第504話 南北戦争1(勃発)
ついに南のエルメス帝国と北のルカレシア聖帝国の戦端が開かれます。
「どうぞ、こちらに食べ物が用意されています」
「体調の悪い方はいませんか? こちらで休んで下さい」
「聖教会、聖帝国は皆さんを歓迎します」
聖帝国の保護領となったバレシア地方をテネシア、イレーネらと視察に来ているが、聖教会の信徒たちが熱心に活動をしている。彼らはこれまで、エルメス帝国の目を逃れて、目立たないようしてきたが、地域内への帝国軍侵入を阻止したことにより、安全が保証され、正常に活動できるようになったのだ。
聖教会の活動(慈善活動)がそのまま聖帝国の活動(避難民救助活動)になっているのが、少し笑えるが、こういう時、政教一致だと擦り合わせも簡単だ。正直なところ、宗教は詳しくないが、人は心の拠り所を求める存在であり、帝国の圧政に苦しんだ人々には心のケアになるんじゃないだろうか。政治は合理、宗教は非合理で相いれない面もあるが、違いで仲違いするのではなく、不足を補い合えればいいんじゃないかな。
日本史を遡ると、権力者が政治のトップであり、宗教のトップであった時期が長く続いたが、あれも政教一致だよね。民が何らかの「心の拠り所」を求める限り、国として、きちんとしたものを提示する責任があるというのが僕の見解だ。日本の戦後は占領軍の影響により、強制的に政教分離が推し進められ、国が宗教に関われなくなってしまったが、その間隙をついて、おかしな宗教が広がってしまった。まあ、あれは宗教というより、集金目的の偽装宗教だったけどね。
僕がぼおっと聖教会の活動を眺めながら、
考え事をしていたら、テネシアが話かけてきた。
そうだ。今日は三人で視察に来てたんだっけ。
「あの食料は全部、陛下が用意したのかい?」
炊き出しのパンとスープ(具沢山)が目に入る。
テネシアは僕の生産系スキルを熟知してるもんな。
「ああ、そうだよ」
と小声で答えたが、さらに「素材(材料)は?」と聞いてきたので、
「まあ、適当にな……」
と濁しておいた。実はちょくちょくルカレシア地方の亜人地区でイナゴのような虫が大量発生するので、それをまとめて【収納】し、糖、アミノ酸、ミネラル等に分解して、それをパン、肉、野菜等に再構築(【加工】)して【取出し】たのだ。一度、出せば、後は【複写】するだけだから、簡単。ちなみにパン、肉、野菜と言ったが、厳密に言えば、疑似パン、疑似肉、疑似野菜だ。成分は本物と変わらないが、生き物ではない。僕は細胞複写までは可能だけど、流石に生物の複写は無理だからね。
「ええ、素材が何か気になりますねぇ~」
今度はイレーネが聞いてきた。
「いやぁ。聞かない方がいいと思うよ」
別にイナゴ食に偏見を持つわけではないが、「知らぬが仏」じゃないだろうか。それこそ僕が本気(?)を出せば、汚泥や排泄物からであっても、食べ物をつくることができる。しかしね。それは余程の事がない限り絶対にやらない。ポリシーの問題だ。
僕は「自分がされて嫌なことを人にしない」主義なんだ。
そう考えていたら、さらにイレーネが追及してきた。
「ええぇ、そう言われると余計に気になります」
やはり彼女達には隠し事は難しかったか。
しかたない。話そう。
「この前、ルカレシア地方の害虫退治に行っただろ? あれだよ」
「なんだ、害虫が素材だったのか」
テネシアが事もなげに言う。
「おいおい、気にならないのかい?」
「子供の頃は私らもよく食べたものさ」
「え~と、イレーネは?」
「私も頂いたことがあります」
「ああ、そうだったのか、でも、他の人には言わないでくれよな」
「言うわけないよ」
「そうです」
「ははは、そうだったな。二人は口が堅いもんな」
冗談を言いながら、防壁の検問所の方へ歩を進める。この避難民はみんな隣のバルン地方から来たからね。バルン地方はエルメス帝国の支配下にあるが、検問所は完全閉鎖せず、無害な避難民をどんどん受け入れてるのだ。
ちなみにこの防壁は高く強固であり、この世界の通常兵器ではまったく歯が立たないだろう。剣、槍、弓、投石等もそうだが、分厚い石造りで、銃弾も効かない。唯一、効くとすれば、大砲の砲弾による集中砲火だろうが、それについても対策済だ。防壁自体が一種の魔法アイテムであり、防壁を破壊しそうな攻撃が来たら、自動的に【結界】を張る仕組みになっている。
さらに防壁に近づくと【認識偽装】が発動し、聖帝(僕)や聖帝国に敵意がある者を失明状態にさせてしまうという念の入りようだ。まあ、ずっと失明状態だと可哀そうなので、敵意が無くなるか、その場を離れて、一定時間経過すれば、解除するようにはしている。
失明状態になった者は自軍に戻っても、恐怖で喚き続けるので、戦意喪失には絶大な効力を発揮するし、一度、その恐怖を味わった者は二度と聖帝国へ侵入しようとしなくなるだろう。
◇ ◇ ◇
検問所につくと、僕ら三人の顔を見知っている衛兵が敬礼をしてくる。僕ら三人の来訪はマキシ将軍から軍関係者に伝達されてるようだな。僕らの顔は連邦では、受信機を通じて知れ渡っているが、この地では上層部しか知らない。だから、こうして【隠蔽】無しで視察できるのは有難いことだ。
検問所では長い列ができており、途切れることがない。一応、【鑑定】アイテムを検問所の衛兵に渡し、聖帝国に害を為さないか確認した上で、入国させているが、この検問所に近づくには防壁の【認識偽装】の発動要件「聖帝や聖帝国に敵意が無い」をクリアする必要があり、検問所に来れた時点でほぼほぼ大丈夫ではあるけどね。
すると、なんとなく怪しい感じのする一行が検問所に近づいてきた。なぜ怪しいかと言うと、全身を外套で隠すように覆っているからだ。しかも三十人ぐらい……
「なんか、怪しいな……」
テネシアが呟く。しかし、【認識偽装】が発動しない。
う~ん、単なる恥ずかしがり屋さんの一行かな?
それにしても異様だなぁ。
検問所の衛兵が【鑑定】を作動して、質問を開始する。
「どこから来た?」
「あ、あ、バルン地方だ。あ、あ」
「全部で何人だ?」
「う、う、さ、三十人だ、あ」
「仕事は何をしている?」
「の、の、農民だ」
一人の男がぎこちなく答えるが、その際も外套で全身を隠したままだ。
どう見ても、怪しすぎるだろう。
横を見たら、テネシア、イレーネも何か察したようだ。
「陛下、あいつら、危険だ!」
「入れてはダメです!」
そうだな。そう思い、検問所の衛兵に声をかけようとした瞬間――
「うおおおおお!」
なんと、三十人の一行は一気に検問所を通り抜けていった。
「ヤバい! そいつらを捕えよ!」
検問所の近くと言う事で、百人以上の衛兵が集まり、不審者一行を包囲したが、それを待っていたかのように不審者一行は外向きに円形で立つ。
そして――
一斉に外套を脱ぐと、ネズミが男達からバラまかれる。
「なんだ! このネズミは!?」
すると近くにいた衛兵がネズミを捕まえようとして、咬まれる。
「い、痛えええ!」
そして、その直後に――
「ぎゃああああ!」
と苦しみだし、そして動かなくなった。
毒ネズミか!?
そして、人間を襲ったネズミが先ほどより大きくなり、さらに衛兵を襲っていく。
「ぎゃあああ!」
「たっ助けてええ!」
衛兵は剣と銃を持っているが、至近距離で素早く動くネズミにまったく対処できていない。
そう言えば、不審な男達は……
気付いた時、男達は黒い塊を手にして検問所に投げ込んでいた。
あれはひょっとして!
「危ない! 手榴弾だ! 爆弾だ!」
ドカアアアアアアアア――――――!!!
凄まじい爆風、こんな手榴弾があるのか!?
あまりの威力で手榴弾を投げた男達もろとも、被害(自縛テロ?)にあったが、検問所近くの壁が破壊されてしまった。防壁は外側には【結界】が張ってあったが、内側にはなかったのだ。
「くっ、検問所の壁が崩されたか……」
幸い、爆発の被害にあったのは不審者達だけだったが、ネズミはどうなっているか?
再度、振り返ると――
テネシア「ファイヤー!」
イレーネ「エアースラッシュ!」
ネズミどもを火炎放射で焼き払い、風の刃で切り刻んでいた。
ネズミどもは二人に任せておけば大丈夫そうだな。
ネズミに咬まれた衛兵を治療するか……
そう思った瞬間、後ろから強烈な悪寒が走った。
「しまった。先に壁の修復をすべきだったか!?」
僕が負傷した衛兵に気を取られた隙にソレは崩れた壁から入ってきたのだ。この時、まさかこれがルカレシア聖帝国とエルメス帝国との本格的な戦争(南北戦争)の幕開けになるとは思ってもいなかった。
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