第423話 シュルツ議長来訪 ※連邦各国位置概略付き
主人公の子供は各国から人気の的です。
「突然の訪問、失礼いたします」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
ギースの聖王城に移って、スローライフ寄りの生活をしていたところ、エルスラ共和国のシュルツ議長が訪問してきた。突然とは言っているが、事前に『ホットライン』(連邦各国の代表が映像付きで連絡できるアイテム)で来訪を告げているし、狙ったようなタイミングなので、おそらく話題はあの件だろうな。三国同盟の手続きが終わって、一段落ついたし……
「どうぞ、応接間でゆっくり話しましょう」
「そうですね」
謁見の間での挨拶もそこそこにして、早速、応接間にシュルツ議長を通す。現在、謁見は僕とメリッサの二人で対応してるので、そのままメリッサも同席する。こうしてると大公時代を思い出すよな。ここの謁見の間はメリッサの提案で設置したものだし。
メリッサ「シュルツ議長はエルスラ共和国の代表ですよね? そんな高位のお方がわざわざ来訪されるなんて」
シュルツ「いえいえ、それだけ重要な案件なのです」
僕「……だいたい察しはつきますが、どういった内容でしょうか?」
シュルツ「はい、聖王陛下のご想像通り、総督の跡継ぎの件になります。陛下は母国の王位を退任されて、ご長男に引き継がれました。それも、いきなりの引き継ぎではなく、十分な準備期間を置いてと伺っております……」
僕「その通りです。僕は引き継ぎを重視しますからね」
シュルツ「そうだと思いました。ギルフォード王国の方も既にご次男が王太子で着々と準備されてるようですし、ギルフォード商会もご長女が副会長で仕事を指揮してらっしゃいますよね」
僕「ええ、まあ……」(よく調べてるな)
窓から緩やかな海風がそよぎ、遠くで海鳥の鳴き声も聞こえる。
いつもと変わらぬ平穏な時間が少しの間、流れる。
シュルツ「……聖王陛下は聖王妃殿下との間に五人の御子様がいらっしゃいますね?」
僕「はあ……まあ、そうですが」
シュルツ「それでしたら、ぜひ後のお二人のどちらかをエルスラ共和国の総督の跡継ぎにして頂きたいのです」
僕「……」(やはり来たか、レエア、シルエスのことだな)
一瞬、間をおいて……
メリッサ「総督って、昔、あなたがエルスラ共和国で活躍して、報奨の形で賜った役職ですよね? それなら、陛下の子供は直接的に関係無さそうな感じもしますが?」
シュルツ「いいえ、救国してくださった大恩は一代で終わるものではありません。ぜひとも、御子様にも総督を継いで頂きたいのです」
僕「二人のうち、一人は既に自分の道を歩き始めてるんだ」
シュルツ「そうでしたか。それなら、ぜひもう一人を」
僕「そちらはまだ学生の身分でね」
シュルツ「おいくつですか?」
僕「十才だったかな」
シュルツ「それでしたら、今のうちから副総督に就任して頂いて、引き継ぎの準備をして頂いたらどうでしょうか?」
いつになく、グイグイ来るなぁ。しかし――
僕「シュルツ議長の意向はよく分かったが、前にも言った通り、僕は進路については本人の意向を最優先している。この場では即答できない」
シュルツ「それではご本人にご確認願います。宜しければ私も同席しますので」
メリッサ「あの~差し出がましいですが、そこまでして、うちの子を跡継ぎにご所望する理由はなんでしょうか? 報恩だけでも無さそうですが?」
さすがメリッサ、僕が聞きづらいことをズバッと聞いてくれる。
シュルツ「さすが聖王妃殿下、その通りです。身近にいらっしゃる聖王妃殿下ならお分かりになると思いますが、聖王陛下のお力は筆舌し難く、常人では計り知れないものです。以前、飢饉の際、食糧を出現されたり、竜騒動の際は竜を討伐もされましたが、あれは人間技ではございません。まさに神業と言っていいでしょう」
メリッサ「……ええ、そうですね」
シュルツ「それはエルスラ共和国だけでなく、連邦各国の代表皆が思っているところです。そのため皆、聖王陛下と親しくなりたいですし、関係を密にしたいと考えているのです」
メリッサ「……まあ、お気持ちは分かりますが」
シュルツ「だからこそ、総督という絆を維持したいのです。ご子息様が引き継がれれば、この絆が維持されると考えております」
僕、メリッサ「……」
シュルツ議長の熱意がじんわりと伝わってくる。
でも、はっきり言わないとな。
僕「まあ、仮にだが、本当に仮の話だが、もし息子が総督になったしても、大して貢献できないと思うぞ。僕の力を期待してなのは分かるが、息子にはその力は無いからね」
シュルツ「ふふふ、ご安心を。聖王陛下を前にして、不遜な表現で申し訳ございませんが、現在、総督職は国の象徴、いわゆる名誉職に近い形になってますので、そのあたりは分かっております」
僕「? つまり、息子の能力は期待してないと?」
シュルツ「いえ、国の代表メンバーの一員ですから、能力があるにこしたことはありませんが、聖王陛下のような神業は期待してないという趣旨です。神業の部分は象徴的意味が大きいです」
僕「う~ん、なるほどな。つまり両国関係の絆の意味が大きいということか」
シュルツ「その通りです。それに聖王陛下の御子様は大陸全土の王侯貴族から人気の的ですから、引き継ぎを受ければ、エルスラ共和国の国威発揚にもなります」
う~ん、そこまで本気なのか……
僕「……少し時間をもらいたい」
シュルツ「それと、今からの話はくれぐれもご内密にして頂きたいのですが、中央議会で総督職について、活発に議論しておりまして、実は『王政復活案』も出ているのです。まあ王政と言っても、昔のウラバダ王政の反省から、権力は完全に中央議会でコントロールしますが、名誉と権威としての王政には前向きになりつつあるのです」
僕「ええ!? そうだったのかい?」
僕がいない時に会議してたわけか。でも考えたら、僕は全部の会議に出席してるわけではなかったからな。さもありなんだな。
シュルツ「ええ、総督職に関する会議は秘密に行われていましたが、ウラバダ時代から時が経過して、王政への抵抗感は薄れております。ただ王でも総督でも形式上の話なので、実体は同じです」
僕「う~ん、そういうことか」
シュルツ「それと総督という役職名は保護国時代の名残なので、刷新したいという意見もありました。絆は大切ですが、総督は保護国に派遣された責任者の意味合いがあります。私達は絆と同時に対等な関係を望んでいるのです。現時点ですでに対等な関係なのは分かりますが、総督という名称はネガティブ(対等でない)な印象がつきまといますので」
僕「なるほど、そこまで考えていたのか」
シュルツ「ご子息様もまだ十才ということでしたら、とりあえずエルスラ共和国へ遊びにいらしてはいかがでしょうか? 判断するにしてもまずは相手を知ることです。私達もぜひご子息様にお会いしたいですし」
僕「う~ん、分かった。訪問の件は前向きに考えておこう」
シュルツ「よろしくお願いします」
シュルツ議長の熱意が痛い程伝わってきた。僕は総督職を一代限りで終わらすつもりで考えていたけど、どうも、そう簡単な状況でも無さそうだな。
一度、息子と話し合ってみるか。冷静に考えたら、悪い話ではないからな。エルスラ共和国は我が国の隣国で、非常に友好的だ。それに検討する時間も十分ある。
僕は現在、エルスラ共和国の中央議会に月二、三回、総督として出席してるだけだが、これと同じ職務なら、かなり楽な仕事だと思う。仮に国王になったとしても、シュルツ議長の話では、実体は総督と同じということなので、そこまで大変にはならないだろう。不確定要素はあるが、息子の就職先として前向きに検討していこう。
それにエルスラ共和国には僕の領地もある。しかも、かなりいい場所だ。特に港町の領地は貿易も盛んなので、維持したいのが本音のところ。でも領地を頂いて、国に対し十分お役目を果たさないのは僕のポリシーに反する。当然、領地から納税はしてるが、それだけでは悪い気がして、総督職をずるずるしてきた感はあるかもな。
ちなみにエルスラ共和国建国の際、功績を認められて、テネシア、イレーネ、ミアが伯爵位を授かり、高額の俸給を支給されていたが、その後、彼女達が母国(ロナンダル王国)で爵位上げをする際に、一緒に爵位を上げられ、その際に俸給を全額、固辞したんだよね。だから彼女達は公爵位になったけど無給だし、本当の意味で名誉公爵になった感じだ。それで彼女達はうまく足抜け(お役御免)できたわけだけど、僕だけ総督に残り、こういうことになったわけだ。やはり領地をもらうと簡単に足抜けできないね。う~ん、シュルツ議長の深謀遠慮かな。
だけど、最終的にはシルエスの判断に任せよう。
もし、彼がエルスラ共和国の総督なり(国王なり)を希望しなければ、僕一代で終わりにする選択肢はある。その際は領地返上もやむなしだね。どちらに転んでもいいよう心構えはしておこう。
※連邦各国位置概略※
【北】
チルザーレ王国
ヒルロア王国 エルスラ共和国
【西】 ハロル王国 ロナンダル王国 ギルフォード王国【東】
バナン王国
【南】
※エルスラ共和国の領地※
主人公はエルスラ共和国に二つの領地を所有。
(中央部のサンダ領と東部の港町マレイス領)
サンダ領は旧王都に隣接し、商業も発展して、比較的豊かな地。元王領。
マレイス領はギースと同じく、貿易、漁業で栄えている。
二領とも優良領地であり、代官任せ。
これとは別に旧王都(中心部)に主人公、テネシア、イレーネ、ミアの
屋敷があるが、これも維持されている。三人が名誉公爵(無役無給)
になってからは、屋敷の維持費、人件費などは主人公が一括負担。
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