第433話 大船団対峙
~ブリント将軍視点~
現在、カバール宰相の命を受けて、軍船百隻の大船団を従えて、海を西方に進んでいる。これだけの軍勢があれば、たとえクラーケン(巨大なタコの魔獣)とシーサーペント(巨大な海蛇の魔獣)が出現しても、太刀打ちできるだろう。(たぶん)
正直、軍船百隻なんて、前例が無いし、自分で言っておきながら、あれだが、断られるのを前提で話したつもりだった。断れれば、それを理由に侵攻の時期を引き延ばすことができたからな。まさか本当に百隻を用意するとは思わなかった。やはりこの国の支配者は想定の斜め上をいっている。
確かに帝国沿岸には百隻以上の軍船があるが、これだけ侵攻に出せば、沿岸の防衛が疎かになってしまう。まあ、それをカバーするために軍船を急造してるんだろうが、近隣で、もはやエルメス帝国に攻撃してくる勢力は存在しないと高を括っているのだろう。帝国に刃向かう勢力はいないと。
確かに大陸はすべて制覇した。だが、これだけの大船団を率いても、不安でしかたない。なぜなら、敵の全貌がまったく掴めていないのだから。今まで帝国から西方に向かった軍船は百隻を超えただろう。あれらは一体どうなっているのだ? 何の情報も無いのは薄ら寒く感じる。
とにかく西に向かえば道は開けるだろう。鬼が出るか蛇が出るか……
連戦連勝の名将、バハナ将軍なら、こんな時、何と言うだろう。
バハナ将軍も西方に行って、それっきりだったな……
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――――――
<ダルト王国側防衛線・飛行船の船長室>
「バハナ将軍! 東方から大船団です! エルメス帝国の軍船が多数接近してきます!」
「んん! 久しぶりのご来訪だが、今回は今までの最高の数だな」
「今、数えたら、百隻ほどあるようです」
「だが、もう少し近づくと、聖王陛下の防衛アイテムが起動するな」
「あれでみんな、海の魔獣の幻覚を見て、逃げ出してましたからね」
「ただ、今回は数が多いな。万一突破されたことも考えて、最大勢力で準備しよう」
「了解しました」
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――――――
<エルメス帝国側・軍船・船長室>
「ブリント将軍、もうじき魔の海域に入ります!」
「大砲の準備をしておけ!」
「はっ!」
さあ、クラーケン(巨大なタコの魔獣)でも、シーサーペント(巨大な海蛇の魔獣)でも出てこい! こっちは軍船百隻の大船団だ。出たら大砲の餌食にしてやるぞ!
魔の海域に入り、しばらくした頃――
「うわあああああ!クラーケンが出たああ!」
突如、目の前に巨大なクラーケンが現れ、大きな足を船に近づけようとしてきた。
「あれに捕まえられたら、海に引き込まれるぞ。その前に大砲で仕留めろ!」
「了解しました!」
「大砲、撃て―――――!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
次々と大砲がクラーケンめがけて発射される。
「ふふ、これだけ至近距離で大砲を撃てば、いかなクラーケンでも一巻の終わりだ」
しかし――
「そ、そんなバカな……」
クラーケンに命中したはずの砲弾がなぜか、クラーケンを素通りする。
「うわああ! クラーケンが迫ってくる!」
目の前にクラーケンの足が迫る!
「くそっ! ここまでか!」
だが、クラーケンの足が自分達を素通りする。
「えっ……」
「どうなっているのだ!?」
少し冷静になり、他の軍船を見たが、甲板上で軍人達が慌てふためいているものの、近づいたクラーケンはゆらゆら体を動かすだけで、軍船に傷一つつけていない。
「ひょっとしたら、これは……」
「戦隊の諸君、目の前の怪物は幻覚だ! あやかしの類だ! 気にせず進め!」
こうして、ブリント将軍ら船団は魔の海域を渡り切ったのである。
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<ダルト王国側防衛線・飛行船の船長室>
「バハナ将軍、幻覚アイテムが破られたようです!」
「そうか。さすがに軍船百隻の大船団には無理だったか。しかも向こうの指揮官は冷静なようだ」
「いかがいたしましょう?」
「軍船の準備はできたか?」
「はい、こちらも百隻揃えました」
「よし、敵の前方に横並びで布陣しろ。一隻たりとも先に進めてはならぬ」
「了解しました」
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<エルメス帝国側・軍船・船長室>
「ブリント将軍、前方に船が! いやあれは軍船です! それもかなりの数です!」
双眼鏡で前方の船を見る。
「なっ! あれは軍船! しかも我らの軍船と同じ形式だぞ!」
なぜ、我らと同じ軍船が我らに対峙する?
まさか……、あれは我らの仲間の船かもしれん……
「ブリント将軍、敵は横に広がり、我々の進行を妨げるようです」
敵方とは言え、自軍と同じ軍船と戦うのは気が引ける。
「全艦、停止しろ! 突破するため、例の陣形でいくぞ!」
「了解しました!」
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――――――
<ダルト王国側防衛線・飛行船の船長室>
「バハナ将軍、敵の船団が停止しましたが、突破型の陣形になりました!」
「ふっ、それなら、こちらも応じるしかないな。こちらも陣形を組め!」
「了解しました」
エルメス帝国側
船 船 船 船
船 船 船
船 船
船
船 船
船 船
船 船
船 船
船 船
ダルト王国側
双方、百隻の大船団が海上で陣形を組み、対峙するのであった。
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――――――
<エルメス帝国側・軍船・船長室>
「こ、これは……」
バハナ将軍が好んで使う陣形だな。まさか……
「いかが、致しましょう」
「兵力は拮抗してるし、陣形もしっかり組んでいる。うかつには手が出せない」
「ううむ、確かに」
「それに確認したいことがある。先方とコンタクトできないものか……」
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――――――
<ダルト王国側防衛線・飛行船の船長室>
「バハナ将軍、向こうの動きが止まりましたね」
「同じ兵力で、陣形を組んだら、簡単に動けないさ」
「このまま、しばらく睨み合いますか?」
「それもいいが、あまりじらすと敵が焦って強行突破してくる可能性がある。そうなったら、双方被害が出てしまうだろう。そうなる前に話をしてみたい」
「いつもの寝返り要請ですね?」
「ああ、彼らも上からの命令で来てるだけだろうから、話し合いの余地はあるはずだ」
彼らは元同僚だから、気持ちはよく分かるつもりだ。
――――
――――――
<エルメス帝国側・軍船・船長室>
「ブリント将軍、外から大きな声が聞こえます!」
「甲板に行こう!」
<<「エルメス帝国の諸君、私は将軍のバハナだ! 今はダルト王国側にいるが、君達と戦う気は無い! そちらの責任者と話させてもらえないか? 悪いようにはしない!」>>
「なんだと! バナナ将軍だと!? 生きていたのか!」
「会談に応じる! みんな大砲を撃つなよ!」(大きく手を振る)
その後、バハナ将軍は飛行船から軍船に移動し、会談のため、ブリント将軍のいる軍船に乗り込んで来た。
◇ ◇ ◇
「バハナ将軍、お久しぶりです! 生きていたのですね!」
「あっ、君はブリント大佐、今は将軍なのか?」
「はい、バハナ将軍やビルカーツ副将軍がおられなくなって、繰り上がりみたいなものです」
「そうか、偉くなったものだな」
「いえいえ、そんな、分不相応です」
「しかし、バハナ将軍、一体どうなされたのですか?」
「実はダルト王国側に寝返ったんだよ」
「そうだったんですか。でもお元気そうで何よりです」
「君が来た用件は分かっている西方侵攻だろ?」
「……おっしゃる通りです」
「ふふ、以前の私がそうだったからな」
「それがどうして向こうに寝返ったんですか? ダルトは弱かったはずですよね」
「問題はダルトではない。その向こうのロナンダル王国、ロナンダル連邦だ」
「西方の大陸のことですね」
「そこの指導者は連邦聖王陛下であり、とてつもない力をお持ちだ」
「力ですか? まさかエルメス帝国よりも強いのですか?」
「聖王陛下は戦いをお望みではないが、戦ったら、確実に帝国側が敗北するだろう」
「そんなバカな……」
「ここに来る途中、魔獣の幻覚を見ただろう?」
「ええ、見ました」
「あれも聖王陛下のお力の一つなのだよ」
「ええ! そうだったんですか!」
「悪いことは言わん。西方に手出ししない方がいい。それに聖王陛下は平和を愛され、ロナンダル連邦はエルメス帝国とは比べ物にならないぐらい豊かで満ち足りている。私も楽しい日々を送っているよ。こんな生活はエルメス帝国では味わえなかった」
「そうは言いましても、私も軍人、このまま手ぶらで帰ったら、厳しい処分が目に見えています。下手をしたら牢屋送りです」
「……牢屋ならまだいい方だよ。悪くすれば敵前逃亡の汚名を着せて死刑だ」
「確かにそうですね……」
「それなら、いっその事、こちら側に寝返らないか? 最初に言ったとおり、決して悪いようにはしない」
「う~む、バハナ将軍がここにいらっしゃるということは、そちらの軍勢は元エルメス帝国の軍人と言うことですよね?」
「ほとんどそうだ」
「私も仲間同士で戦いたくありません」
「それなら!」
「……ですが、私も軍人の端くれです。このまま業務遂行中に寝返っても寝覚めが悪いです。一度、本国に戻り、本件の説明をし、西方侵攻をあきらめてもらうよう報告したいのですが……」
「君の気持ちは分からないでもないが、それは絶対にやめた方がいい。皇帝陛下や宰相はそんなに甘くない。戻ったところで逮捕されるだけだぞ」
「しかし、これだけの軍人と軍船を抱えては……」
「ふふ、大丈夫だ。うちの聖王陛下は懐のとても広いお方だ。きっと全員、面倒を見てくれるさ」
「え! それは本当ですか?」
「それに君が戻って、ここでの情報がエルメス帝国に流れることは極力避けたい」
「なるほど、そうやって情報封鎖をされていたわけですね」
「そうだ。そうすれば、寝返ったという情報すら流れない。寝返ったということが明るみになれば、本人はいいとしても、家族や関係者にも迷惑がかかるだろうからね」
「なるほど、そこまで考えておられましたか。深謀遠慮、恐れ入りました」
「この計略も聖王陛下のお考えになったものだからね。聖王陛下は何より戦いを好まない。戦わずして勝つが基本だ」
「分かりました。全軍、そちらに投降させて頂きます」
「うん、わかってくれて嬉しいよ」
二人は固い握手を交わすのであった。
――――
――――――
~アレス視点~
<ギース領・聖王城>
先ほど、バハナ将軍から連絡があり、エルメス帝国の大船団、軍船百隻、軍人三千人を投降させたとのこと。毎回、敵の寝返り作戦をしてるが、今回は流石に数が多くてびっくりした。現在、連邦海軍は軍船百五十隻、軍人三千人いるが、これに今回の新加入分を合算すると、軍船二百五十隻、軍人六千人になる! あまりの防衛力増強に思わずニンマリしてたら、それを見越したようにバハナ将軍からお願いがあった。
これだけの成果を出したんだから、断れるわけないよな。
~~回想中~~
「今回の功績は賢明な判断をしてくれたブリント将軍にあります。ぜひ彼にも将軍職をお願いします」
と来た。間髪入れず「いいよ」と言いかけたが、ちょい待ち。
「確かに賢明な判断のお蔭で一兵も負傷せずに済んだ。二つ返事したいのは山々だが、それだとバハナ将軍と同位になってしまう。僕としては実績のある君の方を上の位にしておきたいんだが」
「それならば、私を大将にして頂けませんか?」
「大将?」
「正直、将軍でも、大将でも、実質的には変わりませんが、大将軍の略で、将軍より上位の意味合いがございます」
なるほど、僕も公爵から大公爵になったから、同じような感じかな。
「分かった。君を大将、ブリント君を将軍にしよう」
「ありがとうございます」
「あとでテネシア連邦総司令官に丁重に挨拶するようにな」
「了解しました」
「取り敢えず軍船はギースの軍港で燃料補給させて、軍人達は宿舎でゆっくり休ませてくれ」
「はい! 感謝します」
「明日にでも朝礼しよう」
~~回想終了~~
今回の新加入は三千人かぁ。ふぅ~凄い数だ。少なければ、一人一人面談するんだけど、今回は一斉でいいな。僕はエルメス帝国側からの新規加入者には必ず面談して必要に応じて【精神支配】をかけているが、今回は朝礼で一斉にかけよう。内容は――
ロナンダル連邦、連邦軍、連邦聖王(僕)、聖王家族に忠誠を誓うことだ。
何しろ、連邦海軍はギース軍港に基地、宿舎があるからね。間者や暗殺者が紛れ込んでいたら洒落にならない。ちなみに連邦陸軍はまだ三百人くらいしかいないので、聖王城の近くの基地、宿舎で訓練や日常生活をしてもらっているが、早く千人くらいには増やしたいかな。こっちはテネシアがかかりきりで(楽しみながら)訓練してる。
そう言えば、ギース領には郊外にロナンダル王国側の施設で、王軍隊基地(陸軍)とギース軍港近くにも基地(海軍)があるんだよな。前回の組織再編で連邦側と王国側で線引きしたけど、いざというときのため、連携だけは取れるようにしておこう。現状は海軍優勢な連邦と陸軍優勢な王国だから、不足分をお互い埋め合ってる感じだな。
ちなみに軍人に対し、忠誠を誓うよう【精神支配】スキルを使うことに罪悪感はあまりない。なぜなら軍人とはそもそも国や国家指導者に対し、忠誠を尽くすべき存在だからだ。本来は軍事訓練を通じて、忠誠心を養っていくんだろうが、それだと時間がかかってしょうがない。
それに彼らはエルメス帝国に忠誠を持っていたはずだから、その対象が変わるだけであり、誰にも忠誠を誓いたくないという人よりスキルがかかりやすいのだ。元々が軍人だから、忠誠心さえ持てば、長期間の訓練不要で、すぐ実践投入できるのは大きな利点だ。
※補足説明※
大船団が対峙した際、両陣営が陣形を組みましたが、ブリント将軍のエルメス帝国側が「魚鱗の陣」、バハナ将軍のダルト王国側が「鶴翼の陣」と古くから言われるものです。「魚鱗の陣」は相手を一気に突き崩す攻撃型の布陣であり、「鶴翼の陣」は突進してくる相手を左右から包囲する防御型の布陣でした。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




