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第1846話 ギルフォード財団21~感謝と謝罪~

 関連回

 第1591話 ギルフォード財団16~善行の勧め~

 第1592話 ギルフォード財団17~善行の勧め2~

 第1593話 ギルフォード財団18~善行の勧め3~

 第1594話 ギルフォード財団19~善行の勧め4~

 第1613話 霊性研究所33~徳と業4~

 第1665話 ギルフォード財団20~ボランティア2~

 ここはギルフォード財団本部の大会議室。

 今日は大勢の職員やボランティアを集めて研修会を開催している。


 ギルフォード財団本部は聖王城の城壁の中にあり、文字通り近所なので、

 ちょくちょく来るが、あれよあれよという間に発展したものだ。 


 見渡す限り人がいっぱい。ここだけでも結構な人数が集まっているが、各国の支部の会場にも魔法アイテム『スクリーン』を設置し、同時中継で、ここ以外でも多くの人が観ている。


 この方式は本当に便利だ。ギルフォード商会や療養所組合などでも採用しているが、説明が一回で済むのがいい。録画してるので観る側にとっても後から見返しできて都合がいいだろう。


「――以上が、情報通信アイテム、リンクの使用法についての説明となります。皆さん、これは財団からの貸与品になりますので、くれぐれも落としたり、壊したり、失くさないようにして下さい。また目的外使用したり、他人に渡したりすると直ちに回収されますのでご注意下さい」


 流石、事務局長のガルシア、理路整然とした説明だ。以前はルルアがしていたが、側近が育つと安心して任せられる。彼はエルスラ王国の中央省庁の元役人で、ここに出向していたが、今は完全にここに籍を移し、財団の貴重な戦力となっている。


 リンクはスマホ型の情報通信アイテム。ボランティア活動は日時や集合場所のやり取りが欠かせないが、これを使えばメールのように簡単にできるので、各地で同時並行的に一斉に行動することが可能だ。


 バカッターなど前世の悪しき事例が頭にあり、SNS的なものは長らく封印してきたが、善行に限定するならいいだろうと思い、解禁した。但し、悪口、誹謗中傷の類は一切禁止。私用目的もNGで、あくまでボランティア活動の連絡のやり取りに限る。 


 財団は僕が設立したもので、僕が理事長となり、同時に孫のルルアを副理事長にして、当初から彼女を後継者として組織を固めてきた。これは、レネアを後継者とした魔法研究所、ディオネを後継者とした連邦アカデミーと同じやり方だ。組織を作って後から後継者を育てるより、組織を作りながら同時に後継者を育てるのは非常に効率がいい。


 どんな組織でも後継者育成を疎かにすると将来がない。その事態を避けるためには引継ぎが大事であり、リレーの並走のごとく、一緒に仕事をする期間が長いほどいい。それをせず、資料をポンと渡し、「あとはよろしく」でうまくいくわけがない。


 立つ鳥跡を濁さず。自分がいなくなっても難なく回るようにするのが本当の意味での引継ぎだ。それをせず、自分がいなくなって困る組織を思い浮かべて、「やっぱり自分がいないとダメだな」とニヤニヤ悦に浸るようでは小物もいいところ。他人の不幸を喜ぶなら、業を積むことになるだろう。


 心の中だけなら悪いことをしてもいい。

 と思っている人がこの世には多いが、その悪習を直さない限り、

 人生学校を卒業することはできない。


「それでは、おじい様、講義を始めましょう」

「うむ、そうだな」


 近くに座るルルアと小声でコミュニケーションを取る。念話を使おうと思えば使えるが、目の前の人物とそれをすることはしない。フェイス・トゥ・フェイスがコミュニケーションの基本だ。財団の連絡事項の説明が終わり、いよいよ僕の番だな。既に中央演壇に陣取り、ここまでずっと会場の様子を眺めていたから、会場との波長合わせもバッチリだ。


「続きまして、ギルフォード理事長からのご講義になります」


 進行役のガルシアが会場にそう宣言すると、皆の視線が一斉に僕に集まる。いいね、この感じ、これまで講義は数えきれないぐらいしてきたが、この緊張感は悪くない。その昔、日本のとあるベテラン大物歌手が「何十年、コンサートをしても、人前で歌う時は緊張する」とインタビューで本音を漏らしたが、僕も同じ、少し緊張する。


 でも、こういう場で緊張するのは当然だし、逆に緊張しない方がマズいだろう。緊張しない方法として、手のひらに人という字を書いて飲むとか、観衆をジャガイモと思え、といういのがあるが、僕はそういう人を食ったり、人を上から見下ろすようなことはしない。


 相手を壁か何かだと思い、相手と波長を合わせず、自分の波長で一方的に話せば緊張しないが、それは相手に失礼であり、不誠実な態度だ。僕は誰に対しても誠実でありたい。彼も人なり、我も人なり。この世を共に生き、同じところを目指す同志だ。それでは始めるとしよう。


「当財団の理事長であるギルフォードだ。みんな、日々ボランティア活動に協力してくれて、ありがとう。みんなに会えて大変嬉しく思う。これから講義をしよう。今日のテーマは『感謝と謝罪』だ」


 感謝と謝罪については、これまでも折に触れ、あちこちで話をしてきたが、先日、ルルア達と「人生学校ゲーム」をして、徳の業の仕組みを説明しながら、それに密接に関連するものとして着想を得た。「人生学校ゲーム」については、事務連絡の中でガルシアから紹介があり、霊性研究所同様、ここでも参加者あてに「よろしければどうぞ」というスタイルで販売を始めた。


 そんなわけでギルフォード商会から数人来て手伝ってくれているが、彼らからしたら、財団も商会いや財閥のグループのように思っていることだろう。財閥と財団はまったく別の組織だが、財団の慈善活動が活発になればなるほど、結果的に財閥の信用や名声を高めるので、財団に親近感や好感を抱くのは分からないでもない。


 19世紀のアメリカにおいて、スコットランド移民の労働者から身を起こし、製鉄業界で大成功を収め、やがて鉄鋼王と呼ばれるまでになった人物がいた。そう、アンドリュー・カーネギーである。彼の凄いところはビジネスの才覚に秀で、財を成したからではない。その後だ。


 莫大な富を生み出す鉄鋼会社カーネギースチールをモルガン財閥が経営するUSスチールに売却して引退。手にしたお金でカーネギー財団を設立し、残りの人生をすべて慈善活動に捧げたのだ。元々USスチールはモルガンのフェデラルスチールとカーネギーのカーネギースチールの合併により、ペンシルベニア州ピッツバーグにおいて1901年に設立された会社だが、カーネギーは損得勘定で会社を売ったわけではない。それが証拠に1960年代までUSスチールは粗鋼生産量で世界首位を維持し、鉄鋼の巨人の地位を欲しいままにしていたからね。かつて世界の鉄鋼生産の約3分の1を占め、米国の近代産業の屋台骨を支えた会社だ。


 最近、日本企業がUSスチールを買収したが、100%子会社化したにもかかわらず、現地の経営陣や労働者をそのまま維持し、USスチールの名を残すことにしたのは英断であろう。日本企業は相手の文化を尊重し、プライドを傷つけないよう配慮したのだ。


 カーネギーは長く続ければ、さらに儲けることができたが、人生の終盤、考えを変え、66才で引退し、以降、83才で亡くなるまで、それまでに築いた巨万の富を、教育、図書館、平和活動などの慈善事業に投じたのだ。


 人はかくありたいもの。もらうだけ、貯め込むだけでは成功者と言えど、それで終われば守銭奴と変わりない。成功し、財を成した後、どう行動するかで、人としての評価は決まるのだ。


 ということで、僕もアンドリュー・カーネギーやアルフレッド・ノーベルを見習って財団を設立し、慈善活動をしているが、カーネギーやノーベルと違うところもかなりある。


 先ず第一は本業を売却していない点だ。ギルフォード財閥はあまりに巨大なので、購入できる人はいないだろうが、仮にいたとしても売るつもりはまったくない。ギルフォード財閥は単なる商売目的の組織ではなく、善行を広めることも目的にしているからね。商売を畳んで換金して、お金がなくなったら善行を続けられなくなってしまう。だが、商売を続ける限り、ずっと善行を続けることができる。僕がいなくなった後もずっとね。


 商売するから善行ができ、善行するから商売ができる。

 この循環を続けてもらいたい。


 それと、財団を設立する際、財閥の資金は一切使っていない。あくまで僕の個人資金だけだ。これにより、会計上も両者を明確に区分できている。また、カーネギー財団やノーベル財団の善行は施しのごとく何かを与えるスタイルが多いが、ギルフォード財団では何かを共にするスタイルが多い。うちも何かを与えることはあるが、それで終わりにしない。皆が手を携え、ひとりひとりが自発的に行動できる社会を目指す。


 読み書きできない子供にポンと本を渡して終わりではく、ちゃんと寄り添い、字を教える。食べ物がないから、食べ物をポン、お金がないから、お金をポンはしない。お金、道具、施設などを提供しても、そこに人の血が通わなければ、本当の助けにはならない。


 ギルフォード財閥は商売と善行の両立を、ギルフォード財団は善行の専念を心がけており、両輪のようにうまく回っている。後継者育成も組織固めも万全だ。


 そうそう、ギルフォード財団がカーネギー財団やノーベル財団と大きく違うところがあった。それは株や債券などを持たず運用していない点だ。もともと僕は不労収入なるものを否定的に考えており、この世界に導入していないが、その点は財団でも徹底させてもらった。財団らしからぬ財団だね。ふふふ。


 だからギルフォード財団に運用収入は一切なく、僕の個人資産の切り崩しが主な収入源だ。ここで販売した本などの収益はここに入れているが、人数がそこそこいるので、霊性研究所と違って、それだけではカバーできない。でも大丈夫。僕の個人資産は莫大だ。100年、200年以上持つだろう。隠し資産(地下資源)を使えば、もっと持つ。


 ただ、インフレになるとマズいので、資金の供給は市場を見ながら、制限をかけている。その意味でも、お金による救済より、行動による救済の方がいいんだよな。お金がなくて困っている人に、お金を配るのは、よくやりがちな救済方法だが、お金が市場に出回れば、インフレが起こり、結果、思ったほど物が買えないという事態を引き起こす。


 であれば、お金を配らず、雇用・労働の環境を整え、働き方を教え、自力で稼げるようにした方がいい。幸い、今は貯蓄推奨政策が功を奏し、デフレ気味なのでインフレ余地があり、ある程度、お金を配っても影響はほとんどないけどね。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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