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第三章 再び、あの場所へ ー疾走ー

 第一走者は最終コーナーを曲がり、今まさに第二走者にバトンを繋ごうとしていた。


 早紀のクラスは六人中三番目にバトンを繋いだ。


 トップの三組との差はあまりない。


 第一走者の子はバトンを渡し終えるとへなへなと地面に座り込んだ。


 お疲れさま。


 早紀は心の中で労いの声をかけた。


 第二走者はバドミントン部随一の俊足の生徒だが、やはり三組の陸上部員にぐんぐん離されていく。


 最初のコーナーを曲がった時点で既に五メートルほどの差が生まれていた。


 その差は少しずつ、少しずつ広がっていく。


 三組は二位の三年生のクラスも軽く引き離し、第三走者にバトンが渡る頃には独走状態になっていた。


 一方早紀のクラスは四位に順位を落としてバトンを繋いだ。


 第三走者の子は、なんとか巻き返そうと頑張ってくれたが、差を縮めるには至らなかった。


 早紀は五番目にバトンを受け取ることになった。


 でも、これだけ陸上部ばかりの中でよく頑張ってくれたと、早紀はしみじみ思った。


 早紀の横にいた三組のアンカーは、バトンを受け取り早紀の横を悠々とすり抜けていく。


 早紀も、もう間もなくバトンを受け取る。


 一位との差はぴったり半周。


 さあ。


 勝負だ。


 早紀は息を吸い込み、止めた。


 左手でバトンを受け取る。


 瞬間、脱兎のごとく駆け出した。


 早紀のスタートダッシュに、周囲から歓声が沸いた。


 ぐんぐんとスピードに乗る。


 髪を結んでいたゴムが飛んでいって、早紀のブロンドの髪が風に激しくあおられる。


 そんなことにも気づかないまま、早紀は直線で三人をごぼう抜きした。


 早紀の目には一位の選手しか見えてなかった。


 周囲からしたらほんの数秒の出来事。


 しかし早紀にとっては、それが何時間のようにも感じられた。


 世界はスローモーションで動いていた。


 なんの音も聞こえない。


 ただ、一位の選手だけが視界にはあった。


 一歩一歩、その選手にむかって足を進める。


 地面を踏むと、土が飛び散る。


 体が跳ねる。


 前へ跳ぶ。


 跳ねる。


 跳ぶ。


 進む。


 跳ねる。


 跳ぶ。


 進む。


 最終コーナーを曲がった頃には、三組の選手の背中を捕らえていた。


 もう数メートルもない。


 最終コーナーを曲がりきり、最後の直線。


 周囲からは、最後まで結果のわからないデッドヒートに見えたことだろう。


 しかし早紀は、最終コーナーを曲がった頃には確信していた。


 勝てる。


「行っけー!」


 結衣の絶叫が早紀の耳に飛び込んできた。


 早紀は更に加速して、見事一位でゴールテープを駆け抜けた。


 やった……!


 喜びを噛み締めたのもつかの間、早紀は空中に投げ出されていた。


 わけもわからず下を見ると、クラス全員が早紀を胴上げしているのが見えた。


「やったー! 勝った! 勝ったね早紀!」


 第一走者の子が、涙を流しながら喜んでいた。


 第二、第三走者の子も同様に泣いていた。


「ありがとう! 早紀のおかげだよ! ありがとう!」


 クラスの面々から発せられる感謝の言葉は、早紀の胸を熱く焦がした。


 その場にののかの姿はなかった。


「六組の生徒! 閉会式に移るので速やかにグラウンドの外に出なさい!」


 スピーカーで体育教師に怒鳴られ、早紀の胴上げはやっと終わった。

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