第四章 明日へ続く世界 ーインターハイの朝ー
インターハイの日の朝は、いつもと変わらない穏やかな朝だった。
先に目覚めたのは結衣だった。
静かに起き上がり、横で寝ている早紀の髪の毛を撫でる。
今日はインターハイか。
早紀は順調に勝ち上がり、とうとう夢の大舞台まで歩を進めていた。
全国の生徒がホテルで寝泊まりするなか、早紀の学校は会場が近くなので、部員たちは自宅で寝起きしていた。
結衣は、自分が中学生だった頃のことを思い出していた。
インターハイの朝。
あのとき、私は何を考えたろう。
まだ早紀に謝れてない、あの頃の結衣は、からっぽの心で退会に向かっていた。
そうだ。
そうだった。
応援席に早紀がいてくれたらと、何度も願った自分を思い出した。
叶うことのなかった願い。
早紀には、そんな想いはさせない。
「今日はちゃんと応援に行くからね」
結衣は早紀の寝顔に語りかけた。
「だから、ちゃんと、実力を出し切るんだよ」
きゅっと、早紀の寝顔を抱きしめる。
「お姉ちゃん、苦しいよ」
「あ、ごめん、起こした?」
早紀は目をこすりながら体をおこした。
「うん。おはよう。お姉ちゃん」
「おはよう」
「さ、早く顔洗って。練習するよ」
「うん」
早紀が顔を洗い、着替えを済ませて庭に出ると、結衣は既に体操着姿で柔軟体操を始めていた。
早紀も横に並んで体をほぐし始める。
「いよいよインターハイかー。長かったような、短かったような」
しみじみと言う結衣に、 「いままでありがと」 と早紀がつぶやいた。
「なになに? 聞こえなかったもう一回」
結衣が聞き返すと、早紀は恥ずかしそうに顔を背けた。
「何でもないよ。はい、走り込み。するよ?」
早紀は立ち上がって、走り出した。
「おうよ」
どんとこい! とでもいうように、結衣も後に続いた。
秘密特訓は、いつもより軽めに済ませた。
食事をし、着替えを済ませて、家を出る。
結衣は後から直接会場に行くからと早紀を送り出した。
「行ってらっしゃい」
「うん!」
早紀は元気よく走り出した。
お姉ちゃん。
あなたがいれば、私はなんでもできるよ。
早紀は、幸せを噛み締めた。




