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第1870話 教育番組~仕事論5~

 続きです。

 先程、ホルミシス効果について触れたが、健康エクササイズという観点からいくと、アフターバーン効果というのもある。これは運動すると、数時間、代謝が上がり、何もしなくても脂肪が燃え続けるというもので、これゆえダイエット運動するなら、一日の始まりである朝がもっとも効果的と言える。


 寒い日にジョギングやスクワットをして体を温めると、運動を止めた後も、しばらく体が温かいのはアフターバーン効果があるからだ。体の中のエンジンに火が付くと、しばらく燃え続ける。


 日本の伝統的な子供の遊びに「押しくら饅頭」というのがあるが、これは寒い日の朝などに大勢の子供が集まって、互いに押し合うもので、暖が取れたんだよな。歌って楽しみながら。


 押しくら饅頭、押されて泣くな♪ 押しくら饅頭、押されて泣くな♪

 あんまり押すと、あんこが出るぞ♪ あんこが出たら、つまんでなめろ♪


 ※著作権フリー


 ふふ、自分も小学生の頃、やったっけ。あれもアフターバーン効果を利用したものだ。科学的に検証される前から、先人たちは、その効果を体験的に知り、それを後世に伝えたが、これも文化のひとつだ。童謡はいい。


 特に好きなのはこれ。


 夕やけ小やけの、赤とんぼ♪ 負われて見たのは、いつの日か♪

 山の畑の、桑の実を♪ 小篭に積んだはまぼろしか♪

 十五で姐やは、嫁に行き♪ お里のたよりも絶えはてた♪

 夕やけ小やけの、赤とんぼ♪ とまっているよ、竿の先♪


 ※著作権フリー


 子供の頃は、一番の歌詞しか知らず、とんぼに「追われる」情景を思い浮かべたが、大人になってから全体の歌詞を文章で見たら、「負われて」であり、姐やにおんぶされて、とんぼを見ていたことが分かった。単に、とんぼを見て懐かしむ歌ではなく、背景に姐やとの別れ、両親との別れがあり、その切なさが何とも言えない。


 郷愁を誘うが、その故郷に大切な人はもういない……。

 だけど、暗い歌ではない。四番目の歌詞の最後「竿の先」に、

 それでも先に進んでいくという決意を感じさせ、

 この状況を客観視できるだけ成長した自分がそこにいる。


 アフターバーン効果と似てるのがセカンドミール効果だ。これは朝食で食物繊維(特に水溶性食物繊維)を摂ると、その健康効果が午前中だけでなく、昼食後まで持続すること。朝食で摂った食物繊維は消化されず腸に残り、昼食、夜食を摂った際も、脂肪やコレステロールなど余分な成分を絡めとってくれる。


 食物繊維は消化に時間がかかるため腹持ちが良く、結果として間食が減り、1日の総カロリー摂取を抑えることにつながる。だから、ダイエットや生活習慣病の改善に効果的だ。その効果を最大限に活かすには朝食で摂ること。


 朝食で食物繊維を摂るなら、野菜のサラダやスープを食べるのがいいが、それに加え、白米を玄米や麦に変えたり、パンを白パンから全粒粉パンやライ麦パンに変えたり、ヨーグルトに果物やナッツをトッピングしたりもお勧めだ。


 さて、横道はこれぐらいにして話を戻そう。

 仕事論ということでストレスについて話したが、もう少し深掘りしたい。


 パネルを提示する。


□----------


 耐えられること

 耐えられないこと


□----------

 

「これは仕事に限らないが、苦しみやストレスには、この二つがある。悪口のようなものはスルーすればいいから耐えやすいし、耐えられるが、過度な長時間労働や低賃金労働は健康を害し、命を削るから耐えられない。気温が少し暑い程度なら耐えられるが、鉄板が真っ赤に焼けるぐらいの温度なら耐えられない。いいかい? 耐えられることは耐えていいが、そうでないことは耐えるべきではない。冷静な時に聞けば、当たり前のように分かる話でも、苦しみやストレスで精神状態がおかしくなると、その区別ができなくなるものだ。そうならないよう、普段から、その線引きを意識しておくことだ」


 この件に絡み、徳川家康の遺訓が想起される。


 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。

 急ぐべからず。

 不自由を常と思えば不足なし。

 こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。

 堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。

 勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。

 おのれを責めて人をせむるな。

 及ばざるは過ぎたるよりまされり。


 全文からにじみ出ているのは自己制御の重要性だ。特に「堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え」にそれが表れている。家康は正真正銘、忍耐の人だった。幼少期、両親から離されて今川家で人質生活を余儀なくされ、成人後、信長の命令で大事な正室と長男を処刑し、秀吉の命令で故郷の三河を奪われ、未開の地である関東に追いやられたこともあったが、すべて忍の一字で耐え抜いてきた。


 確かに立派ではあるが、常人にはとても真似できない。僕なら妻と子供を殺せと言われた段階でぶちぎれる自信がある。常人がこれをやろうとしたら、精神が持たないだろう。忍耐はあくまで各々のキャパの範囲でやればいい。


 ならぬ堪忍するが堪忍、じゃない。ならぬ堪忍しない堪忍、だ。


 それに、家康の遺訓は、部下や民に我慢を強い、反乱を防ぐ狙いがあったと推察する。耐えるといつか爆発するので、そうならないよう、耐えて耐えて耐え抜け、とやったんだろう。それは統治者に都合のいいマインドコントロールだ。


 かつて家康は武田信玄と三方ヶ原の戦いで大敗し、恐怖のあまり脱糞したことがあったが、情けない自分の姿を絵師に描かせ、今後の戒めにしたのは有名な話。創作(作り話)の可能性はあるが、家康ならやりそう。後に自分が成功を収めても、天狗にならないよう先に手を打つ徹底ぶり。自分で自分をマインドコントロールできたからこそ、他人もマインドコントロールできた。


 ある程度、耐えるのはいい。

 だが、耐えて耐えて耐え抜けは、やり過ぎだ。

 限界に達し、最悪の事態を選んだら元も子もない。


 パネルを提示する。


□----------


 耐えるべきこと

 耐えるべきでないこと


□----------


「あと、これもだ。世のため人のため自分のためになることなら、

 ある程度、耐えていいが、そうでないことは耐えるべきではない」


 ギロン王子が口を開く。


「忍耐のために忍耐をしてはいけない、ということですか?」

「そうそう、忍耐は手段であって目的ではないからね」


 耐えるために耐えてはいけない。


「どの仕事にも大なり小なり苦労や忍耐は付きものだが、苦労や忍耐の多い仕事に就いてくれる人たちに敬意を払い、感謝しよう。自分たちが苦労や忍耐を少なくて済むのは彼らのお陰だ」


 前の世界において注目している言葉に、エッセンシャルワーカー(Essential Worker)というのがある。日本語に直訳すると「不可欠な労働者」で、丁寧に訳すと「生活必須職従事者」となるが、英語の方が直感的にしっくりくる。英語圏では、キーワーカー( Key worker)、クリティカルワーカー (critical worker)とも言う。


 例の感染症のパンデミックの最中、ロックダウンや外出自粛、3密を避ける呼びかけにより、多くの人がリモートワークへと移行したが、そんな状況下でも、感染リスクと向き合いながら、暮らしを外(現場)で支え続けてくれた人々がいた。


 それが、エッセンシャルワーカーと呼ばれる職業人で、当時は主に医療従事者を指していたが、本来の意味はそれに限定したものではなく、今では本来の意味に従い、人々の生活維持に欠かせない職業に就く人全般を指すようになった。


 エッセンシャルワーカーは

 人々の健康、安全、インフラ、生活必需品の供給など

 多岐にわたる分野で活躍している。例を挙げると、


・医療関係者

  医師、看護師、薬剤師、救急救命士、介護士、

  ケアマネジャーなど

・福祉、保育関係者

  保育士、幼稚園教諭、児童養護施設職員など

・生活インフラ

  電力・ガス・水道の保安、鉄道・バスの運転手、ごみ収集、

  通信事業者

・物流、運輸関係

  トラックドライバー、郵便・宅配便の配達員

・小売、販売関係者

  スーパーマーケットやドラッグストアの店員

・公共・治安維持

  警察官、消防隊員、行政の窓口職員

・その他

  清掃員、警備員、農業関係者


 あくまで、これはほんの一部。その職業がないと社会が回らない、多くの人が困るというのであれば、それはエッセンシャルワーカーとなるだろう。2022年改定の「厚生労働省編職業分類」によると、日本国内の職業(職種)は18,725種類も存在するというから、名称が世に知られていないだけで、多くの人の縁の下の力持ちとなっている職業はたくさんあるはずだ。


 現代資本主義社会では、他者のためになる労働であればあるほど、受け取る賃金がより少なくなるという、逆転現象が起きおり、実際、エッセンシャルワーカーは労働に対し賃金が安すぎる事例が多い。


 厚生労働省が公表した2025年版「労働経済の分析(労働経済白書)」によれば、生活やインフラなどの維持に従事するエッセンシャルワーカーの年間の平均賃金はそれ以外の職種と比べて100万円低く、50代後半では200万円の差に広がっているとのこと。介護の仕事で年収300万円の人がいる一方、外資系コンサルの仕事で年収2000万円の人がいたりする。


 公益性の高い職業に就いている人の賃金が低く、そうでない職業に就いている人の賃金が高いのは道理に反している。世のため人のために働いている人に報いなければ、その職業に就く人が減り、拝金主義が横行し、結果的に世の中が悪くなるだろう。他人の上前をはね、寄生虫のように他人の成果を貪るような仕事は社会にとって有害だ。だが、そういう仕事に限って賃金や報酬が多かったりする。労多くして稼ぎが多いならいいが、労少なくして稼ぎが多いなら、それこそが、労多くして稼ぎが少ない状況(経済格差)を生み出している元凶だ。


 金持ち父さん(搾取する人)がいるから、

 貧乏父さん(搾取される人)が生まれる。

 いい加減、金持ち父さんを賛美するのはやめよう。


 エッセンシャルワークの明確な対義語は定められておらず、強いて言えば、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)があるだろう。これは人類学者デヴィッド・グレーバーが提唱した、本人さえも「意味がない」と感じる、社会に貢献しない無意味・無有害な仕事のこと。富裕国の労働者の40%ぐらいが従事していると指摘され、取り巻き、脅し屋、尻ぬぐい、書類穴埋め人、タスクマスターの5つに分類されるという。


・取り巻き (flunkies)

  誰かを偉そうに見せるためだけに存在する仕事(受付、ドアマンなど)

・脅し屋 (goons)

  雇用主のために他人を脅したり、欺いたりする仕事

 (企業弁護士、ロビイストなど)

・尻ぬぐい (duct tapers)

  組織の欠陥や、解決しない問題を一時的に取り繕う仕事

 (使えない上司のミスを埋める部下など)

・書類穴埋め人 (box tickers)

  実際にはやっていないことを、やっていると見せかけるための仕事

 (無意味な報告書作成など)

・タスクマスター (taskmasters)

  他人に無意味な仕事を割り当てたり、その場にいない部下に細かく

  命令するだけの仕事(中間管理職など)


  ちょっと偏見が入ってるなぁ……。


 これらは生産性が低い仕事と判断されるのだろうが、生産性が低くても、いや低いからこそ、世の中の役に立つ仕事があり、僕から言わせれば、ブルシット・ジョブでないのもある。例えば、受付やドアマンは会社の顔として重要なポジションだし、尻ぬぐいとされるアフターフォローは基幹的職種と同じぐらい重要だ。タスクマスターとされる中間管理職だっていないと組織が回らない。


「無有害」ということで、グレーバーはあえて触れなかったのだろうが、本当に有害な仕事は、他人を奴隷のように働かせ、時には法に抵触するような悪いことをさせ、自分は安全ポジションにいて、その成果を横取りするような仕事だ。害虫、寄生虫のような仕事と言っていいだろう。


 だが、得てして、そういうのが組織のトップに就いたりするんだよな。そして、排除されるべき存在が、正常に働いている人を排除するという変なことが起きる。正直者が馬鹿を見ず、きちんと仕事をした者が正当に評価され、上に行ける社会にしないと。


 でも、中々そうならないのは、一般論では、そう思いつつも、いざ自分に置き換えると、自分は他人の上前をはねて、いい思いをしたい、という人が多いからだろう。自分がされた嫌なことを他人にしないと気が済まない、という人も多そうだ。このあたりは道徳で教え、正すべきことだが、前の世界(戦後教育)では、あまり教えていないんだろうな。教える側も分かっていなかったりするし。


 餞別でワインを贈ろうということになり、一杯ずつ樽にワインを入れることになっていたのに、「自分一人ぐらい水を入れても分からないだろう」と思い、結局、皆がそうしたため、樽の中は水でいっぱいになったという寓話があるが、人の持つ本質を的確に表している。人前や外見では善い人ぶっても、中身はそう簡単に変わるものではない。人の見ていないところで本性が出る。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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