第441話 ダークエルフの里
ある村(被征服地)
衛兵「税を徴収に来たぞ!」
村人「ええ! この前も来ましたが!」
衛兵「うるさい! 臨時徴収だ!」
村人「もう何もありません!」
衛兵「ええいうるさい、お前ら、家じゅう、探し回れ!」
村人「うわ、やめて下さい!」
ギャ―ギャ―ワーワー!
こういう光景がエルメス帝国領内で頻繁に見られるようになった。理由は軍船建造に伴う国家負担増大のためである。軍船一隻でも莫大な費用が発生するが、西方侵攻のため、急ピッチで大量建造を目論んでいるのである。これにより被征服地の不満は日増しに高まっていった。
ある町(被征服地)
「くそぅ! 稼いでも稼いでも、みんな持っていかれるぜ!」
「俺たちに死ねってか!」
「これなら逃げた方がマシだ」
「ふっ、どこに逃げるんだ? 大陸全土がエルメス帝国に支配されてるんだぞ」
「噂では西の海の向こうには、別の大陸があるらしいが?」
「バカ言え! 西の海に行ったら、魔の海域で魔獣にやられちまう!」
「一体、どうしたらいいんだ……」
しかし、これらの様子をロナンダル王国の行政調査庁の内偵部隊が【隠蔽】スキルを使って、つぶさに調査していた。以前、王城の内偵をした者が捕まったことを受け、王城以外の場所に拡散したのだ。そして、郊外、辺境へと移動するにつれ、中心部との格差に驚き、そして被征服地の扱いも目に入ってきた。
内偵員「これは酷い……」
現在、内偵部隊の仕事はエルメス帝国内の調査とその報告になっているが、目にする被征服地の扱いに胸を痛めていた。
――――
――――――
ここはダークエルフの里、また衛兵達が来て、税の徴収に来ている。ここは森林地帯であり、品質の良い木材が採れるが――
衛兵「税の徴収に来たぞ。木材を差し出せ!」
里の長「えっ! 前回、臨時徴収があったばかりですが!」
衛兵「そんなことは知らん! とにかく差し出せ!」
里の長「木を切るのも大変な労力を要します。それにこれ以上、木を切るのは、私達の生活にも影響します」
衛兵「なんだと! 貴様! 歯向かうのか!」
衛兵が剣柄に手をかける。
里の長「……わかりました。十日ほど待って下さい。用意します」
衛兵「ふざけるな! 何が十日だ! 明日までに用意しろ!」
里の長「そんな無茶な!」
すると衛兵が近くにいたダークエルフの娘を捕える。
娘「いやっ、助けて――! ルザン兄さん!」
里の長「ああ! ルネ!」
衛兵「こいつを預かる。もし明日までに用意できなかったら……、わかるな? ぐふふ」
里の長「こんな狼藉があっていいのか!」
衛兵「木材を出さなければ、住民を連れていくだけだ。明日までに用意しとけ!」
仲間を連れていかれ、何もできないことに里の長は唇を噛み締めるのだった。
この様子を見ていた内偵員(亜人種)はかつてウラバダ王国で迫害の経験者であったが、怒りで手が出そうになっていた。しかし、彼の任務はあくまでエルメス帝国内の内偵だ。怒りをなんとか抑えて、その場を後にするのだった。
――――
――――――
翌日、衛兵が再び来る。
衛兵「木材は用意したか!」
里の長「その前に住民はどうした?」
衛兵「んん~? 住民? そんなの知らんなぁ~」(ニヤニヤ)
里の長「……それなら木材を納めない!」
すると衛兵達が里の長を取り囲む。既に剣は抜かれている。
衛兵「それなら、どうなっても知らんぞ~お前の代わりなど、いくらでもいるんだ」
衛兵達がニヤつきながら、余裕ぶっていた。
その時、一瞬、あたりに疾風が起こり――
「ふほっ!」
「うげっ!」
「だはっ!」
「なっ!どうしたん……、ぶべっ!」
気付いたら、全ての衛兵は顔を歪め地に伏せていた。
里の長「こ、これは一体、どうして……」
すると目の前に見知らぬ三人が立っていた。
~~少し前の話~~
<聖王城・執務室>
ロルアス「陛下、ご報告があります」
アレス「なんだい?」
ロルアス「エルメス帝国での内偵ですが、地方の搾取がかなり酷いようです」
アレス「そんなに酷いのか?」
ロルアス「衛兵が剣をちらつかせて、何度も何度も徴税してるらしいです」
アレス「そこまで財政状況が悪化してるのか?」
ロルアス「どうやら戦争準備のようです」
アレス「戦争? まだうちと戦争をする気なのか? はぁ~」(呆れ顔)
ロルアス「ええ、急ピッチで軍船の建造を進めているようです」
アレス「……なんと愚かな」
ロルアス「それで内偵員の報告によると、亜人地域、とりわけダークエルフの里での蛮行が目に余るようです」
アレス「ダークエルフの里? エルフの里とは違うのかい?」
ロルアス「近い種族ですが、どうやら違う種族のようです」
アレス「そう言えば、魔法研究所にもダークエルフの研究生がいたっけ。ちょっと待ってて」
アレス「【転移】!」
数分後、ダークエルフのレスティを連れて戻ってくる。
レスティ「うちの故郷が酷い目にあっているのですか!?」
アレス「ああ、内偵の報告だと、娘さんを連れていき、明日また来るらしい」
レスティ「なんてこと! ううぅ」(涙ぐむ)
アレス「しかし、ふざけた奴らだな。明日は僕が行こう」
後ろから「陛下! どこに行くって?」
「おお、テネシア」
また後ろから「私もいますよ」
「おお、イレーネ」
アレス「しかたないなぁ。明日は三人でエルメス帝国に行くか?」
テネシア「やったね。久々の遠征だ」
イレーネ「楽しみです」
アレス「おいおい、くれぐれも穏便にな。戦争に行くわけじゃないから」
テネシア「わかってるって。ちょっと悪党を懲らしめに行くんだろ?」
アレス「まあ、そういうところだ」
こういう話は二人には隠しようがないな。ははは。
――――
――――――
<エルメス帝国郊外・ダークエルフの里>
~アレス視点~
ここがダークエルフの里か。大きな森林が広がり、自然豊かで中々いいところじゃないか。衛兵と里の長のやり取りを聞いて、衛兵が悪党と分かったので、【隠蔽】中のテネシアとイレーネが秒で倒したが、死んでないよな? 彼女達は手加減しても、さらに強くなっているからな。
僕ら三人が【隠蔽】を解除する。
里の長「あ、あなたがたは……?」
僕「僕らはずっと西方の遠い大陸から来た者だが、君達の窮状を知って助けに来たんだよ」
里の長「しかし、なぜ、突然、現れることができたのですか?」
僕「それは、僕らの特別な力によるものだ。心配しないでいい。悪いようにはしない」
里の長「そうですね。衛兵を片付けてくれましたし」
僕「これで解決かな?」
里の長「いいえ、まだ仲間が捕えられたままです」
僕「仲間の居場所は分かるかい?」
里の長「いいえ、昨日、そこの衛兵達が連れて行きました」
僕「なるほど、それではこいつらは知っているな? テネシア、そこの男を起こしてくれ」
テネシア「あいよ!」
パチパチ!パチパチ!
テネシアの手荒い張り手で衛兵が目を覚ます。
僕「おい、お前! 昨日連れていった娘さんはどこへやった?」
衛兵「なっ、お前達は誰だ! うげっ!」
テネシア「貴様! 言葉に気をつけろ! いっぺん死んでみるか!」
テネシアの一撃でまた失神、ありゃ強すぎたな。ははは。
僕「今度はイレーネが優しく起こしてみて」
イレーネ「はい」
ビシビシ!バシバシ!
優しい顔して、今度は手刀でチョップしてる。
衛兵「ちょ、やめてくれ!」
僕「なら、昨日連れて行った娘さんの居場所を教えろ」
ここで【読心術】無詠唱発動!
(昨日の娘は奴隷に売り飛ばして小遣い稼ぎにする予定だ。居場所なんて適当に答えてやる)
イレーネ「へ、陛下、お顔が一気に険しくなってきましたが……」
僕「おい、お前、万一、僕らに嘘をついたら、大変なことになるからな……」
衛兵「何だと、俺をやったら、娘の居場所も分からなくなるんだぞ!」
あれを試すか。ふふふ。
僕「【転移】!」
男を地上、三百メートルぐらい上空に転移させる。
衛兵「なっ! ここは! ぎゃああああ!」
落ちる寸前に再び「【転移】!」
確か、これやり過ぎると気絶するんだよな。
三回ぐらいでやめとこう。
衛兵「こっ、怖い! しっ、死ぬ――! ひぃ――!」
僕「どうだ、正直に言う気になったか?」
衛兵「言う言う! 場所は衛兵所の牢屋だ」
僕「そこまで案内しろ」
衛兵「わ、わかった」
――――
――――――
衛兵に案内をさせ、衛兵所まで来た。
時間短縮のため、ここまでは高速【飛行】で来たが、途中、衛兵が怖がって、騒ぐのがうざかったが、その度にテネシア、イレーネがしめたので、生きた心地がしなかったろう。これまでダークエルフ達をさんざん苦しめたんだ。当然の報いだし、まだまだ、こんなものでは済まさないぞ。
僕「おい、ここの責任者を呼んで来い」
衛兵「へ?」
テネシア「早く行け!」
バンッ!
「ぐわああ!」
テネシアが尻にキックをして、衛兵を入口の中に飛ばす。
するとその様子に気付いた衛兵達が数人、集まってきた。
「なんだ!お前達!」
「ここの責任者を出せ!」
「貴様! こいつらを捕えろ!」
はい、向こうから先に攻撃してきた。これからは正当防衛だ。
向こうがしかけると同時に、テネシアとイレーネが衛兵達を次々と仕留めていく。
僕も手伝わないとな。前から考えてたアレを試してみるか。ふふふ。
「衛兵所で範囲指定して、衛兵を対象に【認識偽装】! 目が見えなくなる!」
「うわああ、目が、目が、見えない!」
「暗い! 助けてくれ!」
目が見えなくなって半狂乱になる衛兵を押しのけて、牢屋に行くと、亜人達が何人もいた。
奴隷目的で亜人収監か! 本当にふざけた奴らだ!
そうだ!怒ってる場合ではないな。救出しないと。
「みんな!救出に来た。ここから出るぞ!」
「「「うわあ!」」」
何人か喜んだが、無反応な者もいるな。それに人数が思ったより多いぞ。これじゃ、連れて行くのが大変だ。それならあれだ。
「みんなを助けるけど、いったん休んでもらうよ」
「全員【収納】!」
衛兵所の入口に戻ると、テネシアとイレーネが衛兵達を全員拘束していた。今回の拘束はテネシアの土魔法「アースバインド」、全員、首から下が地面に埋まっている。たくさんの首が地面から出てるのは何ともシュールな光景だなぁ。
「君はこんな器用なことができたんだな」
「ふふふ、以前より威力があがっただろ?」
これじゃ、完全に身動きが取れない。それに僕の【認識偽装】で失明状態になってるから。怖さも半端ではないだろう。何人か恐怖でガタガタ震え泡を吹いてるし。
「おい、お前達!よくも亜人達に酷いことをしたな! もう二度と亜人の領地に入るなよ!」
「そ、その前に目を元に戻してくれ―――!」
「お前達は亜人から家族を引き離して、戻したことはあったのか?」
「戻した。戻した。俺は関わっていない!」
【読心術】で嘘がバレバレ。僕は平気で嘘をつく奴を絶対に容赦しない。
こいつらに更なる恐怖を与えるか、ふふふ、「呪い」のワードを使ってやろう。
「これは呪いだ! お前達が亜人の領地へ踏み入ろうとする意志がある限り、失明状態は続く!」
「そっ、そんな!」
「たっ、助けてくれ!」
「目が見えない! 怖い!」
「うわあああ!」
呪いは相手に分かりやすい表現だが、そのあとの設定は本当。僕はスキルの応用で、後から設定を加えたり変更することも簡単にできるようになっている。「魔の海域」で実証済みだが、人は「呪い」と聞くと、勝手に恐怖を増幅させていくからね。せいぜい自分で自分を苦しめたらいい。それがお前たちの贖罪にもなるだろう。
しかし、あれだね。亜人の領地へ踏み入ろうとする意志さえ消えれば、目が見えるようになるはずだが、少し待っても、誰も元に戻っていない。ふぅ~衛兵達のレベルを察することができるよ。
しばらく失明状態の恐怖を味わいながら、己がした悪行と向き合えばいい。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




