第505話 南北戦争2(最新兵器)
後ろを振り返ると、崩れた壁から、一人の男が入ってきた。しかし、見るからに怪しげな表情であり、確信に満ちたように、こちらへ歩を進める。
「お前は誰だ!」
この男が放つ異様なオーラから、常人でないことはすぐ察することができたが、この場には僕以外にテネシア、イレーネまでいる。どんな相手であっても、対処できるだろう。
「【鑑定】!」
えっ! 弾かれたぞ! こいつ、鑑定阻害スキルを使っているな……。しかし、これで確信できた。こいつは人間ではない。ただの人間が僕の【鑑定】を弾くなんて、ありえないからだ。
「陛下! ネズミを退治したぞ!」
「その者は一体、なんですか?」
そうこうしてるうちに、二人がネズミを退治したようだ。相変わらず二人の仕事は早いね。あれはこの男を侵入させるための陽動作戦だったんだな。でも、この程度の陽動ならどうということは無い。
「こいつは危険だ! 普通の人間じゃない。いや、おそらく人外だろう」
二人も男に集中する。
侵入までは良かったが、三対一、勝負はすぐつくだろう。
そう思った。その時――
んん? 念話か。バハナ大将か。
(どうした?)
(大変です。陛下! 先ほど、城のすぐ近くの山に大きな衝撃が発生しました!)
(衝撃!? 敵か?)
(分かりません。しかし状況から、この城を狙っているようです)
(くっ、すぐいく!)
テネシアとイレーネを見ると、念話のやり取りを聞いていたようで、小さく頷く。
「悪い、二人でやってくれるか?」
「陛下、私ら二人いれば、大丈夫だ」
「どうぞ、お城の方へお戻り下さい」
「悪いな……、万一の時はアレを使ってかまわないからな」
「ふふ、分かった」「わかりました」
「聖帝城へ【転移】!」
後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にしたが、
二人なら、大丈夫だろう。
しかし、続けざまの陽動、小賢しいやり方だな。以前は力押し一辺倒だったが、こういう仕方をするということは指揮官が変わったんじゃないか。あの魔賢者の臭いがプンプンするぞ。
――――
――――――
聖帝城に戻り、バハナ大将と窓から外を見る。
「これは酷いな……」
城の近くの小山が吹き飛んで変形している。
「これは一体、なんでしょう? もの凄い衝撃がありました」
この世界に住む者がこの状況を初めて見たら、何が起こったのかまったく分からないだろう。しかし、僕なら分かる。これは、長距離弾が着弾した跡だ。
しかし、ここはエルメス帝国の本国(都)から、相当離れてるぞ。しかも、途中に何重にも防壁の結界があるはずだし……
まさか、防壁のはるか上空を飛んできたというのか!?
と言うか、それしかあり得ない。敵の最新兵器だ。頭上の対空にまでは結界を張って無かったからな。この世界でそんな攻撃が来るとはまったく想定していなかった。
「バハナ大将、これは敵の最新兵器だ。おそらく長距離弾だろう」
「長距離弾!? 一体、どういう代物でしょうか?」
「大砲よりはるかに遠くまで届き、大砲よりはるかに破壊力があるものだ」
たぶん命中精度や爆発力は魔力で上げてるな。
「状況から、この城を狙ったんだろうが、外れたみたいだな……」
「良かったですね」
「ああ、不幸中のさいわ……ん?」
ちょっと待てよ。本当に一発だけか? 嫌な予感がするぞ……
緊急事態だ。スキルを使おう。
「こちらに向かってくる長距離弾を指定して【探索】!」
うおおおおおお!
十発の長距離弾がこちらに向かっている!
ヤバ過ぎるぞおおおお!
――――
――――――
~少し前に遡る~
<エルメス帝国・帝国城の近くの軍事施設>
「ふはは、ついに新兵器が完成したぞ。これで奴を倒すことができる」
皇帝キース・サンドラ(魔王憑依中)が興奮気味に話す。目の前には黒光りする長い砲塔と大きな砲弾が積んである。
「これはただの武器ではない。我が魔力の補助により、遠方まで飛び、そして敵を確実に倒すことができる」
すると魔賢者エルライナが口を開く。
「魔王様、おめでとうございます。これは敵の本拠地まで届くのでしょうか?」
「ああ、もちろん届く」
「使い魔が確認したところ、敵の本拠地までの間には何重にも結界が張られてるようですが」
「それは承知している。だが問題ない。奴の結界は壁の近くだけだから、上空からの長距離弾には成す術もないだろう」
「さすがは魔王様です」
「では、早速、攻撃を開始するとしよう」
「お待ち下さい、魔王様。聖帝は不可思議な技を使います。ここは正面攻撃だけでなく、陽動もされた方が……」
「なるほど、そなたは知恵が回るのう」
「いえ、それほどでも」
「我の魔眼により、敵の城に照準を合わせ、長距離弾を魔力で誘導していくが、最初の一発目は誤差が生じて外れるだろう。だが、その後は誤差を修正するから、百発百中だ」
「それは凄いですが、一発目で気付かれてしまいますね」
「ふはは、例え気付いたとしても、二発目は数分後で、逃げる時間も無いわ」
「なるほど」
「第一、陽動作戦で奴は動けないだろう」
「聖帝の慌てふためく姿が目に浮かびます」
「だろうて、ふはははは」
――――
――――――
<バレシア地方・検問所前>
テネシアとイレーネが男と対峙し、あたりは緊張感に包まれる。
両者見合って、一歩も動かない。
そして、その近くで――
「早く逃げろ!」
「ここは危険だ!」
衛兵達の声が響く。住民達もこの状況を察し、すでに避難を開始しているが、二人の表情がいつもと全然違うので、衛兵達も後退りする。
「ここは私らが対応する。お前達は住民を連れて逃げろ!」
「わ、わかりました! テネシア元帥、あれはエルメス帝国の宰相カバールです。何やら様子がおかしいですが、間違いありません。ご武運を!」
その言葉を残し、衛兵達もその場を後にした。
そして、その場は三人だけとなった。
「これで、心置きなく戦えますね」
「そうだな」
二人がそう呟くと、みるみる体中のエネルギーが高まり、オーラも強くなっていく。二人とも戦闘モードに移行した。
すると、ずっと黙っていた男が口を開く。
「ははは、この世界にもこれだけの力を持った者がおるとはなぁ。だが、私の敵ではない」
「なんだと! 貴様! 人間の姿をしているが、人間じゃないだろう!」
「ふふふ、ご名答、なら正体をみせてやろう」
その言葉が終わるや否や、宰相カバールから黒いオーラが抜け出し、空中で固まっていく。
「なんでしょう!? どんどん大きくなっていきますよ」
「これは、魔獣!? 頭に角、口に牙、長い首、大きな翼、鍵爪……」
「これは竜です! しかし、なんと邪悪なオーラでしょう」
「はははは! 邪悪とはよくも言ったものよ! 我が名は魔竜カサンドラ! この姿を見たからには生きて帰れないと思え!」
テネシアが長剣、イレーネが短剣を取出す。両方とも『異次元品質』の剣だ。普段はアレスにより自重(使用禁止)を命じられているが、魔竜相手なら、自重する必要はない。
「デカ物は動きが鈍いって、相場で決まってる!」
【飛行】したテネシアが一気に魔竜と距離を詰め、長い首に一太刀を加える。
「カキーン!」
「うっ、固いな!」
「小癪な!」
魔竜が鍵爪でテネシアを攻撃したが、それを難なくかわす。
「くっ、矮小な竜人風情が!」
「矮小!? なんだと! てめえ!」
「ほら、こっちへ来い。我のブレスで焼き付くしてくれよう」
魔竜が正面から来るテネシアに意識を集中させていたところ――
ブスッ!
イレーネが後方から首筋を短剣で差し込む。
「くっ、このエルフめ!」
魔竜が一瞬、後ろを見た瞬間――
「おら! 前ががら空きだよ!」
ブスッ!
今度はテネシアの長剣が魔竜の首に突き刺さる。
「ぐおおおおお!」
あまりの痛さで魔竜が羽をバタつかせたが、その羽が凶器となって、二人を襲ったため、二人も距離を取る。
「ふっ、なめておったわ。この体に傷をつけるとはな。しかし、この程度の傷、どうと言うことはないわ」
すると魔竜が黒いオーラを拡散し、そのオーラが傷口を塞いでいく。
「傷が修復されていきます!」
「なっ、自己再生か!?」
「ふふふ、竜人とエルフにしては中々やるのう。しかし、ここまでだ」
そう言うと、魔竜の黒いオーラがさらに大きく広がっていった。
――――
――――――
<ルカレシア聖帝国・聖帝城>
【探索】で十発の長距離弾がこちらへ向かって来ているのは把握した。問題はどうするかだ。停止してるか、遅い物体なら、そのままマーキング(脳内視覚認識)して、【収納】すれば、それまでだが、対象の速度が半端でないため、しっかりマーキングできない。点じゃなくて、線状に来てるんだよな。どうするか?
だが、三次元で線の動きを確認すると、おおよその目的地は推察できる。
冷静になれ、幸か不幸か、十発とも、ルカレシア地方、しかも、この聖帝城近辺を狙っている。バラバラに狙っていたら、どうしようもなかったが、敵は余程、僕に対する敵意が強いらしい。これなら対処のしようがある。
高速で動く長距離弾を【収納】できなくても、固定してる物体なら、簡単に【収納】できる。
ああ、もう長距離弾が近くまで迫ったきたぞ。やるか。
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「そして、【転移】!」 その数秒後――
ドカアアアアアアアア―――!!
ドカアアアアアアアア―――!!
ドカアアアアアアアア―――!!
ドカアアアアアアアア―――!!
ドカアアアアアアアア―――!!
「うわあ、凄いなぁ……」
上空から十発の長距離弾が城周辺に着弾したのを確認したが、大きな穴ができてしまった。(後で修復しておこう)しかし、本当に聖帝城(僕)を狙ってのピンポイント攻撃だったな。
まあ、そのお蔭で周辺に被害が無かったが、
もし分散攻撃されていたら、ヤバかったぞ……
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