第401話 魔法研究所(歓迎会)
楽しい歓迎会、聞き耳を立てる主人公です。
魔法研究所の初日のオリエンテーションを早めに切り上げ、夕方の早い時間帯から歓迎会を開くことにした。場所は商会系列の上品な酒場だが、二階の個室を予約した。ここはプライバシーが保たれ、お忍びの会合でたまに使うが、陽気に騒ぐより、落ち着いて話をする時にはちょうど良い空間なんだ。
参加者は僕(所長)、副所長のレネア、職員のリーベとロッツ、それに研究生のジリーネ(ドワーフ)、クーシャ(狐獣人)、レスティ(ダークエルフ)、ルイーズ(人間)だ。
六畳間ぐらいの部屋に八人だが、それぞれしっかり顔も声も確認できるし、丁度いい広さだ。物理的な距離が近くなれば、心理的な距離も近くなるだろう。
レネア「へぇ~ここはいい場所ですね。酒場なのに個室で落ち着いてます」
この世界の酒場はごつい肉体労働者達がガハハと豪快に笑いながら、賑やかに飲むイメージが強いし、それも悪くないが、年を重ねると、こういう静かな場所が好ましく思えてくるんだよな。
僕「そうだろう。雰囲気も上品だし、お酒と料理もおいしいんだ」
レネア「皆さん、お酒は大丈夫ですか?」
レネアが研究生達に声をかける。
ジリーネ「お酒は大丈夫です。むしろ好きです」
クーシャ「いけます」
レスティ「たしなむ程度です」
ルイーズ「ええと、ほどほどです」
ドワーフのジリーネはお酒が好きそうだな。
クーシャは普通ぐらい。レスティとルイーズは
抑え気味にしておくか。(僕が注文役だ)
僕「今日は四人の歓迎会だからな。楽しんで欲しい」
四人「「「はい!」」」
レネア「そう言えば、リーベとロッツとも飲むのは初めだな。お酒は大丈夫か?」
リーベ「ほんのちょっとなら」
ロッツ「僕も少しなら」
この二人は父親の宅飲みに少し付き合う程度かな。
そんなイメージがする。
僕「お酒以外の飲み物もたくさんあるから、無理するなよな」
姉弟「「はい」」
そう言えばレネアは飲めたっけ?
僕「君は飲めたっけ?」
飲んだのは見たことないが、いや、今まで未成年だし当たり前か。
でも、この世界では未成年飲酒禁止が明確になってないし、線引きが曖昧だ。
レネア「今日が初めての飲酒です」
僕「そうか。まあ、無理はするなよな」
このタイミングでお酒と料理が運ばれてくる。
クーシャ「うわあ、おいしそうですね!」
僕「海の幸、山の幸、いろいろ取り揃えてるからね」
ジリーネ「このお酒もいい匂いです!」
僕「ああ、それは珍しい果実のお酒だ。甘くておいしいぞ」
レスティ「量も多いですね」
ルイーズ「それに色も鮮やかです」
実は盛り付けも工夫している。ただ口に入ればいいというのでは味気ないだろう。僕は目でも楽しめる料理を意識してきたんだ。実際に作業するのは料理人だが、リクエストという形で常に商会系列の店には要望を出しているんだ。
人はクレーム、命令で言われるのと、お願い、要望で言われるのとでは、受け止め方がまったく違う。僕は先ず認めるなり、褒めてから、さらに「こうしたら、もっと良くなるよ」というスタンスで話をしている。いきなり文句を言ったり、サービス内容のダメ出しをしたら、やる気がなくなってしまいかねないからね。
そろそろいい頃合いだな。
僕「それではみんなお酒の準備をしてくれ、いいかな? それでは改めて、四人とも!魔法研究所の入所おめでとう!君達を心から歓迎する! 乾杯!!!」
一同「「「乾杯!!!!!!」」」
いいね、いいね、楽しい雰囲気だな。
こういう時間は大好きだ。
そして緩やかに時間が流れ、皆の歓談が続いたが、場が和んだところで、レネアが四人との距離をギュッと詰めるべく、踏み込んだ質問をするようだ。彼女達の話を酒のつまみに耳を傾けるとしよう。だてに村や町で庶民の噂話を隠蔽ヒアリング(聞き込み調査)してきてないよ。
レネア「ジリーネはドワーフで、生産職というのはアイテム開発に向いてますね。やはりドワーフの里の出身なんですか?」
ジリーネ「ええ、そうです。でももう、里はないんです……」
レネア「えっ! どうしてなくなったんですか?」
ジリーネ「私はこの国の北側に住んでましたが、昔、ウラバダ王国に占領されてしまいました。その後、王国が崩壊しましたけど、里があった場所はもう人間が住んでいたんです」
レネア「それだと、里の皆さんはどうされたんですか?」
ジリーネ「各地へバラバラです。でも、この国とギルフォード王国に住んでる者が多いようです。この二国は差別が少ないですし、仕事がありましたので」
レネア「そうなの……」
思い出した。ウラバダ王国時代、ドワーフ職人を監禁して強制的に武器を作らせていたんだよな。そうか。あの国に故郷があったのか。
でも、どこかに故郷があった方がいいだろうなぁ。まあギルフォード王国にはたくさんのドワーフが住んでるから、そこでもいいんだろうが、折角、この国に来たんだし、この国にドワーフが住みやすい地区があっても良さそうだよな……
う~ん、ちょっと考えておこう。
レネア「生活魔法アイテムの開発は魔法研究所の大きな柱となってるから、協力をお願いしますね」
ジリーネ「こちらこそお願いします」
見た目は小柄で可愛い感じだけど、ドワーフのたくましさも感じるな。故郷を追われても技術職で生計を立ててきたのは立派なことだ。
レネア「クーシャは狐獣人ということですが、やはり旧ウラバダ王国出身ですか?」
クーシャ「そうですね。でも、ずっと山奥の方でしたので、なんとか逃げ切りました」
レネア「じゃあ、故郷は大丈夫だったのですね?」
クーシャ「山奥だったのが幸いしました。それに妖術で悪い人間を避けられましたので」
レネア「妖術ですか!? どんな力ですか?」
クーシャ「人に幻覚を見せたり、操ったりします」
ほう、精神系スキルのようなものかな?
レネア「それで悪い人間から難を逃れたのですね」
クーシャ「そうです。欲に眩んだ人間ほど幻術にかかりやすいもので……」
レネア「なるほど。興味深い話です」
クーシャはこの国に来てから、占い師や相談事で生計を立てていたようだけど、不安定な仕事だよな。職業がらトラブルも多そうだし、苦労したんだろうな。
レネア「レスティはダークエルフですよね? 私はダークエルフという種族を見るのは初めてですが、出身はどちらですか?」
レスティ「はい、私はエルメス帝国に征服されたある里に住んでいました。その後はエルメス帝国に無理やり協力させられ、諜報活動をしてきました」
レネア「エルメス帝国の諜報活動ですか!?」
レスティ「まあ、諜報活動は名ばかりで、実際は奴隷と同じ扱いでした。亜人種族への差別も強かったですし、脱出してこの大陸まで来ました」
エルメス帝国からの避難民か……この娘も苦労したんだなぁ。
レネア「しかし、どうやって脱出したんですか? 警戒が厳しいでしょう」
レスティ「私は闇魔法が得意ですが、『影渡り』というスキルを使いました。人の影の中から影の中へと渡ることができます」
レネア「へぇ~世の中には様々なスキルがあるんですね」
影渡りか。たぶん【転移】の下位版だろうけど、影の中にいる状態ってどんな感じなんだろうな。
レネア「ルイーズは冒険者だったんですね? どうして魔法研究所に来たのですか?」
ルイーズ「元々、私は大人しい性格で、冒険者気質では無かったんです。でも雷魔法を使える仕事として冒険者が目に付いて、取り敢えずグループに入って活動していた感じです。今回、魔法研究所の募集を見て、直感で『ここだ!』と思いました。それに聖王陛下にも憧れもありましたし……」
嬉しいことを言ってくれるなぁ。こう言われると応援したくなるぞ。
レネア「あれ? 雷魔法と言ってますが、鑑定で見たら、“電気魔法“になってますよ」
ルイーズ「電気魔法!? ええ、そうなんですか! 実は雷魔法だけじゃ、範囲が狭いので、もっと広範囲の魔法が使えるようになりたいと強く願っていたんです。そうですか……、電気魔法ですか」
おお、少し嬉しそうだな。良かった。僕がタイミングを見計らって言うつもりだったが、レネアがいいタイミングで言ってくれたよ。
レネア「なるほど、それも興味深い話ですねぇ」
電気は今後、王国のインフラの柱になってくるから、本当に貴重なスキルだよな。「よくぞ、来てくれた!」と言いたい気分だ。あとで、そっと言っておこう。ここで一人だけ褒めたら、変な雰囲気になるからね。僕はそういう空気を読むのが得意なんだ。(少し自慢げ)
◇ ◇ ◇
今回、この四人は魔法研究所の研究生になったが、おそらく戦闘力もかなり高いだろう。兵士や冒険者ならそれでも良いだろうが、ここに来た以上は魔法の平和利用に努めてもらうし、他の魔法も覚えてもらう予定だ。
あと、研究生は何かと外出が多いから、すぐ分かるよう制服をつくっている最中だ。もうじきできるだろう。特に貴族の屋敷を回るなら相応の服装でないといけないしな。いかにも魔法研究所の研究生という感じの服装にしたいと思い、シックで上品で落ち着いたデザインをイメージしたんだ。
余談だが、僕が前世と現世の知識を融合して、制服などをデザインすることがあるが、自己評価ではイマイチでも、この世界では結構、受けがいいのがなかなか面白い。だけど昔みたいに調子に乗って、バンバン【複写】【加工】することはしないよ。サンプルと基礎資料ぐらいは用意するけど、後は商会の製品開発部門や技術研究所で(現実的)生産をしてもらう。
この世界でスキルと言ったら、魔法を指すが、人の手による「技術」も、ある程度は発展させていきたい。それは魔法依存を弱めるリスクヘッジにもなるからね。
魔法と技術をうまく組み合わせていきたいな……
ここは魔法研究所と銘打っているけど、技術も尊重した適正な魔法利用を考えている。将来は技術研究所と両輪のように協力し補完し合える関係になればいいな。
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