第440話 魔賢者エルライナ
~エルライナ視点~
皇帝陛下から賜った技術のお力、そしてカバール宰相の剛腕運営により、南方辺境の小国がいまや大陸全土を制覇し、エルメス帝国の威光、栄光はこの世界に轟いています。連戦連勝の報が続き、私の出番も少なくなり、ほとんどカバール宰相が前面に立って実務を進めてきましたが、どうも最近、西方侵攻がまったく進んでいないようなのです。
こんなことは今までありませんでした。
大陸での連戦連勝が当たり前になっていたので、私も油断してたのかもしれませんが、行ったきりでまったく戻ってこない軍人達、魔の海域での魔獣騒動、それに西方からの内偵を拿捕して得た情報を通じて、西方の敵がこの大陸の敵とはまったく異質であることを感じました。
西方に行った者が帰ってこない。
西方の情報もまったく入ってこない。
西方侵攻が進まない。
この状況を打破するため、ギラン将軍一行に、『傀儡の魔法』と『抗精神魔法』をかけて、西方に送りだしました。そして――
思惑通り、ギラン将軍一行は殺されることなく、ダルト王国へ潜入できました。私は『魔眼』を持っており、使い魔(鳥)により、一部始終を見てきました。
間抜けでお人好しの敵方がギラン将軍一行を信頼しきって、そのまま敵の本拠地である兵舎に招いた時は「何と愚かな!」と思いました。「連邦聖王がお人好しなら、その部下達もお人好しか!」と嘲笑が止まりませんでした。
そして、深夜に使い魔(鳥)を通じて、『傀儡の魔法』を発動させ、ギラン将軍一行らに町中の放火を命令しました。五百人による大量放火活動は、それは、それは見事でした。
「ふふふ、あれは興奮しました! 家が燃え、町が燃え、人が逃げ惑う光景はなんて美しいのでしょう!」
「我が帝国への恭順を守らなかった裏切り者達には報復の代価こそ相応しい。このまま全て燃えてしまえばいい!」
しかし、その後、私が見た光景は想像を絶するものでした。一人の男が側近を引き連れ、雨を降らせたのだ!
火を消すな!と思った時、映像が途切れた。
反応がないため、使い魔がやられたのかもしれない。
上空高く浮遊し、側近とともに雨を降らせたあの男……
顔ははっきり分かりませんでしたが、あれが聖王かもしれないですね。
しかし、あれだけの大火災を起こしたのだ。都はボロボロで、崩壊しているはず。正直、ダルトの住民には興味はありませんが、あそこの場所は西方侵攻で、重要な位置にあります。
「取られた物は必ず取り返しませんとね……くふふ」
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――――――
ここはエルメス帝国、皇帝城の一室(密室)
皇帝キース・サンドラ、宰相カバール、そして私が円卓を囲む。この帝国の内政、外交、経済、軍事、ありとあらゆることは、この三人で決定する。皇帝を宰相と私が支える形ではありますが、三頭体制であり、この帝国の『支配者』だ。
カバール「どうですか? エルライナ殿、ギラン将軍らはうまくいきましたか?」
エルライナ「ええ、首尾よくダルト王国に潜入し、夜中に工作活動を成功させました」
カバール「おお! それは僥倖! して、工作活動はどのような?」
エルライナ「はい、五百人で、ダルトの中枢都市を火攻めしました」
カバール「おお! 放火か。それは痛快ぞ! 裏切者には相応しい!」
しかし、皇帝陛下は悲しそうな顔をする。いつものことだが、
いいかげん慣れてもらいたいものです……
エルライナ「皇帝陛下はお気になされる必要はございません。裏切者には当然の報いなのです」
カバール「そうですぞ。皇帝陛下、世の中には秩序が必要です。この世界は弱肉強食、強い者が絶対なのです。弱いダルトが我が帝国を裏切ったのですから、報いを受けて当然。エルライナ殿の言う通りです」
皇帝「……」
カバール「それでは、エルライナ殿、今なら、ダルトを簡単に落とせそうかの?」
エルライナ「ええ、そのはずですが、少し気になる点があります……」
カバール「なんですかな?」
エルライナ「使い魔を通じて、確かに大火災は確認しましたが、映像に妙なものが映ったのです」
カバール「妙なもの?」
エルライナ「上空を浮遊し、雨を降らす男です」
カバール「空から雨を降らす? そんなことができるのか?」
エルライナ「う~む、天候を操るのは古代魔法でもありますが、伝説レベルのものです。それにあれはこの世界の人間が扱えるものではありません」
カバール「それなら、何かの見間違いかもしれんな」
エルライナ「う~む、確かに使い魔も行方知れずですし……それなら、再度、使い魔を飛ばしてみまよう。きっとダルトは焼け野原になってるはずです」
カバール「おお、頼みますぞ」
エルライナ「そう言えば、宰相、軍船の建造は進んでいるのですか?」
カバール「ああ、支配地の奴らに材料と労役を目いっぱい提供させて、急いでおるわ」
エルライナ「そうですか。ふふふ」
カバール殿は剛腕ですが、、限度を知らないところがありますからねぇ。まあ、支配地の住民がどうなろうと私の知ったことではありませんが。恨むなら弱く愚かに生まれた自分を恨むことです。
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――――――
ここは城内にある魔法研究室
これから、使い魔を放ちます。使い魔と言っても、もとは、ただの鳥。
魔法陣の上に鳥の入ったかごを置く。
魔眼発動!(目が怪しく光る)
「鳥よ、我が下僕となれ! そして遠方でも我の意に従え!」
「お前の視覚情報を我と共有する!」
よし、これでいいだろう。
「ダルトへ向かえ!そして、お前の見たものを送るのだ!」
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――――――
ずっと海だったが、ついに島が見えてきたな。前回、ギラン将軍一行を追尾した時も見たから間違いない。
さあ、だんだん島に近づいてきました。
ふふ、そろそろ港が見えてきましたね。
んん? えええええええ!!
「港が何ともない!! そんなバカな!!」
いや、町の中心部へ行けば
「なっ! 町も綺麗なまま! そんな、ありえないです!」
しかし、上空から何度見ても、どこを見ても、町が焼け野原になった様子はない。
「本当に天候を操る大魔法を使ったのか……!」
「しかも、燃えた跡すら無くなっている。し、信じられない……!」
くくく、私は敵の聖王を軽く見過ぎていたのかもしれません。カバール宰相に西方侵攻の見直しを進言しましょう。ですが、このまま黙って諦めることはしませんよ。私にも魔法使いとしてのプライドがあります。恥をかかせてくれたお礼は何倍にもして返してあげましょう。
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~アレス視点~
あの大火災は惨事だったが、あれ以来、ダルト王国の内政、外交は上向いている。特に連邦各国との交流は着実に広がっており、最近では僕も各国の王族を蒸気機関車で案内したりしている。「僕が偉そうに蒸気機関車の説明をしてもいいのかな?」と思っていたら、トーマス宰相から「いえ、陛下が我が国の代表です。王族のご案内は陛下が一番適任です」と満面の笑みで言われた。
ダルト王国で蒸気機関車交流が最近のトレンドかな。列車に乗りながらだと席も近いし、一気に距離がつかづく。もうエルスラ共和国のシュルツ議長、ヒルロア王国のクローネ王妃、バナン王国のシャイネル公爵あたりは乗せたよ。みんな驚いていた。
この蒸気機関車はいい意味で初見殺し。黒光りした列車の重厚感、迫力ある機関部、噴き上げる蒸気、響く汽笛の音、どれも迫力があり、臨場感が凄いのだ。僕は前世(現代日本)でも実際に乗ったことは無かったが、これは中々圧倒される代物だ。ガタガタ揺れるし、煙はモクモク出すが、それさえもノスタルジックな情感を誘う。
まあ、環境に配慮して、今のところ蒸気機関車を、ロナンダル王国とギルフォード王国に導入する予定はないが、その分、ここに来て乗ればいいと思う。そうすれば、ダルト王国の観光資源にもなるだろう。これは非日常体験(気分転換)にお勧めだ。今度はチルザーレ国王やキシリア王女も案内しよう。
そう言えば、あの大火災の時、僕が大量の水を空に【取出し】て、イレーネの水と風の魔法でまき散らして、雨を降らせんだけど、僕とイレーネを中心に上空は台風の渦状だったんだよ。
凄い風だったけど、なぜか近づいてくる鳥が一羽いたっけ。
「あっ!」と思った時にはイレーネの風魔法で細切れになっていた。
あれは可哀そうなことをした。火災の緊急対応中で助けてあげることもできなかったよ。そして、あの後、ライナスの王太子就任式の惨事が頭に浮かんだ。あれは鳥を利用して爆発させたんだよな。動物の命を道具のように使うのは本当にやめて欲しいね。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




