第510話 南北戦争7(魔獣の処遇)
不殺生主義、死刑制度反対について、主人公の思い。
「主~今度は、キマイラが来たぞ~」
「なっ? またか……、キマイラって、獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾をした魔獣だよな? 魔法研究所の本で、レネアと見た覚えがある」
「どうやらそうらしい」
「悪いけど、テネシア。イレーネと一緒に対処を頼む。確か口から火を吐くから気を付けてな」
「分かった。火ならこっちも負けないけどな」
「まあ、そうだろうね。手加減頼むよ~」
「ああ、もちろんだ」
「殺すなよ~」
「ああ……」
前回、エルメス帝国からベヒモスとワイバーンの大群を送り込まれたが、すべて、【魔物使役】スキルで懐柔し、ルカレシア地方の過疎地で保護してるが、毎日、餌をやらないといけないし、周囲に気を使うしで、面倒みるのも大変だ。
「それにしても、主、変わったな……」(少し微笑む)
「んん? 僕が変わった?」
「ああ、昔の主なら、攻めにきた魔獣なんて、即、殲滅してたよな?」
「まあ、そうだな……」
そこへイレーネも加わる。
「私も、なぜか、あの頃よりは魔物を血祭にあげたいという気分は減ってきました……」
「イレーネもか……」
「……うん、じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「ああ、二人とも頼むよ」
エルメス帝国が魔物を再三、送り込んで来るので、今ではテネシアとイレーネに【魔物使役】アイテムを渡して、魔物を懐柔してもらっているが、その度にルカレシア地方の過疎地に送りこんで、いい加減、面倒になってきた。
これまで、ベヒモス、ワイバーン、ゴブリン、オーク、オーガを送り込まれたが、ベヒモス、ワイバーンは百体、ゴブリンは千体、オーク、オーガは二百体と、とにかく数が多い。そして、今回はキマイラだ。
「うぅ、この調子で続けたら、ルカレシア地方は魔物ばかりになってしまうぞ」
僕らが魔物を殲滅しなくなったのは、ルーチンワーク(悪想念収納)が確実に影響してるのだろう。大陸全土から、「憎しみ」「殺意」を収納してるから、魔物ですら、殺そうと思わなくなった。
「しかし、このまま魔物を保護し続けるのは厳しいよな……」
少し前に開催された亜人種族長が集まる会議でも――
~~回想中~~
亜人種族長達が僕に詰め寄る。
狼人「陛下、最近、近くの山でワイバーンが飛んでるのを見かけました! 思わず遠吠えしましたぞ!」
「ああ、あれは一時、保護した奴だ。危険はないから安心してくれ」
羊人「安心? いやいや、子供達がメ~メ~怖がってます」
「えっ、そうなのか?」
てっきり亜人種は魔物に馴染みやすいと思い込んでいたが、思ったより人に近いんだな。
兎人「そうですよ。それに最近はベヒモスやら、ゴブリンやら、オークやら、次々に来てると聞きます。襲われそうで怖いです」
「まあ、そうだな。一時的な措置なんだが……」
馬人「一時的って、いつまでなんですか? 僕の足で逃げられるんですか?」
「ええと、彼らの行く先が決まるまでだな。君の足なら大丈夫だよ。たぶん」
虎人「元々、エルメス帝国から来た者なら、そこへ返したらいいのでは? 抵抗するなら、俺が噛みついてやりましょうか?」
「彼らは召喚され、操られて、ここへ送り込まれたんだから、送り返したら、また、こっちに来ると思うぞ」(噛みついて解決できるか!)
犬人「しかし、このままというのも困ります。なんとかしてもらワンと」
「それもそうだな。対策を考えておこう」
亜人種族長達に厳しい視線を向けられる。
君達、怒ると野生の目付きになるから、普通に怖いぞ。ははは。(冷汗)
~~回想終了~~
ふぅ~日頃、温厚な亜人種族長達だけど、あの時は本気だったな。自分達の領地の近くに得体の知れない者が来たら、そりゃ不安になるだろう。彼らの気持ちはよく分かる。だけど行先が決まって無い状態で彼らを放逐することもできない。ましてや処分なんて非道なことはできない。
魔物とは言え、こちらの世界の都合で、勝手に召喚され、勝手に操られ、そのあげく処分されたんじゃ。あまりに可哀そうだ。
彼らはエルメス帝国から来たが、元々は召喚魔法により、魔界から呼ばれたんだろう。
「ううむ、彼らを魔界に帰すことができたならなぁ」
残念ながら、僕は召喚魔法が使えるが、元に戻すことはできないんだよな。
「彼らを元の世界に戻すことができたらなぁ。すべてが丸く収まる」
そう、強く願った時だった。
一瞬にして意識が遠のいていく。
この感覚は……
――――
――――――
気が付くと、白く光り輝く世界
ああ、神界に来たな……
目の前に神様(四柱)がいる。
創造神様(男神)、時空神様(女神)、現象神様(女神)、生命神様(女神)……
先程の僕の願いが通じたのかな?
「その通りじゃ」
創造神様が間髪入れないでそう告げる。そうだ。ここは口に出さなくても、思いが通じる世界だった。
「それでしたら、魔物達を元の世界に戻せる力を下さい」
「そうじゃな。そなたが考える通り、勝手に呼んで、勝手に処分するのは、生命の冒涜になるからのう」
「命の冒涜ですか?」
「命は誰のものでもない。ましてや他者の命をぞんざいに扱うなど、あってはならないことじゃ」
すると生命神様が
「生命を大切にしようとする貴方の考えに共感します」
そして現象神様が
「私の範疇は世界の中の現象を動かすこと。世界をまたぐ場合は、時空神殿が範疇になる」
その言葉に合せて、時空神様が前に進み出てきた。
「これから【帰還】というスキルを構築します。これは対象を元の世界に戻すスキルです。あくまで、元に戻すだけです。本来あるべき場所に帰すと言ってもいいでしょう。魔界から来た魔物は魔界に帰っていきます。ただ【帰還】スキルを構築しただけでは、この世界で雲散霧消してしまいますので、【帰還】スキルをこの世界に顕現させて、すぐに現象神に協力してもらわねばなりません」
そう言うと、時空神様は目をつぶり、意識を集中させていく。
「【帰還】スキル顕現!」
光のエネルギーが現れる。あれがスキルの元なのか……
それを見た、現象神様が光のエネルギーを両手で包み、玉のように凝縮していく。
そして、僕に向かって
「【帰還】スキルを【伝授】!」
エネルギーの玉が僕の体に入り、全身に衝撃が走る。
「ううううぅ!」
これは凄いエネルギーだ。
すると時空神様が僕の方を見ながら
「本来、時空に干渉するのは神の専権事項であり、タブーです。しかし、貴方なら大丈夫でしょう。あくまでも元に戻すだけです。異世界に無理やり召喚されて、居場所が無くて困っている存在に使うといいでしょう」
これは有難い!
「神様、ありがとうございます!」
これで魔物達を帰すことができるぞ!
――――
――――――
「ゴブリン達を【帰還】!」
千体いたゴブリン達が一瞬でいなくなる。
「主、また凄いスキルを開発したなぁ」
「これが、新しいスキル、【帰還】ですか」
ここはルカレシア地方の「魔物保護地域」(仮称)だが、早速、神様から頂いたスキルでゴブリン達を【帰還】させた。
目の前の魔物達が消えるのは、外見上、僕の【収納】と変わらない。事情を知らない者が僕の【帰還】を見たら、魔物を消滅させ、討伐したように見えることだろう。でも、魔物を魔界に帰し、こちらの世界も平和になるわけだから、実質、同じようなことだろうな。
この後、オーク、オーガ、キマイラ、ベヒモスも【帰還】させていき、最後にワイバーンが残った。
「これで最後ですね」
「ああ、そうだな」
イレーネと話してる最中、テネシアがワイバーンに餌をあげている。
そう言えば、テネシアはワイバーンを可愛がっていたよな。
「気に入ったのかい?」
「そうだな。こいつらとは気が合ったみたいだ」
「じゃあ、確認して見るか」
「【動物会話】! ワイバーン達、元の世界に帰りたいか?」
すると、意外にも「ココノクラシガイイ」との返事が来た。
「どうして、ここの暮らしがいいんだ?」
「タベモノニコマラナイ」
「それだけか?」
「アンシンシテクラセル」
う~ん、なるほどなぁ。魔界は行ったことが無いが、向こうから見れば、こちらの世界はそこまで悪くないのかもな。
結局、ワイバーン百体はそのまま「魔物保護地域」(仮称)で暮らすことになった。次回の亜人種族長会議で説明するが、他の魔物はご帰還頂いたんだから、許してもらおう。あとはワイバーンの飛行場所だな。もっと奥地を飛んでもらうとしよう。
◇ ◇ ◇
聖帝城の執務室で一人思索に耽る
しかし、魔人や魔王がわざわざこの世界に来るのも、ひょっとしたら魔界がそこまで居心地に良い場所でないのかもしれないなぁ。もし、魔界が良い所なら、ここに来る必要ないよね。
そう言えば、前世にいた時、面白い話を聞いたことがある。十人のグループがクルーザーに乗り、海上で一泊した時、五人が喫煙者だったとのこと。それで二つの部屋にそれぞれ、喫煙者、非喫煙者と分けて過ごしたそうな。クルーザーの中の部屋は狭く密閉されていたが、非喫煙者のグループはゲームをしながら、快適に過ごしていた。
しかし、しばらくして、喫煙者のグループからクレームが出た。それは「喫煙者ばかりでは部屋中が煙たくて息苦しい。分煙とグループ分けはやめよう」と言うものだった。
この話を聞いた時、薄ら寒い人間の本質を感じ、ギョッとしたものだ。
今回の話は喫煙者と非喫煙者の話だが、仮に世界を嘘つきと正直者に分けたら、きっと正直者は快適に暮らし、嘘つきからクレームが出るだろう。「騙す奴がいない。だから正直者とグループ分けをしないでくれ」と。
もし、世界を攻撃的な者と平和を好む者に分けたら、きっと平和を好む者は快適に暮らし、攻撃的な者からクレームが出るだろう。「攻撃する奴がいない。だから平和を好む者とグループ分けをしないでくれ」とね。
他者に迷惑をかける存在は隔離されるのを何よりも嫌がる。それは他者がいないと自らの欲望を満たせないからだ。だからこそ、逆説的に言えば、そういう存在は隔離するに限る。息をするように他者に迷惑をかける存在はそれができなくなると、七転八倒の苦しみとなるのだ。
殺し屋はまわりが大人しい羊ばかりなら、お山の大将気分でいられるが、同じ殺し屋ばかりが集まった世界なら、さぞかし息苦しいだろう。まさに地獄そのものだ。殺し屋も殺されたくはないからね。
それで、気が付いた。
ひょっとして、魔界とは魔の存在を隔離するために世界なんじゃないかと。確かに魔界と区分が無かったら、この世界は大変なことになってしまうだろう。魔界とこの世界に区分があるのはきっと神様の恩寵なんだろうな。
僕は不殺生主義だし、死刑制度も反対だが、その代わり、罪人の隔離、労役による贖罪、更生を徹底的に推進している。どうして死刑制度に反対かと言うと、僕は100%、輪廻転生を確信しているからだ。死刑にしても、いずれ転生する。現世で悪行ばかりした者は心から更生しないと、また来世で同じことを繰り返すだろう。これが最大の問題なのだ。
「馬鹿は死ななきゃ治らない」という言葉があるが、あれは真実ではない。実際は「馬鹿は死んでも治らない」である。生きてる間に学び気付くしかないのだ。
つまり死刑にして、目の前から悪党が消えたように見えて、それは来世に場所を移しただけになる。もっと簡単に言えば、悪党を来世に避難させただけである。要は単なる先送りだ。それどころか死刑にされた悪党はより強い恨みの念を持って、転生することになるだろう。状況はかえって悪化する。
魂の修行の機会を奪う死刑制度は魂の成長に反するのだ。
せっかく、縁あって、この世に生まれたわけだから、生きてる間に、徹底的に悪因縁を解消すべきだ。僕のいう悪因縁とは憎しみや殺意等の悪想念を生み出す行為と同義だ。
だから、生きてる間に悪想念を生み出さないよう改める。
これこそが人生の最大の課題と言っていいだろう。
悪想念こそ、魂の自由を奪う拘束具であり、魔界や地獄に通じるものだが、
それをつくり出しているのは他ならぬ自分なのだ。
人生を無為に過ごし、憎しみや殺意を好き勝手に増長させてしまったら、魔界落ちもありうるだろう。人は誰しも闇落ちするリスクを孕んでいる。だからこそ常に謙虚な気持ちと自重が必要だと思うんだ。
傲慢、有頂天になったら絶対にいけないね。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




