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第754話 芸能人の休日~ルシャラ~

 人気踊り子の休日の様子です。

 芸能の館、稽古場


 一人の踊り子が楽師の演奏に合わせ、

 凛とした佇まいで華麗にくるくると舞っている。


 ピ~~ヒャラヒャラ~~ピ~~♪(笛の音)


 トン、トトン、トン、トトン♪(太鼓の音)


 そうそう、この感じ。


 一旦、体を縮めて、力をためて、


 そして、一呼吸置いて、

 鳥のように飛ぶ!


 宙に舞いながら、手を大きく広げ、

 ポーズを決めて着地!


 ダン!(着地)


 うん、決まった。


 パチパチパチ(拍手)


「どう、決まった?」


 楽師(笛・太鼓)の二人が立ち上がり、返事をする。


「良かったですよ。ルシャラさん」


「最後の着地まで決まって完璧です」


 ふふふ、この二人は乗せるのがうまいわね。


「ありがとう。休日の朝から稽古に付きあってくれて助かるわ」


笛「気にしないで下さい。僕らも好きでやってるんで」


太鼓「それより、ルシャラさんは本当に練習熱心ですね」


「う~ん、そうね。私も好きでやってるし、一日でも稽古をさぼると、調子が狂っちゃのよね」


 音楽に合わせて、全身を使う踊りは日々の稽古が重要だ。休日であっても、最低、一時間は稽古をする。でも、一時間なんて私にとって、あっという間ね。ふぅ、いい汗をかいた。シャワーを浴びてから、自由時間を満喫しますかね~


 でも、この稽古場といい、シャワーのある大浴場といい、いつでも使えるのが本当に便利だわ。ここの人達(芸能人)はみんな、休日はバラバラだけど、共通してるのは、それでも週に二日、必ず休日を取るということだ。内務省、娯楽広報部が管轄してるから、労働時間の管理はしっかりしてるのよね。お陰で仕事以外の時間を趣味に使うことができる。ふふふ。


 さて、朝食を取って出かけよう。


――――

――――――


外出先(ある店)


 いつもは楽師達を連れていくんだけど、今日は個人的な趣味の世界に没頭したいから、一人でお店に来た。ここは王都の古美術品店だ。


「いらっしゃいませ、ルシャラ様」


 お店に入ると、普通に名前で呼ばれる。私ってお得意様なのかな? 肩まですっぽり隠れるスカーフを被って、こっそり来てる風を装ってるんだけど、店の人にはバレバレみたいだ。


 芸術性の高い踊りを目指すうちに、絵や装飾品に興味を持つようになり、そのうち古美術品店巡りをするようになったが、王都中のお店はだいたい回ったんじゃないかしら?


「芸能人が街中を歩いて大丈夫?」


 って言われたことがあるけど、踊り子は歌手や役者のように受信機テレビに頻繁に出てるわけじゃないからね。そこまで顔は売れていないのよ。


 私の表現方法はたくさんの人達の目の前でリアルに踊ること。


 だって、受信機テレビじゃ、踊りの迫力は伝わらないもの。じゃあ、生だったら、歌手のように大会場でも大丈夫かと言われれば、それも違う。


 踊りは近くで見ないと迫力が伝わらない。


 だから、サラマンダー広場(最大収容人数二万人)のような大会場はあまり好きじゃない。あれじゃ、遠方からだと、まったく見えないじゃない。シルフィード会館(ワンフロア、最大収容人数千人)ぐらいが丁度いいわ。それも前の方に詰めてね。とにかく近くじゃないと熱気は伝わらないのよ。


 そのせいもあって、踊りを見る人は歌や芝居と違って数が少ない。その代わり、見てくれる方々の層が違うのよね。


 芸術性を求めたので、貴族受けしたんだろう。貴族のお客さんが多いし、実際、貴族の宴会によく呼ばれる。ハークレット部長からは「ルシャラは客単価が高いな」と言われた時は満更でもない気分だったわ。パンタ領とギルフォード島の温泉宿泊施設はいい稼ぎ場、定期的に富裕層向け大宴会が開かれ、踊りの依頼が途切れることはないわ。


 当初から伝統的な踊りが中心だったんだけど、聖王陛下の助言を受けて勉強するようになって、革新性も融合したのが幸いした。あれで古いスタイルに縛られなくなった。聖王陛下のご慧眼は本当に凄いわ。※参考※ 第304話(連邦放送)


 とにかく、そういう訳だから、歌手や役者ほど、一般(庶民)に顔が売れてないし、スカーフで隠せば、街中を歩けるってこと。(その代わり王侯貴族には有名よ)


――――

――――――


 さて、次はどこに行くかな? 今度は新規開拓といきますか。

 だけど、王都でまだ行ってないお店なんて、あったかしら?


 しかし、しばらく歩くと、


「あっ! あそこにそれっぽいお店がある。入ってみよう」


 中に入ると品数が多い。こんないいお店があったんだ。

 私としたことが見逃していたわね。


 店内をしげしげと物色する。


「あらっ、この装飾品はいいわね!」


 ビビッときました。


「すみません、この商品を下さい!」


 と言った後、気付いた。


 ここって、ギルフォード商会のお店じゃないわよね? 雰囲気につられて入ったけど、ギルフォード商会の看板は無かった気がする。さて、どうする。手持ちのお金は大して無い。


 店員さんが来たので確認しよう。


「あの~」


「はい、何でございますでしょうか?」


「ここって、ギルフォード商会ではないですよね?」


「ええ、そうですが」


 保管金払いができるから、なるべくギルフォード商会のお店を回るようにしてるんだけど、装飾品、とりわけ、古美術品は別の商会が強いんですよね……


「ここはどちらの商会ですか?」


「アガッサ商会です」


 アガッサ商会、なるほどね。伝統的な商品が強いわけだ。

 しかし、お金の持ち合わせが……


「ひょっとして、ギルフォード商会で資金保管されてますか?」


「ええ、そうですが」


「それなら、うちでも大丈夫ですよ。ギルフォード商会さんと提携してますから」


「本当ですか!? じゃあ、保管金払いでお願いします」


「それでは、顧客番号と保管証明のご提示をお願いします」


「ええと、顧客番号は0279568です。これがギルフォード商会からもらった保管証明のプレートです」


 金属製のプレートを差し出す。


「すみません。確認させて頂きます。あっ、これはAランクのプレートですね!」


「Aランク?」


「はい、富裕層のランクです」


 店員さんが私を見る顔が明らかに変わる。え~と、私って富裕層なの? 資金保管の際、面倒な手続きはマネージャーにしてもらったから、よく分からないけど、そう言えばAランクというのは聞いた気がする。確かに高価な美術品をたくさん買っているけど、あまり、そういう意識は持ったことがなかった。


 富裕層……私が富裕層ね。


 プレートなんて、みんな同じかと思っていたわ。店員さんが奥に行き、何やら台帳のようなものを確認していますね。ここからじゃ見えないけど、何か私のデータでもあるのかしら?


「はい、確認が取れました。決済の方は問題ございません」


「はい、有難うございます。それと……」


「自宅配送便ですね。もちろん大丈夫です」


 ギルフォード商会は革新性、実用性の高い商品、一方、アガッサ商会は伝統、芸術性の高い商品が得意と聞いたことがあるが、仲が良さそうですね。とにかく助かった。しかし、いくら友好的とはいえ、違う商会同士でここまで提携できるのは凄い。


 そう言えば、アガッサ商会で買った代金をギルフォード商会が私から預かった保管金で払うんでしょ? そうしたらギルフォード商会に何のメリットも無さそうだけど? まあ、いいか。私には関係無いことだ。


※補足※ 

提携店はギルフォード商会の保管金払い、自宅配送便サービスを利用できますが、その代わり、一定の手数料をギルフォード商会に支払います。保管証明のプレートは保管金残高に応じてランク分けされており、F~Sランクまであります。ちなみに、Aランクは富裕層、Sランクは超富裕層と呼ばれています。本来、お客さんの前で使うべきでない隠語ですが、アガッサ商会の店員さんはうっかり口にしてしまったようです。


――――

――――――


次の休日


 今日は本を読もう。


 私が読みたいのは芸術関係の本だけど、こんな本が揃っているのはギースの連邦図書館(本部)しかない。そこに行くのは簡単だ。王都にある連邦図書館(支部)に行って、そこから『転移扉』を使えばすぐ。支部にも結構な量の本があるけど、本部は桁が違う。


 さて、行きますか。


――――

――――――


連邦図書館(本部)


 うわっ、相変わらず、本も多いし、人も多い。そりゃ、そうか。ここは大陸最大の図書館だからね。すぐ近くにある連邦アカデミーからも学生がたくさん来ている。みんな、勉強熱心ですね。さて、芸術関係の所に行こう。


「あっ、新書が出てる! どれどれ~」


 ページをめくる。


 凄い! 色鮮やかな絵画のページ!


 しかし、どうやって、こんな色を出しているんだろう?


 絵画(現物)なら分かるが、それをまるで、複写したようなページだから、訳が分からない。指で擦っても、絵の具を使ってる感じがしない。一体、誰の作品だろう?


 改めて表紙を見る。



 “著者 アレス・ギルフォード・ロナンダル“



 ええ!? 思わず、声が出そうになってしまった。


 聖王陛下だ!!


 あれれ? 聖王陛下って絵画も嗜んでいらっしゃったの?

 あまり、聞いたことないけど……


「どうじゃ、その本、凄いじゃろ?」


 あっ、この声は?


 振り返ると、図書館長のビローチェさん。

 何度も来てるので、顔馴染みになってしまった。


「本当ですね。どうやって描いたんでしょう?」


「それは秘密らしいぞ」


「うぅ、気になります」


「聖王陛下だから、たぶん御力じゃな」


「やはり、そうですよねぇ」


「ここには聖王陛下から、たくさん本が送られてくるが、中には不思議な本もある。最初は気にしておったが、一々、気にしておったら、図書館長などやっておれんからのう。聖王陛下に不思議あり、不思議で当たり前なのが聖王陛下じゃて。ふぉふぉ」


「ははは、そうですね」


「一つ種を明かすと、聖王陛下はこれを“シャシン“と言っておった」


「シャシンですか?」


「そう、現物をそのまま絵にした感じじゃな」


「な、なるほど……」(現物をそのまま絵に?)


 とにかく、ここに来れば、色付きで、まるで現物のような絵をたくさん見ることができる。う~ん、眼福だ。絵を見ると感性が刺激され、それが踊りの創作意欲にも繋がるのよね。


 以前、マーミヤさんと話した時、新しい服を着ると、役のイメージが浮かぶようなことを言っていたけど、私もそれに近いかもしれないわね。


――――

――――――


「あぁ、今日は楽しかった、痛たっ! たっ、たっ! ~~」


 芸能の館に戻り、自室に入ったところで、置物に足をぶつける。先月買った陶器だが、傷つかなくて良かった。足より陶器の心配が上回ってしまう。だって金貨三十枚(三百万円相当)した上物だもの。でも本来、こんな場所に置くべきじゃないのよね。それは私もよ~く分かっている。


 でも、私の部屋は絵画や美術品だらけで、足の踏み場も無いのだ。実は地下の倉庫のスペースも借りてるが、そろそろ限界に近付いている。


 実はこの前も……



~回想~



「ルシャラさん、そろそろ、あの置物、何とかならないでしょうか?」


 芸能の館、管理事務室で、館長からお小言を言われる。

 もう、これで何回目だろうか。返す言葉も決まってる。


「そんな事言わないで、何とかお願いしますよ」


「うう~ん、しかし、あれって高価な物ばかりですよね? 壊したら責任を負えませんよ」


「それは困ります。壊さないよう、しっかり管理をお願いします」


「いや、そこまで責任を負えませんよ」


 芸能の館は内務省の娯楽広報部が管理しており、ここの現場責任者である館長も、娯楽広報部のスタッフだ。昔からの顔馴染みだから、ついつい甘えてしまう。


「頼みますよぉ、館長さん。昔からの間柄じゃないですかぁ」


「うう~む、ルシャラさんにそう言われると辛いですが、私はルシャラさんと違って高給取りじゃないですからね。本当に壊れたら責任取れませんよ」 


 そう言いつつ、しっかり見てくれたんですよね。

 不在時に自宅配送便もきちんと受け取ってくれたし、

 大きな荷物も丁寧に運んでくれた。



~回想終了~



 でも、そろそろ何とかしないとな……

 いつまでも館長さんに無理をさせられない。


 近場で物置を借りる手もなくはないが、私の集めた美術品はどれも高額の貴重品であり、外部保管は非常に心配だ。外部保管するぐらいなら、ここの方がはるかにいい。それにそういう所に押し込めて保管したら、気楽に見ることができなくなってしまう。いつでも自由に見れて、かつ防犯面で心配ない方法は無いものかな。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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