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第438話 罪を憎んで人を憎まず

 ここはロナンダル王国、王都郊外のサラマンダー広場だ。この広場はローマのコロッセウムを模した外観で、普段は野外コンサート、軍事訓練、各種イベントをして賑わっているが、この時間は空きとなっている。これから放火犯達の処分を決めるが、五百人もいたため、ここまで【転移】してきたのた。今の僕なら、五百人の広範囲指定転移なんて朝飯前だ。


一緒にテネシア連邦総司令官、バハナ大将、ブリント将軍も連れてきた。


僕「責任者は誰だ?」


するとバハナ大将が一人の男を前に引き渡す。


「この男になります。エルメス帝国のギラン将軍です」


 まじかで顔を見ると、表情が虚ろ。

 う~ん、これは何かの術がかかってるんじゃないか?


「【鑑定】!」


 何々、『傀儡の魔法』か。人を操る精神系の魔法だな。

 それと、なんだ、これ?『抗精神魔法』?

 精神系の魔法に抵抗する魔法か。


 そうか、これにより魔の海域で【認識偽装】(幻覚)に抵抗できたわけだな。しかし、五百人、全員を一人一人、鑑定するのは面倒だ。広範囲魔法を応用して――


「一斉に【鑑定】!」


 やはり、全員、『傀儡の魔法』『抗精神魔法』にかかっていた。術者の傀儡となって放火したんだな……。この瞬間、僕の中で彼らの「無罪」が確定した。なぜなら、本人は意図せず操られただけだもんね。完全に不可抗力だ。本当に悪いのは、彼らにこんな非道な魔法をかけた奴だ。


すると、バハナ大将、ブリント将軍が憐憫の表情を浮かべながら、口を開く。


バハナ「陛下、彼らの罪は重いです。放火はとんでもない重罪です。ですが、死罪だけは何としても避けて頂けないでしょうか……」


ブリント「気付けなかった私にも責任があります。どうぞ彼らに寛大なご処置をお願いします」


おそらく二人とも昔の仲間だし、知り合いも大勢いるだろう。仲間思いは良いものだ。


僕「大丈夫だ。彼らを罰することはしない。なぜなら彼らは操られていただけだからだ」


二人ともホッとした表情になる。


バハナ「ひょっとして……」


ブリント「たぶん、皇帝の側近の男ですね」


 しかし、その皇帝の側近というのは、五百人の軍人達にこんな魔法をかけられるのか。とんでもない奴だな。相当な力があることは認めるが、明らかに使い方を間違っている。


『傀儡の魔法』に効きそうなのは、【状態異常無効】だろうな。これで『傀儡の魔法』にかかっている異常を無効化できる。ただ問題なのは『抗精神魔法』にもかかっている点だ。僕の【状態異常無効】も抗精神魔法に似た性質がある。違いは僕のは無効化、向こうは抵抗だ。


抵抗してくるだろうが、それを無効化すればいい。力のある方が勝るはずだ。



<<<<「【状態異常無効】!」>>>



五百人全員を覆うよう範囲を広げて、無効化を強く念じる。

『傀儡の魔法』『抗精神魔法』にかかっている異常な状態を無効化せよ!


「うううぅ!」

「あああぁ!」


軍人達がうずくまり、苦しそうだ。しかし、ここで弱めるわけにはいかない。


いけ――――――!



<<<<「【状態異常無効】!」>>>>



しばらくすると、五百人全員が倒れていたが、なんとか終わったようだ。


 実は『傀儡の魔法』は別にして、『抗精神魔法』にかかっている状態はそこまで悪いことではない。【認識偽装】にかからなかったように精神系の魔法に抵抗できるからだ。むしろ軍人には丁度いい状態だったかもしれない。


 でも僕がこれを無効化したのにはわけがある。それは彼らに僕の【精神支配】スキルで連邦への忠誠を誓ってもらうためだ。『抗精神魔法』にかかっている状態ではこれが不十分になってしまうからね。今回も『傀儡の魔法』と『抗精神魔法』は【複写】したが、『傀儡の魔法』は【精神支配】に、『抗精神魔法』は【状態異常無効】とかぶりそうだから、使う機会はないかな? それに僕の魔法の方がたぶん上位互換だ。


『傀儡の魔法』は相手を傀儡にしか使えないが、【精神支配】はもっと細かく機能的に動かすことができる。分かりやすく言えば、傀儡は糸のついた操り人形、精神支配はその名の通り、コントロールだから、ロボットのように正確だ。


『抗精神魔法』は精神魔法に対してだけの抵抗だが、【状態異常無効】は精神に関連する脳神経系統の異常にも適用する。それに抵抗と無効なら後者の方が強いだろう。



「あっ、ここは、どこですか?」



ギラン将軍はじめ、軍人達が目を覚ましてきた。どうやら正気に戻ったな。


「ようこそ、ここはロナンダル王国だよ」



 その後、ギース軍港の海軍基地にみんなを転移させ、休養してもらうことにした。ちなみにテネシアが放火中の彼らに一撃を食らわし続けていた時の状況だが、放火犯の動きがあまりに不自然だったから、何者かに操られていると疑ったとのこと。


「なんか、ゆらゆらして、目つきが変だったし。真夜中で手に火を持ってれば、変だと思うよ」


だってさ。しかし、一人で五百人を手加減しながら、無力化させたのは凄い。


 そう言えば、火事の時、焦っていたから、失念していたが、ミアは妊娠中で大きなお腹を抱えていたんだよ。途中で気付いて帰そうと思ったんだけど、目の前に負傷者がいっぱいいたんで、そういう雰囲気でなかった。


「ふふふ、あの時は二人分の魔法を使っていましたよ」


 と後からお腹をさすりながら言われたので、平謝りしたが、あの時は緊急事態過ぎて、明らかに違う状態になってた。平時なら絶対にしない判断だな。


 「妊娠してる妻に負傷者対応をさせるのはあり得ない!」これは平時なら、間違いなくその通りだろう。しかし、今回、緊急対応をしてみて、明確に分かったことは、緊急時、非常時は平時の常識が通用しないということだ。


 終わった後で、平静を取り戻すと、「なぜ、ああいう行動ができたんだ?」と思うが、ひょっとしたら、潜在意識が活性化して、普段の常識では導き出せない最適解(最適の選択)を選んだのかもしれない。半分、オートモードになってる状態だね。まさに火事場の馬鹿力だ。


 実際、ミアは不思議と体調を崩すことが無かった。


 ちなみに僕は回復魔法ヒールを様々な治療に使ってきたが、妊婦さんに使うのは控えている。一番の理由は妊娠がそもそも病気ではないからだ。それに回復魔法は上級になればなるほど、元に回復させる力が増すので、その力が妊婦さんに良からぬ影響を及ぼすことを危惧している。


 例えば、妊婦さんが悪阻つわりで苦しんでる時に、回復魔法ヒールを軽々しくして、元の痛くない状態、つまり妊娠してない状態へ戻る力が作用すると、流産する恐れが増すのではないだろうか? 見方によっては、胎児は母体にとって、異物であり、母体に負担をかける存在である。回復魔法ヒールが母体最優先に作用したら、異物である胎児に悪影響が出るかもしれない。他にも回復魔法ヒールを避けた方がいい症状はありそうだが、今後の研究テーマにしよう。


――――

――――――


 今回の戦力加入により、連邦海軍は軍船二百六十隻、軍人六千五百人となった。敵は軍船を急ピッチで建造中らしいが、現状は四十隻ほどしかないだろう。僕が言うのも何だが……


 もう、軍船を送るのは止めたほうがいいのに……


 と本気で思うようになってきた。


 今回は僕、テネシア、イレーネ、ミアのスキルを動員して、大火災を乗り越えた。もし、僕らがいなかったら、ダルト王国は滅亡してたかもしれない。大きな声では言えないけど、後からホッとしたり、ゾッとしたりが続いたよ。



 ◇    ◇    ◇



 僕は基本「罪を憎んで人を憎まず」の考えだが、今回の火災の主犯であるエルメス帝国の側近については、怒りの感情を消すことができない。いやさ、理性で表面上は制御してるから、外からは分からないようにしてるけど、内面は怒りの炎が燃え盛っているんだよ。



 街中を燃やすなんて大量虐殺ジェノサイドだろうがあああ!!!



いかん、いかん、怒りを制御しなくては。ふぅ~深呼吸だ。


人は憎まずだが、こういうことをするのはもう人じゃないよな……

より正確に言えば肉体は人であっても、心が人でないってことだ。

世の中には人の皮をかぶった悪魔みたいのがいるのかもしれないな。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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