第437話 トロイの木馬
バハナ大将から連絡があり、ダルト王国へ来たが、またまた軍船が手に入ったみたいだ。今度は十隻、軍人は五百人程、いや~笑いが止まらないね。ふふふ。顔に出さないようにしてるけど、向こうから勝手にタダで貴重な軍船、軍人、武器が来るんだから、気持ち良く頂くしかないでしょ。頂けるものは有難く頂くのが僕の主義だ。(なんてね)
軍船が泊まる港でバハナ大将らと会う。
バハナ「陛下、今回は軍船十隻、軍人五百人を鞍替えさせました」
僕「そうか。いつも君の顔の広さには助けられてるなぁ」
バハナ「そ、それが、陛下……」
僕「んん? どうした。バハナ大将?」
バハナ「少し気になることが……」
するとそこへブリント将軍が割って入る。
ブリント「回収した軍船はしばらくダルト王国に泊めていいでしょうか?」
僕「ああ、いいんじゃないかな。どうせ、すぐ防衛に加わってもらう予定だからな」
おお、ライナスから【念話】だ。
僕「すまない。ちょっとロナンダル王国へ戻る」
バハナ「あっ!」
バハナ将軍が何か言いたげだな。
後でまた確認するか……
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――――――
ブリント将軍がエルメス帝国から寝返ったギラン将軍ら五百人を兵舎に案内する。
ブリント「しばらくはここで待機して下さい」
ギラン「……了解しました」
ブリント「不足があれば、なんでも言って下さいね」
ギラン「……はい」
ブリント「もう貴方たちは仲間なんですから」
ブリント将軍は自身もつい最近まで、エルメス帝国にいたが、その後、自分と同じように寝返った仲間が増え、大層機嫌が良かった。しかし、それにより小さい異変に気付かなかったのかもしれない。
「敵が来る→勧誘する→仲間にする→戦力強化」、何回も成功体験が繰り返されると、それは一連の流れとなる。そして、成功して当然の考えは警戒心を薄くさせてしまったのかもしれない。
しかも悪いことに、彼らが泊まったダルト王国では、
この晩、ギルフォード聖王は不在にするのである。
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――――――
<ロナンダル王国・王宮>
結局、あの後、ライナスから王領の業務内容の質問をたくさん受けて、そのままこっちで泊まることになった。泊まると言っても、僕の自宅(王宮)には変わりないし、子供達と話ができるのは嬉しい。やはり僕は仕事より家庭に重点を置きたいのが本心なのだ。
それに、あの時、バハナ大将が何か言いたげだったが、実は【読心術】で把握済み。彼が言いたかったことは「今回の軍船は魔の海峡を素通りしている」「ギラン将軍の様子が少し変」ということだった。
「魔の海峡を素通りしている」は本人(ギラン将軍)に聞くしかないけど、明日の朝礼でいいだろうな。その時、一斉に【精神支配】で忠誠心を誓わせればいいし……
さてさて、今夜はメリッサと一緒に寝る。おやすみ。
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<ダルト王国・兵舎>
深夜、周りが完全に寝静まった頃、
ギラン将軍一行は、突如、目が覚める。
<<「さあ、起きて街中を焼き払うのです!」>>
頭に命令の声が聞こえる。
その声に従い、一行は静かに立ち上がり、
各々、動きだすのだった。
――――
――――――
「うわあああ! か、火事だああ!」
「どこからだ!」
「軍の施設からだ!」
「いや、街にも広がっているぞ!」
「た、助けてくれええ!」
街中から火の手があがるが、
真夜中だったため、対応に遅れる。
「み、水をまけ!」
「だめだ!こんなのじゃ足りない!」
この段階になり、ようやくバハナ大将、ブリント将軍、トーマス宰相らは火事に気付いたが、火の手がまわりが早過ぎる。
バハナ「な、なんで、こんなに広がっているんだ……」
ブリント「完全に組織的かつ計画的でしょう!」
トーマス「と、とにかく消さないと!」
バハナ「し、しかし、これだけ広がると消火が間に合わない!」
トーマス「聖王陛下の力におすがりするしかないです!」
バハナ「先ほど、念話しました!」
――――
――――――
~アレス視点~
「えええ! 火事だってえええ!」
真夜中にダルト王国から火災発生の連絡を受けて驚く。
だが、こうしてはいられない。即行動だ。
「メリッサ、行ってくるね」
「いってらっしゃい、あなた、気を付けて」
「ありがとう、ダルト王国へ【転移】!」
真夜中で悪いと思ったが、テネシアとイレーネ、
そしてミアも召集する。みんな現地集合だ。
◇ ◇ ◇
ボオオオオオオオオオオオオオ!!!(街中、火の海)
「こ、これは酷い……」
とにかく消火だ。僕は目の前の海を見ながら――
「海水を【収納】!」
「【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】!」
大量に入れたぞ。
「よし、【飛行】!」
上空、高く上がり、
「水を【取出し】!」
それをイレーネが空中で雨状にする。
もちろん水魔法と風魔法の応用だ。
「わあああ、雨だ!」
「これで火が消えるぞ!」
僕とイレーネの人口雨降らしで、
どんどん火が消えていく。
この間、地上ではミアが「ハイヒール」で
負傷者をどんどん回復させていく。
そして、テネシアは――
「貴様が放火犯か!?」
ドスッ 「ぐぁ!」
怪しそうな輩をフルスピードで無力化させていく。火の大きさから放火犯は多数いるだろうと推測したが、彼女にかかれば、一人当たり、無力化するのに数秒しかかからない。
ドスッ 「ぐぇ!」
ドスッ 「あげぇ!」
ドスッ 「うぇ!」
ドスッ 「げへぇ!」
真夜中に男たちの断末魔が響く。
実は消火活動と同時進行で、【探索】スキルを発動し、放火犯を特定。そして放火犯の位置情報を【念話】を通してテネシアに送っていたのだ。【念話】は普段、会話中心だが、オプションで映像情報も追加できるからね。
一応、テネシアには殺さないようお願いしたけど、一人一撃で無力化していき、後の捕縛は衛兵に任せていたよ。さすが指揮官だな。まあ、本来の指揮官は後方で控えるものなんだろうが、今回は緊急事態だからね。
それにしても、この人数、やたら多くないか……
しばらくして、僕、イレーネ、テネシア、そしてミアの連携作業により、火事を収束させ、放火犯達を全員拘束したのだった。
――――
――――――
犯人の処分は後。先ずは被害状況の確認だ。既に片付け作業は王軍隊に指示しているが、負傷してる人はいないだろうか? そう思った矢先――
「うわあ! む、娘が!逃げ遅れて、こんなことにぃぃ!!」
母親が娘さんを抱えて号泣、
見ると、娘さんは完全に黒焦げになっていた。
たぶん、もう息をしていないだろう。
ミアが他の負傷者を診ているので、僕の出番だ。
これは究極の回復魔法を使わないとな。
<<「超級回復魔法!」>>
すると、どんどん焼けた部分が元通りになっていく。
「ええええ!! き、奇跡だああああああ!!」
母親が驚愕する。
そして、全身の皮膚が元に戻った頃
「……お、お母さん?」
「ああああ! 神様の奇跡です! あなた様は!?」
あっ、そうだった。僕はこの国で国王になっていたけど、国民に顔を知らせていなかったんだっけ。どうしよう? まあ、いいか。正直に言おう。(嘘は良くないからね)
「僕はこの国の国王だ」
「ええ! 国王陛下ですか!?」
「娘さんが助かって良かったですね」
その後も、僕とミアで負傷者を根こそぎ回復しまくった。なんか昔を思いだすなぁ。彼女と二人でよく街中の人を助けたっけ。しかし、あの頃よりは段違いにスキルもパワーも向上しているので、死亡直後なら、当たり前のように治せるようになっている。家の下敷きで体が潰れていても、関係ない。我ながらとんでもないスキルだね。こりゃ。
そして、この時も【探索】スキルで負傷者を見つけ、さらに【念話】で位置情報をミアに送ることにより、効率的に動くことができた。ちなみに僕と妃の間では【念話】によるデータ通信はとっくの前からできており、自分の目で見たもの、イメージしたもの、そして、スキルで認識した情報も難なく共有できるのだ。本当に便利な機能だが、お互いの信頼関係が基本にあるから、為せる業なんだろうね。
――――
――――――
~~回想中~~
「どいて下さい!家を補修します!」
「ええ!? 瓦礫の山しかないですよ」
<<「【加工】!」>>
「うわああ! 家が元に戻った!」
「さて、次はこっちの家だ」
「凄い!信じられない!」
~~回想終了~~
結局、火事の被害範囲が広かったため、負傷対応、復旧作業に一月ほど要してしまった。
この間、僕は妙なテンションにスイッチが入っていたので、火事で燃えてしまった家も、生産系スキルでどんどん補修していった。住民達が驚愕しっぱしだったが、補修に夢中であまり気にならなかったよ。
これだけ広範囲のインフラを補修したのは、ギルフォード島で開拓して以来じゃないだろうか。あの時は無人島だったが、今回は人がたくさんいる島だから、ギャラリーだらけだったな。
街中の復旧作業を通して、
僕らの存在は広く知られることとなってしまった。
最後の方は――
「国王陛下、感謝します!」
「助けて頂き、ありがとうございます!」
「なんとお礼を言っていいか!」
の連続だった。
当然、一緒にいたテネシア、イレーネ、ミアも有名になってしまった。
僕「あ~あ、これで、この国でも顔バレしちゃったな」
テネシア「しかたないよ。いつか、こういう日は来るって」
イレーネ「ふふ、遅かれ早かれ、陛下は有名になる運命なんですよ」
ミア「この国に直接関係無い私まで名前が知られてしまいました」
僕「はは、悪かったね。君こそ、有名になる運命なんだよ」
ミア「もう、陛下がそれを言いますか」
テネシア「今回も陛下に付き合わされたからな~」
イレーネ「私達はいつも一緒ですから」
僕「ふふ、そうだね」
実は途中、途中で、メリッサとも念話で緊密に連絡を取り合っていた。彼女は連邦の聖王妃だから、僕がいない時の対応(聖王代行)を全部、お願いしてたんだ。特に今回は側近のテネシア、イレーネ、ミアもいなかったから、さぞかし大変だっただろう。それは王国のライナスやラーシャも同様だ。だけど、こういう時は連邦も王国も関係ないから、お互いカバーし合ったよ。
そうそう、先ほど、復旧に一月って言ったけど、普通なら数年(いや十年以上?)かかるよね。ははは。今まで、いろいろ補修してきたけど、街(都市)ごと補修したのは初めてぐらいかな。今回の復旧作業を通して、ダルト王国での僕と側近の知名度があがったのは言うまでもないが、「大火事から、国民を救った国王陛下」として、強く信頼されるようになった。
まあ、大変だったけど、雨降って地固まるだな。
さて、落ち着いたところだし、放火犯達の処分を決めるとしよう。
全員、あの日、エルメス帝国から来た軍人達だった。
これだけのことをやったんだ。普通なら処刑(死罪)だろうけどね。
どうしたものか……
それと今回、戦利品のような形で手にした軍人達が領内で夜中に火災を起こしたので、「トロイの木馬」を想起した。あの話では油断して、そのまま国が滅んでしまったんだよな。今回もそうなる一歩手前だった。
敵は魔法だけでなく、知略にも相当長けているようだ。気を付けねば。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




