第436話 謎の側近
帝国の「支配者」たる三人が密室の円卓で会議を開く。
三人は皇帝キース・サンドラ、宰相カバール、そして謎の側近である。
カバール「エルライナ殿、先日は助かりましたぞ」
謎の側近「ほほほ、あれぐらい容易いことです」
皇帝「……」
カバール「その後、ギラン将軍に何やら、術をかけておられたが、何をされたのかのう?」
エルライナ「実はその前に報告があります。以前、城に潜入した賊を牢屋に入れておりましたが、いなくなっておりました」
カバール「なんと! あの厳重な牢屋をか!?」
エルライナ「しかし、その前に賊から、情報を引き出しております」
カバール「ほう、それは手回しがいい」
エルライナ「賊は西方のロナンダル王国の者です。目的はこちらの内偵でした」
カバール「くっ! どうやって忍び込んだのだ」
エルライナ「私の傀儡の魔法で尋問したところ、魔法を使っておりました」
カバール「なんと魔法か!?」
エルライナ「どうやら西方の国は魔法が使えるようです」
カバール「ううむ、それは厄介だな」
エルライナ「特に西方の国を取りまとめている連邦聖王という者が相当な使い手のようです」
カバール「連邦聖王か……、一体、何者なんだ?」
エルライナ「賊の話では消滅魔法が得意らしいです」
カバール「なっ! 消滅魔法!? どういった魔法なんだ?」
エルライナ「その名の通り、目の前の物を何でも消滅させるらしいです。物でも人でも建物でも……」
カバール「……すると、西方に向かった軍隊が消えたのも……」
エルライナ「……かもしれませんな」
カバール「そ、そんな者を相手にしたら、命がいくつあっても足りないぞ!」
エルライナ「しかし、これは一人の賊の話に過ぎません。我々を混乱させるための敵の作戦の可能性も否定できません。それに消滅魔法など聞いたこともありません」
カバール「むう、確かにな。あやうく騙されるところだったわ」
エルライナ「賊には私の傀儡の魔法をかけてます。その連邦聖王とやらを前にしたら襲うようにしています。ふふふふ」
カバール「それは面白い!」
エルライナ「それで先ほどの宰相の話に戻りますが、敵方が魔法の使い手ということなので、それなりの手はずを整えました」
カバール「どういうことだ?」
エルライナ「賊の話だと、確かに連邦聖王は魔法の使い手だが、どうやら、かなりお人よしのところがあるようです。捉えた軍人を殺したのを見たことが無いと」
カバール「なに? 最高権力者なのに、殺さないだと? お人よしだと? ふははは、それは笑える」
エルライナ「まあ、先ほどの消滅魔法の件は置いておくとして、人を殺せないお人よしなら、付け入る隙が十分ありそうですな」
カバール「なるほどな。人を殺せないお人よしなぞ、権力者にとって、何の価値もないからな。敵の裏をかき、騙して、操って、奪うことこそが能力の証拠だ!」
エルライナ「それと、例の魔の海域ですが、私の『使い魔』で偵察させましたが、何もありませんでした。おそらく何かの魔法を仕込んでいるのでしょう」
カバール「おお! そなたは魔眼を通して、使いの獣魔の視覚を共有できるのでしたな。それで敵の魔法に対抗できるのかな?」
エルライナ「ふふ、お任せを。恐らく魔の海域とやらの正体は幻覚を見せる魔法でしょう。幻覚は精神系の魔法ですが、私は抗精神魔法を使えますから効きません」
カバール「おお!さすがは魔賢者エルライナ殿だ。そんなこともできるとは!」
エルライナ「敵の聖王とやらが、どんな魔法使いか知りませんが、私が化けの皮を剥いでやりましょう」
カバール「頼もしい。私は外交、内政、軍事、あらゆる国家運営ができるが、魔法だけは門外漢だからな。それに技術も……」
二人が目を合わせて、皇帝に対し、少しかしこまる。
カバール「皇帝陛下、今回の西方攻略はエルライナ殿の策謀により、進める所存ですが、許可して頂けるでしょうか?」
すると、今まで二人の話を聞いていた皇帝が何も言わず、小さく首を頷いた。
――――
――――――
ここは海上、ダルト王国の防衛船、いつものように飛行船が高所から監視していた。
「あっ、あれはなんだ?」
「えっ、あれは、軍船か?」
「ブリント将軍を呼べ!」
そこへブリント将軍が来て、口を開く。
「あれはエルメス帝国の軍船だ!」
今回、飛行船にはブリント将軍が乗っていたが、すぐに海上の軍船にいるバハナ大将に念話により連絡する。すでに連邦海軍では上層部を中心に「飛行船」「念話」「拡声器」等の魔法アイテムが実践利用されていた。
「おかしい……」
バハナ大将がつぶやく。軍船がこの場所まで来るには『魔の海域』を通らねばならず、大抵そこで、引き返すか、戦意喪失状態になるはずだ。ブリント将軍の報告によると、まるで何事も無かったかのように、こちらに向かっていると言う。
「軍船は十隻に過ぎないが……」
これだけの数ならば、戦力的にまったく問題ない。何しろ、こちらには総勢、二百五十隻の軍船があり、そのうち、百隻以上がこの近海に待機してるのだ。
「しかし、あの魔の海域をまったく動揺せず素通りしたことが妙にひっかかる……」
取り敢えず、聖王陛下に一報を入れておこう。
――――
――――――
前回同様、防衛線付近で軍船が対峙するが、連邦海軍は三十隻、エルメス帝国は十隻。早々と投降を促すと、すぐに応じた。
バハナ大将が敵方の責任者を軍船に招く。相手の名前はギラン将軍、面識がない。これから連邦海軍側(バハナ大将・ブリント将軍)、エルメス帝国側(ギラン将軍)の間で会談をする。
バハナ「私を知っているかな?」
ギラン「いえ、知りません」
ギラン将軍はそっけなく答える。
ブリント「エルメス帝国にいたバハナ将軍をご存じないのですか?」
ギラン「ええ、知りません」
取り付く島がない。これまでほとんどの勧誘が、エルメス帝国でのバハナ将軍の武勇、名声、人柄等から話題導入ができたが、これができないとなると、少し面倒である。
バハナ「率直に言おう、我々はロナンダル王国に鞍替えした。ここはエルメス帝国よりずっと居心地のいいところだ。悪いようにはしない。君達もこちらに来ないか?」
ギラン「……」
ブリント「バハナ大将のおっしゃる通りです。こちらに来たエルメス帝国の軍人はみな元気でやっている。それにギラン将軍も手ぶらで戻れば、責任を追及されるだろう?」
ギラン「……」
バハナ「ギラン将軍? 大丈夫か?」
ギラン「……わかりました。そちらに鞍替えしましょう」
バハナ「おお! わかってくれたか。では、早速、ダルト王国に案内しよう」
バハナ大将とブリント将軍は説得に成功したと上機嫌だったが、喜びの感情が勝っていたため、ギラン将軍の不自然な無表情さにあまり意識が向かなかったようである。確かにそういうタイプの軍人はいるが、もし二人がギラン将軍と面識があり、普段のギラン将軍を知っていれば、不自然さに気付けただろう。
この時はまだ、これが後の大惨事を招く切っ掛けになるとは、誰も思わなかったのである。
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