第434話 エルメス帝国の支配者
エルメス帝国には「支配者」と呼ばれる存在が三人います。
皇帝、宰相カバール、そして謎の側近です。
ここはエルメス帝国、皇帝城の謁見の間
いつものように「支配者」である三人が御簾越し、高段から配下の者を見下ろす。そして、この日はそれに加え、宰相カバールの機嫌が殊の外、悪かった。
「一体、西方へ行った部隊はどうなったのだああ――!!」
カバールの声が室内に響き渡る! 下座には軍の幹部達が勢ぞろいしていた。
前列のギラン将軍が恐る恐る口を開く。
「ブリント将軍は確かに百隻の大船団を率いて、出港しました。これは間違いありません。しかし、その後の行方はまったく掴めておりません……」
すると、カバールはギラン将軍を睨みつけ――
「貴様たちは帝国の軍隊だろう? 意思疎通は取り合っていないのか? 報告は受けていないのか? そもそも今回、三千人もの兵を同行させた。それがまったく行方知れずとはおかしいではないか!」
と矢継ぎ早に詰問する。
「お、恐れ入ります。本当にまったく連絡が取れないのです。報告も来ておりません。推測にはなりますが、おそらくあの『魔の海域』で遭難したかと……」
「ふっ、また、それか! 臆病者どもめ!」
「しかし、これまでダルト島にいたクスル提督、バハナ将軍、ビルカーツ副将軍、そして今回のブリント将軍、西方に向かった者はことごとく行方知れずになっております。『魔の海域』のことは、はっきり分かりませんが、いずれにしろ、西方に向かうと行方知れずになることは間違いないようです」
「ううう……む」
「カバール宰相、恐れながら申し上げます。既に帝国はこの大陸を制覇しております。もう十分ではないでしょうか? これまで西方侵攻に要した人員、物資は莫大なものになります。それに損失を穴埋めするために支配地の『被征服者』や『亜人』達に重い負担をかせば、憎しみを増やし、反乱の芽になりかねません。何卒、ご再考を切に願い……」
「ええい、黙れえええ――――――――――――――――!!!」
再びカバールの怒声が響く。
「貴様! 誰に意見している! 恐れ多くも、皇帝陛下に対して反論するとは何事か!」
「いえ、私は帝国のことを思って……」
「我はこちらににおわすキース・サンドラ皇帝陛下のご意向を受けて、西方侵攻を命じているのだぞ! それに歯向かうということは国家反逆罪になるが、分かっているのか!」
「し、しかし……」
すると、いつも黙っている皇帝の隣席にいる謎の側近がゆっくりと御簾越しに話す。
「ふふふふ、ギラン将軍は少し混乱しているようですね。ここにいる皆もそうです。皇帝陛下に対し、少しでも反意を持つことはあってはならないこと……」
そして、男は席を立ちあがり、なんと、御簾から顔を出してきた。
「えっ!?」
「なっ!?」
その瞬間、目から異様な光が放たれる。
「うわあああああ!!」
「いいですか? あなた達は我々に絶対服従する下僕なのです。歯向かうことは一切、認めません」
その声を聞くと、そこにいた軍人達は全員、虚ろな表情で、力が抜けたようになった。
「いいですね? 我々に絶対服従しなさい。返事は?」
「「「は、はい……」」」
肯定の返事をした軍人には先ほど、異論を唱えたギラン将軍も含まれていた。
「そうだ。ギラン将軍、近くに来なさい」
「はい……」
「これから、私の言うことを聞くのです。いいですか?」
「はい……」
皇帝の隣にいた謎の側近はギラン将軍に目を合わせ、何やら術をかけているようであった。その間、ギラン将軍は無表情で目の瞳孔が不自然に開いていた。
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~アレス視点~
<ギースの聖王城>
先日、エルメス帝国の大船団が来たが、すべて仲間にすることができて、上機嫌だ。何しろタダで貴重な軍人、軍船、武器等が大量に入手できたのだから、笑いが止まらない。まるで僕らのために向こうから勝手にプレゼントしてくれてるようなものだ。
これにより、連邦海軍は軍船二百五十隻、軍人六千人になる!
ロナンダル大陸ではもちろん最強、以前、バハナ将軍に聞いた時、エルメス帝国には軍船百五十隻と言っていたから、そこから、今回頂戴した百隻を引くと、五十隻となる。
つまり、現状で比較すると――
ロナンダル連邦の軍船二百五十隻 VS エルメス帝国の軍船五十隻
となる。なんと軍船の数で五倍!!
これが笑わずにいられようか。確かに軍人の数は軍船の数に対し、心もとないが、万一の場合、ロナンダル王国の陸軍もサポート可能だ。こちらの二百五十隻は元々、すべてエルメス帝国にあった軍船だ。なので、敵方でその点を見越して計算できれば、普通は攻撃してこようとは思わないだろう。
但し、こちらの情報を遮断してるため、この戦力差すら気付いてない可能性もある。だから、何度も何度も軍船を送ってきてると。(その可能性もあるな)
だから、今後、取りうる選択肢は二つあるかな。今まで通り、情報を遮断して、軍船を回収し続けること。もう一つは、この戦力差を相手に教えて、戦意喪失させること。
普通なら、軍船が五倍差もあれば、戦わないよねぇ。そう普通ならね。でもエルメス帝国というのが普通かどうか、僕は知らないんだよな。
まあ、それ以外にもエルメス帝国に潜入した内偵隊とこれまで寝返った軍人から、いろいろ情報が入ってきているので、一度、エルメス帝国について情報を整理して、みんなで情報を共有しよう。
よし、会議だ。
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――――――
会議の出席者は僕(連邦聖王)の他
テネシア(連邦軍総司令官)、イレーネ(連邦事務局長)
バハナ(連邦軍大将)、ブリント(連邦軍将軍)
そして、ロルアス(ロナンダル王国・行政調査庁長官)だ。
ロルアスは連邦の所属ではないが、内偵隊の取りまとめをしてるので、
呼び寄せた。当然、長男(ライナス王)にも承諾をもらっている。
この会議は連邦内部重役の会議なので、「連邦内部会議」と命名した。
「連邦会議」だと七カ国の代表が集まる会議と名称が重複するからね。
僕「ロルアス長官、エルメス帝国の内偵調査報告を頼む」
ロルアス「はい、エルメス帝国はロナンダル連邦より国土が広いですし、人口も多いようです」
僕「やはりな。だから、あれだけ何度も何度も軍船を送りこめたんだな」
ロルアス「聖王陛下の予想通り、エルメス帝国は皇帝による強権政治体制のようです。そして、その皇帝を補佐する側近が二人いるようです」
僕「皇帝と側近二人か」
ロルアス「はい、皇帝はキース・サンドラという名前らしいですが、それ以外はよく分かっていません。実務はほとんど宰相のカバールが執り行っているようです」
僕「皇帝に宰相か。もう一人は?」
ロルアス「それが、まったく情報が出てきません。噂では知恵があるとか、不思議な力があるとか、影の権力者とか。とにかく謎めいています」
僕「軍はどうなんだ?」
ロルアス「軍隊が強い軍事国家ですが、完全に皇帝に服従しているようです」
僕「皇帝に服従? 血統とか?」
ロルアス「それが、現在の皇帝がたった一代で巨大な帝国を築いたようです」
僕「……それは大したものだ」
ロルアス「ええ、ですから生きる伝説のような存在になってるようです」
僕「へぇ、それは凄いな」
テネシア「ふふ、まるで、陛下みたいだな」(小声)
僕「なっ!」
イレーネ「ふふふふ」
テネシアの突っ込みで少し前のめりになったが、気を取り直してと。
僕「え~こほん、その三人はどんな政治をしてるのかな? 技術優先、軍事優先なのは分かっているが、それ以外ではどんな感じだろう?」
ロルアス「はい、広い領土ですが、元からあった本国(初期領地)とその周辺の被征服地に分かれています。そして本国が征服地に税や労役で重い負担を課しているようです」
これは前の世界の歴史で習ったのに似ている。まさに「ザ・植民地」だ。
ロルアス「さらに征服地の中でも、とりわけ亜人への差別は強いようです」
ううむ、差別は嫌だね。そんなことして何が楽しいのかね。
僕「しかし、そんなに国内が分かれていると、みんなで仲良くできないだろう?」
ロルアス「そうですね。征服者は被征服者を、人間は亜人を蔑んでますね」
んん?そう言えば、バハナ大将やブリント将軍も、元々エルメス帝国の軍人だったから、こういった差別意識はあったのだろうか? 今更だが確認しよう。
僕「バハナ大将、君は亜人への意識はどうだい?」
バハナ「それが不思議なのですが、こちらに来てからすっかり無くなりました」
ブリント「私もです」
僕「そう?」(そんなあっさりと?)
もしかして、日常的にやってるルーチンワーク(悪想念収納)のせいか? と言いうか、それしかないな。僕は主に「憎しみ」「殺意」の悪想念を収納してるけど、「憎しみ」を収納したら、差別意識の「蔑む」も弱めたのかな。「憎む」ことにより「蔑む」のなら、「憎む」が消えたら、当然「蔑む」も消えるよな。悪想念の根っこは同じだろうし。
んん? 今、重要なことに気付いてしまったけど、ひょっとして、軍人さんから「殺意」も吸収してしまったか? ありゃ~やってしまったな。ははは。道理でバハナ大将が一人も殺さず、仲間にしてきたわけだ。
現在、銃弾は殺傷力の無い「スリープ弾」に切り替え済みだ。でも大砲の方は殺傷力があるままなんだよ。でも、これではいざという時、撃てないんじゃないだろうか? ちょっと確認しておくか。
僕「バハナ大将、ちょっと聞きたい」
バハナ「はい、何でしょうか?」
僕「もし、今、目の前で軍船が大砲を撃ってきたら、撃ち返すかい?」
バハナ「そうですね。撃たなくて済むよう最善を尽くしますが、他に選択肢が無い場合は撃ちます」
僕「ホッ、それなら良かった」
バハナ「ただし、なるべく脅しで使って、死傷者を出さないようにします。それに相手の船を沈めた場合は救護します」
僕「つまり、大砲を使っても、なるべく殺さないようにすると?」
バハナ「その通りです。んん? あれ? 私、こんな人間でしたっけ??? んん??」
バハナ大将が考え込んでしまったよ。ははは。まあ、なるようになれだ。
※補足説明※
主人公はルーチンワークと称して、定期的に自分達に対する「憎しみ」「殺意」の悪想念を【収納】スキルを利用して吸収し、それを【収納】内で魔力変換して蓄えてます。そして、時折、「自分達に対する」という制限を外すこともありました。その場合、一時的に連邦全土の「憎しみ」「殺意」が吸収されてしまいます。
ただし、どちらにしても「反感」は対象外なので、しばらくするとまた「憎しみ」「殺意」は沸いてきます。主人公が「反感」を【収納】しないのは理性で制御できる弱い悪想念、「必要悪」と判断しており、各人が自己制御、自己解消して欲しいと願っているからです。例え「反感」を【収納】したとしても、本人が変わらない限りは「反感」は出続けますので、あえて「反感」を残すことにより、本人がそれを制御・解消できるよう成長(自己改善)の機会を残してると言えるでしょう。
これは利他行為でもありますが、主人公にとっても大きな利点があります。他者の「反感」を残すことにより、自分の誤り、欠点、独り善がりな点を指摘されやすくなります。主人公は前世の歴史学習により、まわりがイエスマンだらけになる弊害を十分認識しています。それと体験的に「俺様思考」「独善主義」の危うさも意識してました。
また、「反感」を残しておけば、人によっては、すぐに「憎しみ」「殺意」へエスカレートしていくので、【収納】スキルで魔力変換でき、魔力貯蓄量を格段に向上させることができます。このメリットは計り知れません。
過去、主人公は魔力切れで危ない目にあっているので、魔力量の向上には余念がありません。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




