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第四章 明日へ続く世界 ースタートー

「インターハイは、体育祭のように甘くはないよ」


「わかってるよ」


 会場で再会した二人は、試合直前、会場に向かう暗い廊下の中で短い会話を交わした。


 それだけで十分勇気づけられた早紀は、一歩一歩、会場へと歩を進めた。


 暗い廊下を抜けると、そこには夢にまで見た眩しい景色が広がっていた。


 久しぶりの大舞台。


 満員の会場。


 グラウンドからは人がまるで米粒のように見える。


 観客席をぐるっと一周見渡した。


 西側の客席の最前列に、早紀を応援する横断幕がかけられていた。


 早紀の中学が陣取っている場所だ。


 横断幕の上で、後輩たちが黄色い声援を早紀に飛ばしている。


 その横では、結衣がいつものように早紀を見守ってくれていた。


 眩しい太陽と、それ以上に明るい声援が、早紀に力を与えた。


 早紀は軽く手を挙げて後輩の声援に応えた。


 緊張が、早紀のゼッケンを揺らした。


 個人競技でインターハイに出るのは始めてだった。


 リレーとは違い、全部の責任が、緊張が、自分にのしかかってくるのを感じた。


 とてつもない孤独が、早紀を押しつぶしてしまいそうだった。


 そんな気持ちをぐっと飲み込んだ。


 大丈夫。


 私にはお姉ちゃんが、みんながついてる。


 下を向いて靴ひもを確認する。


 大丈夫。


 スタート位置について、スタートダッシュの確認をする。


 これまで何千回、何万回とやってきたスタートの練習も、この舞台だと、始めてする練習のように感じた。


 早紀は何度か動きの確認をした後、スタート位置についた。


 もうすぐ、スタートだ。


 陸上の短距離走は、数十秒で結果が決まる。


 何年もやってきたことが、その数十秒に表れる。


 選手にとって、その数十秒は、何分にも、何時間にも感じられる。


 逆に、一秒にも満たなかったかのようにも感じる。


 しかし体は、何時間も山登りをした時のように疲れきっている。


 そんな不思議な感覚が、早紀は大好きだった。


 時間を支配しているかのような気持ちになれるからだ。


 インターハイではどんな風に感じるんだろうかと、スタートが近づくにつれ早紀のわくわくは増していった。

 ピストルを持つ審判がスタート位置に立つ。


 いつのまにか緊張は消え去っていた。


 早紀の神経は極限まで集中していた。


 あんなにも騒がしかった周りの音は消え去り、無音の世界に、ピストルの音だけがこだました。


 早紀は前だけを見て飛び出した。


 他の選手のことは全く気にならなかった。


 早紀の意識はゴールだけに集中していた。


 右足を出し、次に左足。


 そんな動作をスローモーションのように感じながら、一歩一歩、体重の動きを確認しながら、体の傾きを調整した。


 とんっ。


 早紀の足が地面に着地するたび、地面は軽やかな音をたてて早紀の体を押し返してきた。


 大きな力に押されて早紀の体が跳ねると、もっとずっと遠くに次の足が着地する。


 一歩一歩、早紀は大きく跳躍する。


 加速を体で感じる。


 風になり、流れに乗って風とともに空を切る。


 そんな感覚に包まれる。


 そうして、跳ぶ。


 跳ぶ。


 飛ぶ。


 最初のカーブが迫ってきた。


 体を少し斜めにして、体重を移動させ、加速したまま一気にカーブにつっこむ。


 カーブを曲がりきると、最も長い直線にでる。


 早紀は後ろは気にせずに一気に駆け抜ける。


 ギアを調整するかのように足に力を入れ、スピードを上げた。


 ぐんっぐんっと、まるで風を切る音が聞こえるかのように、スピードが上がるのを感じた。


 本当に飛んでいるのではないかと錯覚するほど、体が軽かった。

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