第511話 南北戦争8(制空権の確保)
「アレス様~今度はイビルホークが来ました~」
「はぁ、またか……」
イレーネの報告に思わずため息をついてしまう。
イビルホークを鷹の魔物だが、人の背丈を超える大きさで、羽を広げて上空を旋回すると、空の王者のような威風が漂う。鋭い眼光、先が曲がったくちばし、大きな爪が特徴であり、彼らに狙われたら、地上の動物は逃げることが難しいだろう。
ここのところ、イビルホークによる上空侵犯が続いている。こいつはワイバーンと比べたら、単体の戦闘力は落ちるが、とにかく数が多い。毎回、三百体もよく召喚できるよな。
しかも、面倒なことに――
「主、国境のマキシ将軍の報告によると、イビルホークはこっち(聖帝城)に向かわず、バレシア地方の上空を飛び回っているらしい」
「はぁ……」
そうそう、これだ。召喚された魔獣はこれまで僕を狙って、一直線に聖帝城に向かってきたから、そのままテネシアとイレーネが【魔物使役】アイテムで無力化し、後から僕が余裕を持って【帰還】スキルで元の世界へ返す流れだったんだが、最近はこっちに来ないで、国境近くの保護領バレシア地方の上空を飛び回っているんだよな。
これじゃ、わざわざ向こうまで行かなきゃいけないし、上空を飛び回っている間、住民達が怯えるので、地味にストレスが溜まっていく。(動き回ってる奴は遠隔収納もしづらい)
う~ん、これ嫌がらせだろ?
保護領はただでさえ、避難したばかりで、不安な気持ちを抱える住民が多い。こういう神経戦を好き好んでやってくるとしたら、あの魔賢者しかいないな……。奴の性格が分かる。
しかも保護領の上空を低く飛んでるから、威嚇効果が高いし、住民を巻き込むから、極大魔法も放てない。それに僕が「魔物を殺さない」「先制攻撃してこない」のも、読んでいるなぁ。
敵と同じ土俵に立ちたくないが、こちらの領空を好き勝手にされるのは気分が悪い。一応、実害が出てないから、様子見してるが、ストレスが溜まるのも実害と言えば、実害だよな。
幸か不幸か、昔より、忍耐力が上がったため、我慢できてしまう自分がいるが、これって、どう見ても、我慢のための我慢だよな? そういう我慢をする必要があるのだろうか?
※エルメス(ルカレシア)大陸の支配地概要※
【北】
亜人地域(ルカレシア地方)ルカレシア聖帝国の都
人間地域(ルーラス地方)ルカレシア聖帝国
【西】人間地域(ガレシア地方)ルカレシア聖帝国【東】
人間地域(バレシア地方)エルメス帝国 ←★聖帝国の実質保護領化
人間地域(バルン地方)エルメス帝国
人間地域(メス地方)エルメス帝国の都 ※通称「本国」
【南】
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<エルメス帝国・皇帝城・支配者の間>
皇帝キース・サンドラ(魔王憑依)と魔賢者エルライナが円卓を囲む。宰相カバール(魔竜憑依)が既に倒されており、帝国は二人で動かす状況になっている。
「直接、奴(聖帝)を狙わないでいいのか……」
魔王がエルライナに問う。
「これまで何度も魔獣を聖帝に向けましたが、まったく効果が出ていません」
「それはそうだが……」
「魔王様の感覚からすれば、敵は聖帝で、聖帝を倒すことに集中したいのは分かりますが、それではうまくいきません」
「しかし、だからと言って、保護領の住民を怖がらせて、意味があるのか?」
「ございます。先ず、住民が怖がれば、魔王様の糧になります」
「まあ、それは確かにそうだな。最近、負の想念がよく集まる」
「それに、聖帝は国民が苦しむと、自分も苦しみます」
「なんと! それは真か?」
「我らとはまったく違う思考回路の持ち主のようですな。以前から薄々気付いておりましたが、今回の魔獣攻めで確信しました。これを責めない手はありません」
「それが奴の弱点ということか」
「保護領に恐怖を与えれば、魔王様の糧になりますし、聖帝は消耗するはずです。それに聖帝はもう一つ弱点があります。それは自分からは攻めてこないということです」
「くはは、それはそうだな。正義のヒーロー気どりだな」
「本当に甘い男です」
「よし! それなら、これからも毎日、イビルホークを飛ばすぞ!」
「その意気です。魔王様!」
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これまで、エルメス帝国から、魔竜、長距離弾、連続魔獣召喚と、一方的に攻撃されてきたが、そろそろ、いい加減にして欲しいという感じになってきた。イライラゲージがどんどん上がっている。
長距離弾の簒奪で、戦意喪失を期待したが、いまだに攻撃を続行しているとは、呆れるばかりだ。しかも今度はイビルホークで保護領に執拗な嫌がらせを続けている。
「こちらがまったく応戦しないから、甘くみてるのかもしれないな……」
かと言って、今さら、敵と同じ土俵に乗って、命のやり取りなんて、真っ平ごめんだし、ここは「力の差」を見せつけるしかないだろう。本来、この状況になれば、冷静に判断して、「力の差」を見極め、大人しくなるはずなのだが、それをしないところを見ると、既に敵は冷静な政治的判断はできない状態なのだろう。客観的に見て、あの帝国は破滅に向かっているような状況だ。
それなら、嫌でも「力の差」が分かるようにしよう。
仏の顔も三度までだ。(とっくに三度は超えてるが)
先ず、制海権の確保、もう、魔竜もいなくなったから、再び、エルメス帝国の周辺海域まで軍船を出そう。しかも、今回は前回のように沖合ではなく、堂々と沿岸まで航行させる。漁師達の生活を脅かすつもりはないし、彼らの仕事を邪魔することは本意では無いが、とにかく「聖帝国の国力」を肌で感じ、国中に広めて欲しいのだ。
そして、今までは自重してたが、もう遠慮はいらないだろう。次は制空権の確保だ。エルメス帝国の上空も一気に制圧してしまおう。イビルホークごとき侵入させない。丁度、ワイバーンが来てるから、あれを活用しない手はないな。ふふふ。
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<ルカレシア聖帝国・聖帝城・執務室>
制空権の確保に向けて、御前会議を開くことにした。
出席者は僕、テネシア元帥、イレーネ宰相、
ルザン筆頭内政官、ビイネス財務官、
バハナ大将、ブリント将軍、ギラン将軍、マキシ将軍だ。
それに最近はイグナス教会代表も加わっている。見ての通り、軍人が多いから、聖職者を加入させて、バランスがよくなった気がするよ。
僕「エルメス帝国の周辺での制海権を奪還したが、続いて、制空権も確保したいと思う」
バハナ「制空権ですか? う~む……」
僕「知っての通り、僕は戦いを好まない。しかし、敵はそれをいいことに一方的に攻めてきている状況だ。これを止めさせるには力の差を分からせるしかない。そのためには敵への威圧が効果的だ」
バナナ「それで、制海権を確保し、続いて制空権というわけですな。しかし、制空権はどうやって確保するのですか? 飛行船でしょうか?」
僕「飛行船でも十分威圧になってるだろうが、あれには攻撃能力が無い。そちらが来るなら、いつでも攻撃できる姿勢を見せたいんだ」
バハナ「すると、飛行船以外ですか?」
僕「ああ、ワイバーンを使おうと思う」
一同「「「ワイバーン!?」」」
僕「皆が驚くのも無理はないが、現在、『魔物保護地区』(仮称)で、調教しており、集団で連れて飛行するぐらいは簡単にできるようになった」
バハナ「そうだったんですか」
僕「ワイバーン軍団をエルメス帝国の上空で好き勝手に飛ばし、たまに空中で火を吹かせれば、嫌でも力の差を思い知るだろう。イビルホークなんて目じゃない」
すると、イグナス教会代表が口を開く。
「……これまで聖帝陛下は避難する帝国民に対して、ずっと慈悲の対応をされていましたが、ご心境が変化されたのでしょうか?」
「う~む、そうだな。帝国民に最大限配慮して、本格的な応戦は避けてきたし、避難民には慈悲的行為を続けてきたが、これだけだと、敵は僕らを甘くみて、攻撃を継続してくる。攻撃が愚かだということを教えるためには、力の差を分からせるしかない。一時的には混乱するだろうが、むしろ混乱して、内乱がおこり、帝国の支配者がその座を降りるように促したいのだ」
「なるほど……、聖帝陛下のご真意を理解しました。あくまで一時的な措置ですね」
「その通りだ。それと、ワイバーン軍団の指揮はテネシアとイレーネに頼むよ」
「ああ、分かった」「分かりました」
「あとは帝国内の工作活動を強化してくれ、これまで通り、避難民の救出は続行するが、『帝国は聖帝国より弱い』『皇帝が無謀な戦争を続行している』『もうじき帝国は滅びる』等、どんどん宣伝して欲しい。これは嘘でも何でもく、本当のことだからな。頼んだぞ。マキシ将軍」
「了解しました」
「イグナス教会代表は避難民の救出活動を引き続き頼む」
「承知しました。聖帝陛下」
支配地からの略奪で成り立っているエルメス帝国は、それができなくなり、急速に国力が低下している。それで国内に重い負担を敷いたが、それを嫌がった住民が次々と流出中。人口が減れば、残った住民への負担がさらに重くなり、それでもっと流出が加速する。完全に負のスパイラル状態だ。その上、制海権を抑えられ、経済はジリ貧の一途だ。
今回、新たに制空権を抑えれば、帝国内の不安と混乱に拍車がかかるだろう。住民が困る姿は見たくなかったが、膿を出すためには多少の荒療治は必要だ。言い方はアレだが、「必要悪」だな。善行だけでは、この世を動かすことはできない。清濁併せ吞まないと。
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――――――
エルメス帝国、バルン地方
「うわああ! あれは何だ!」
「空に魔獣がたくさん飛んでるぞ!」
「うわあ! 火を吐いたぞ!」
「もう、終わりだ!」
三人(僕、テネシア、イレーネ)でワイバーンを引き連れ、エルメス帝国の上空に入る。途中、イビルホークを見かけたが、発見次第、どんどん【帰還】スキルを発動させる。
街中の者が恐れおののいてるなぁ。そりゃそうか。侵略者として、今まで一方的に攻める側だったのが、こうして、侵入されてるんだから。
僕「ははは、下は大騒ぎだな」
テネシア「ワイバーン達も気持ち良さそうに飛んでるぞ」
僕「これからも頻繁に連れて来よう」
イレーネ「このあたりはバルン地方というんですよね」
僕「ああ、そうだな。バレシア地方が保護領になったから、その隣がバルン地方か。ずいぶん帝国の都まで迫ってきたんだな」
【北】
亜人地域(ルカレシア地方)ルカレシア聖帝国の都
人間地域(ルーラス地方)ルカレシア聖帝国
【西】人間地域(ガレシア地方)ルカレシア聖帝国【東】
人間地域(バレシア地方)ルカレシア聖帝国の保護領
人間地域(バルン地方)エルメス帝国 ←★ワイバーン軍団飛行中
人間地域(メス地方)エルメス帝国の都 ※通称「本国」
【南】
バルン地方は帝国(本国)への不満が大きく、すでに多くの避難民がこちらへ来ている。これだけ人が抜ければ経済もガタガタだろう。そこへ上からワイバーンを飛ばしたら、帝国の威信も地に落ち、残った兵士達も聖帝国側に寝返るんじゃないだろうか。
ちなみにワイバーン軍団は住民(主に兵士)への威圧が目的なので、低空飛行し、わざとらしく空に火を吐かせたり、咆哮をあげさせたりもした。迫力はイビルホークの比ではない。
まあ、百体ものワイバーンが目の前を飛んだら、誰でも怖がるよなぁ。
しばらくはバルン地方上空で、ワイバーン軍団との飛行を楽しむとしよう。
ずっとやられっぱなしだったから、気分がすっきりするよ。
これで敵の戦意が喪失すれば、いいんだけど、どうだろうね。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




