第三章 再び、あの場所へ ー雪解けー
「おはよう。水野さん」
「早紀ちゃんおはよう」
「あ、うん。おはよう」
その日から、早紀のクラスでの扱いは目に見えてかわった。
それまで休み時間に早紀に話しかける者など誰もいなかった。
しかし今では、入れ替わり立ち替わり早紀の席に誰かがやってきた。
まるで、早紀に話しかけることが名誉でもあるかのように。
そしてこれまで話したこともないような子までが、早紀に話しかけるのだった。
早紀がさけられていると思っていただけで、実際は、早紀が他の生徒を寄せ付けないようにしていたのだと、早紀は今ならわかる。
去年の体育祭の後、必要以上に自分を責めた早紀は、クラスメイトも同じように自分を責めているんだと、被害妄想を膨らませていた。
そのせいで、早紀に話しかけようとするクラスメイトがいると、とてもよそよそしい態度をとってしまったのだ。
結果、クラスメイトたちも、早紀にさけられているように感じてしまっていた。
それが、一年間の早紀のクラスでの孤立の原因だった。
はじめはささいなすれ違いだったとしても、それが続くと、関係を変化させることは難しい。
早紀はどんどん意固地になっていっていた。
それが、今年の体育祭をきっかけにして、かわっていった。
ただ、それだけのことだった。
もともと、結衣と同じように人を引きつけるオーラを持った早紀がクラスのまとめ役になっていくのに、そう時間はかからなかった。
最初こそ戸惑っていた早紀だったが、いつの間にかそれが自然になり、早紀はだんだんクラスでも本当の笑顔で笑うようになっていっていた。
「ねえねえ、ここ、教えて」
「あ、うーんとね。これは……」
それまで下から数えた方が速かった成績も、結衣の指導のおかげでみるまに良くなっていき、今では他の生徒に質問されるまでになっていた。
早紀の地道な努力は、様々なところで実を結んでいった。
ののかはそれが面白くなくて、不快で、不愉快だった。
「水野さんのどこがいいのかしら」
自然と、ののかは、そんな早紀のいるクラスに居りづらくなっていた。
それまで自分を無視していたクラスメイトの態度が変わったことに関して、早紀は何も思わなかった。
ただ、自分が少し結衣に近づけたように思えて、それがたまらなく嬉しかった。
ののかの居場所は、そこにはなかった。
ののかの周りに寄り付こうとする生徒は居なくなっていた。
それは、早紀が大会で大活躍を演じたせいだけでないことは、早紀が一番わかっていた。
結衣に再会してから、早紀を覆う黒いオーラのようなものが取り払われたのを、早紀はなんとなく感じていた。




