第四章 明日へ続く世界 ー生きる意味ー
本当に速くなったと、結衣は客席から早紀を見ながら思った。
単にスピードが上がっただけではない。
大舞台で物怖じしない精神力も、逆に大会を楽しんでしまうような余裕もこれまでにはなかったものだ。
早紀が直線で加速して他の選手をどんどん引き離すのを見ながら、結衣は早紀の成長を誇らしく思った。
みなさん見てください。
これが私の自慢の妹です。
大声で叫びだしたい気分だった。
私が私でいれる理由。
完璧であろうと思える理由。
どんな努力でもいとわずにできる理由。
それは、すべて早紀だった。
早紀にとって、理想の姉であること。
それが、結衣の全ての行動原理。
結衣の生きる意味。
誇らしくて、嬉しくて、楽しくて、結衣は良質な映画をみているような気持ちで、早紀の走りを見守った。
走る。
走る。
「水野先輩、飛んでるみたい」
ぼそっと、結衣の隣で新入部員が呟いた。
そう。
まさにその通り。
結衣もかつてインターハイで経験した、地面を滑るような、あの感覚。
早紀もまた、今まさに、その足で地面を滑っていた。
スケート選手のように、優雅に。
踊るように。
えも言われぬ軽快なステップで、他の選手をまったく寄せ付けない。
「水野先輩、きれい」
「そうだね。まるで、踊ってるみたい」
口々に、生徒たちはそんな感想を漏らす。
「早紀、ほんとうに強くなりましたね」
結衣の隣で、柚木もまた、誇らしげに感想を述べた。
「でしょ」
「ええ、まるで、地面を滑っているようです」
「そうね」
「先輩、何かされたんですか?」
柚木たちには、秘密特訓のことは内緒だった。
二人だけの、秘密の秘密特訓だからだ。
二人だけの秘密。
「ふふっ。内緒だよ」
結衣は歌うように、楽しげに笑った。
「ほんとに、速くなりました」
しみじみと、柚木は早紀を見つめた。




