位貴族に叙せられることもあり、厳密に言えば、平民でなかったりするんだよな。
その点、芸能人は完全に平民だ。(ギロン男爵は置いといて)
束縛の無い自由な立場でものを言ったり、表現するのは平民の特権と言ってもいいだろう。そんな彼らの意見を率直に聞きたいのだ。
「もし意見や質問があれば、何なりと言ってくれ。当然、不敬罪なんてものは、まったく気にしなくていいからな」
するとマーミヤが手を挙げる
「聖王陛下のお話を聞いて、ぜひ自分も家を持ちたいと考えるようになりました」
「おお、それは結構なことだ」
「ですが、ここ(芸能の館)の生活は大変便利です。家を買うのはいいんですが、あのサービスがなくなるのはネックです」
確かにここは衣食住の世話を丸っとしてくれるからな。
でも、その点は大丈夫だ。合理的な解決方法がある。
「それなら、メイドを雇えばいい」
「メイドですか!?」
「貴族等の富裕層は必ずメイドを雇うが、君達も財力から判断して十分妥当だ」
「私がメイドを雇う……」
「貴族のように何人も雇う必要はない。一人、二人いれば十分だ。食事、掃除、家事全般をしてくれるぞ。メイド用の部屋も設けたら猶更いいな」
僕はメイドという職業を高く評価している。王宮で生活して感じたが、彼女達は常に部屋を綺麗にし、生活環境を整えてくれる。屋敷を維持するにはメイドは必須と言ってもいいだろう。
それにメイドの普及は女性の自立を促進する。僕は労働推奨政策を掲げているが、女性の仕事として、メイドのPRをしている。王国職業紹介所でも積極的に職業訓練し紹介してるのだ。
帰宅して「おかえりなさいませ、ご主人様」とメイド服で言われたら、疲れも吹っ飛ぶというもんだ。前世では家政婦というサービスがあったが、完全に家事だけなんだよね。それはそれで有難いサービスだが、この世界のメイドは雇い主への敬意が段違いであり、本当にいい気分にさせてくれるのだ。
家事のプロであると同時に、雇い主(主人)をもてなすプロ、
それがこの世界のメイドだ。この文化(?)をしっかり守っていきたい。
「メイドはいいサービスだぞ。安心して家を任せられる。マーミヤ君、君も家に帰ったら、ご主人様だ」
「へっ? 平民の私がご主人様ですか?」
「まあ、あくまで、もてなす仕事だからな。仕事として、そう呼んでるだけだ。もてなされて、いい気分になるのは構わない。だけど、決して傲慢になったらいけないよ。それに対し、俸給を支払い、感謝するんだ」
メイド教育も必要だが、実は主人教育も必要だろうな。バーモ君(王国職業紹介所長)によく言っておこう。メイドは主人に、家事とおもてなしのサービスをし、主人はメイドに対価と感謝で報いるのだ。決して不平等な関係ではない。
もし主人がメイドに対し傲慢不遜な態度を取れば、王国職業紹介所にクレームが届き、ブラックリスト入りするだろう。そうしたら、もうメイドは派遣されなくなるのだ。(その逆もあるだろうが)
「みんなにも言っておくが、大きな屋敷を維持するにはそれなりのコストが必要だ。室内はメイドが必要だし、建物が壊れたら、補修もしないといけない。何かとお金がかかるが、君達のような富裕層はそういう暮らしをすることにより、新たな仕事を生み、経済を回す責任もあるんだよ。お金を貯めるのは大事だが、そればかりだと経済が回らない。みんなのお陰で今の地位にいるんだから、そのお返しをしよう」
富裕層は経済を回す責任がある。
すでにその仲間入りを果たした彼らにその自覚を持ってもらいたい。
今度はルシャラが手を挙げる。
「私は美術品を収集するのが趣味ですが、物置きとして家を買うのはアリでしょうか?」
ん? 物置き? なるほど、そういう使い道もあるのか……
「アリだと思うぞ。だけど、美術品の管理をするなら、防犯面はしっかりした方がいいな」
「はい……」
「今回の住宅地は防犯面も力を入れているから、お勧めだ。普通の家じゃ厳しいんじゃないかな?」
「確かにそうですね……」
趣味のために家を買う。うん、いいんじゃないか。
今度はニナッタが手を挙げる。
「あのぅ……」
「何だい?」
何だろう。いつもハキハキしてる彼女らしくないな。
「場所はヨウス領だけですか?」
「どういう意味だい?」
「私達姉妹の故郷はカイス領なんですけど、もし家を買うなら、故郷がいいです」
なるほど、場所の思い入れは人それぞれだよな。
「今回の富裕層向け住宅地はヨウス領だが、家だけ建てるなら、カイス領も可能だ」
カイス領の領主はミア(僕の妃)だしな。
「ええ! 本当ですか!」
「だけど、そこは一般人が住む場所だろ? 芸能人が家を建てたら、まわりに騒がれないか?」
「そうです! それが一番の悩みどころです」
一般人が住む場所に芸能人が家を建てたら、どうしたって人が集まるよな。だからこそ、僕は人の少ないヨウス領を選んだのだ。
「何かいい方法はありませんでしょうか?」
「ちなみに君の実家はどうなっているの? 人が集まるの?」
「私達が来た時だけ、人が集まります」
「なるほどね、地元の人だけ集まると……」
「そうなんです」
そうか、カイス領と言えば、ヨウス領ほどではないが、王都から離れているな。遠方からわざわざ、一般のファンが押し寄せるほどでもないか。
「と言うことは地元民対策ってことだね? 何人ぐらい集まるの?」
「だいたい三十人ぐらいです」
三十人か……それなら何とかなるな。
僕が答えを言う前に、彼女の気持ちを確認しよう。
「はっきり言って、そのぐらいの人数なら何とかなる。何とかなるが、君達はその人達をどうしたい?」
「えっ、それは……」
すると、今度はカナッタが続ける。
「集まってくれるのは地元の人で、昔から応援してくれる顔馴染みばかりなんです」
「なるほどね」
昔からのファンか。
「だから、いい関係を維持できれば、とは思います」
「そうだね」
「ですが、毎回、相手をするのも疲れます」
「なるほどね……」
集まる人達が良からぬ連中なら、排除すればいいが、この場合は不適当だな。むしろ大切にした方がいい。だが、毎回の相手は疲れると。何か本人達が相手をしなくて済む方法はないだろうか?
地元のファンはこの二人に好意を持ち、応援したいのだろう。
だから、二人が地元に戻ってきたら、会いに集まる。
第三者視点では、ほのぼのとして、いい光景ではある。
ではあるが……
この状態で、このまま二人が地元で家を買ったら、この状態(集まる)が続きかねない。集まる人に「集まるな」と言うのは排除と同じだ。それなら、集まった上で相手をしない方法はあるだろうか?
ん? ちょっと待てよ、よく考えたら……
「そう言えば、君達は故郷に帰る際、一々、みんなに教えているのかい?」
「えっ! そ、それは……」
「んん?」
「実は父が触れ回っているようなんです……」
「はぁ? それじゃ集まるに決まってるじゃないか?」
「父は私達のことをみんなに話すのが好きなもので……」
なんと、思わぬ伏兵がいたって、わけか。
でも、ブラックをホワイトに転換させるのが僕の真骨頂。
「じゃあ、自己責任ということで、その父親にみんなの相手をしてもらえばいいよ」
「えっ、そんなことができるんでしょうか?」
「そのままじゃ無理だが、一つアイデアがある」
姉妹が真剣な眼差しで僕をジッと見つめてくる。
期待が凄く伝わってくるぞ。
「地元のファンはきっと、君達とのふれあいを求めているんだろう。でも、毎回、生身で対応するのはしんどい。それなら、他の手段を取ればいい」
ニナッタ「え~と、それは?」
カナッタ「何でしょう?」
「ファンの集まれる場所を人為的につくればいい。例えば、君達の記念館とかな」
「「私たちの記念館ですか!?」」
「そこに君達の馴染みのある物をおいて、ファンが思いを馳せたり、談話室を設けて、ファン同士で語りあえるようにするとかな」
ニナッタ「なるほど」
カナッタ「私達の記念館ですか……」
「本人の代わりに記念館がファンを相手にするというアイデアだ」
これは心理学でいうところの「代償」だ。欲求の対象を
本来のものとは別のものに置き換えて、充足することだな。
「そして、君達の父親にその記念館の責任者になってもらえばいい」
ニナッタ「お父さんが記念館の責任者に?」
「記念館の名称は『ニナッタ・カナッタ記念館』にでもしたらいい。そうしたら、家に集まるファンをそちらに誘導しやすくなるだろう」
カナッタ「と言う事は、故郷で家を建てる場合、自宅と記念館の二軒を建てるということですか?」
「君達の保管金残高からすれば、二軒でもどうってことはないよ」
ニナッタ「両親に相談してみます」
「ああ、そうするといいよ」
前世(日本)でも有名人の偉業をたたえて、記念館をつくるケースはあったから、そのアイデアを拝借したまでだが、やろうと思えば、グッズ販売等も展開できるんだよな。グッズ販売と言えば、衣服関係はダルト王国と提携して展開していた。
ダルト王国のデザイナーが服を制作し、ファッションショーでモデルが着こなす。モデルは王国専属芸能人の割合が多いが、「あのモデルが来た服を買いたい」というケースもあるから、一種のグッズ販売と言っていいだろう。
※参考※
第527話 ダルト王国(ファッションショー)
第528話 ダルト王国(ファッションショー)2
だが、有名人等を利用したグッズ販売はこれぐらいだ。それにこの場合はあくまで本品(衣服)がメインであり、キャラクター性は薄いよな。モデルはあくまで、服を着ただけの存在だ。
芸能人はあくまで、芸能がメインというのが僕の考えだったから、積極的にキャラクター商売はしてこなかったが、ファンからしたら物足りないのかもな。時間がある時に考えておくか。
おっと、話を戻そう。
「みんな、僕からの説明は以上だ。あとは、現地につくったモデルハウスを見学してくれ。見るだけはタダだし、見たからといって、買わなきゃいけないなんて事はない。あくまで判断材料の一つだ。具体的な案内はギルフォード商会の住宅事業課の担当にさせよう」
ここで住宅事業課のベルガット課長に引き継ぐ。
既に現地へ簡単に行けるよう、『転移門』を設置済みだ。
さて、ベルガット課長を少ししめておくか。
「ベルガット君、この方達はギルフォード商会に取って重要なお客様だからね。くれぐれも粗相の無いように。決して『売らんかな』の商売をしたらいけないよ。前にも言ったが、扱うのは高額商品だ。買ってもらえれば幸運だろうが、買ってもらえなくても、将来の見込み客様になって頂けるよう、誠心誠意、真心を込めて対応しなさい。お客様あってのギルフォード商会なんだからね」
「わ、わかりました」(汗)
現地はまだ道路と区画の整備中で、建物は建っていないが、モデルハウスだけは急いでつくった。モデルハウスはあくまで参考だが、それを見てイメージを膨らませ、お客さんと担当者が折衝しながら、具体的な設計を詰めていくんだ。
僕が生産系スキルを使えば、ほとんどの工程を省略できてしまうが、それをしなかったお陰で、土木工事、建築工事等、現実に立脚した仕事が着実に育っている。
僕が現実的生産へ舵を切ってから、スキル生産を次々に減らし、現在、僕のスキルで生産してる商品は受信機だけだ。その代わり、魔法研究所の生活魔法アイテムが伸びてきてるが、あれは僕のスキルを使った商品ではないから、問題視していない。
現実的生産へ舵を切った理由は、僕のスキルへの依存軽減だったから、僕のスキルを使っていない魔法研究所の製品はOKとしたんだ。それと、住宅は現実的生産でも、設備は生活魔法アイテムを取り入れるようにする。照明、給水排水、調理、入浴、空調、廃棄排泄等の設備は生活魔法アイテムが群を抜いて利便性が高いからね。これを使わない手は無い。
今回、僕のスキルを使ったのは『転移門』ぐらいだが、あれもいずれレネアにつくってもらいたいね。彼女も転移魔法を使えるが、対象物をきちんと安全かつ確実に転移させるアイテムをつくるには修練が必要だ。レネアは「物」を転移させるアイテムづくりには自信を持っているが、「人」には少し不安を持っているようだ。まあ、そのうちできるようになるだろう。
仮に将来、魔法研究所で『転移扉』『転移門』をアイテムとして、つくれるようになっても、一般に販売するつもりはない。これだけは僕とレネアで厳重管理していきたいね。悪党の手に渡ったら、碌なことに使わないのは目に見えている。以前、法王国の工作員が転移魔法を悪用したのは記憶に新しいしね。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




