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第三章 再び、あの場所へ ーいっしょに寝よっー

「じゃー、おやすみなさい」


 自分の部屋へ行こうとした結衣の袖を早紀がぐいと引っ張った。


「お姉ちゃんさー。もしかして、一人で寝る気なの?」


 でた。


 またあの上目遣いだ。


 結衣は続く早紀の言葉を予想した。


「一緒に……寝ようよ」


 少し大きめのパジャマの袖を口元に当てながらそう言う早紀は、何よりも愛おしかった。


 想像通りの言葉だったが、実際に言われると予想以上に心が締め付けられる。


「でも、明日は一日クラスの代表として頑張らなきゃいけないんじゃない? 自分だけの体じゃないんだから……」


 結衣の言葉は、早紀が抱きついたことで遮られた。


「だって、一緒に寝たいんだもん」


 早紀の胸が、結衣の胸にあたる。


 三年前よりも確実に成長したのは、早紀の心だけではないことを結衣は改めて感じた。


「そんなこと言って……」


 早紀を振り払おうとする結衣の胸にあごを置いて、早紀は結衣の目を見上げた。


「だっこ」


 この一言が、どんな言葉よりも威力をもつことを早紀は知っていた。


 薄暗い廊下の明かりの中でも、結衣の顔が赤くなるのがわかった。


「もう」


 早紀にはどうやっても勝てないと結衣は思い知った。


「お姉ちゃんのベッドで寝るから」


 伏し目ずかいに早紀は言った。


「え? どうして? 寝なれた自分のベッドの方がいいんじゃない?」


「お姉ちゃんの部屋の方が寝なれてるから大丈夫」


 もじもじしながら小さな声で言う早紀を結衣はとがめる気になれなかった。


「いいよ」


 そう言うほかない空気を早紀は醸し出していた。


 早紀には勝てないな。


 結衣は改めて思い知った。


 結衣の部屋に入り、明かりを豆電球にする。


 オレンジ色の暖かい光が部屋を満たした。


「お姉ちゃんのばか。もう電気なしでも寝れるもん」


 後ろ手に扉を閉めながら、早紀が抗議した。


「じゃあ、電気消していいね?」


「やっぱり、今日はつけたままがいい」


 結衣がベッドに入りながら電気を消そうとすると、早紀は前言を撤回した。


「お姉ちゃんの顔、ちゃんと見ながら寝たいし」


「そう。じゃ、おいで」


「うん……」

 ベッドに横たわりながら、ふとんを片手で持ち上げて早紀の入るスペースを作ってやると、早紀は素直にそこに入ってきた。


 遠慮しがちにベッドの端の方で向こうを向く早紀がいじらしくて、結衣はぎゅっと早紀を引き寄せた。


 早紀はごろっと転がって、結衣の方へ体を向き直した。


 顔が近い。


 吐息がかかりそうなほどに接近した二人はしばらく見つめ合った。


「あのっ……」


 二人同時に話しだそうとしたことがおかしくて、二人はくすくすと笑った。


 早紀は結衣に学校であった嫌なことや、クラスで自分がどんな立場であるかまったく話さなかった。


 話さずとも、結衣は全てを感じ取り、あえて聞かないだけでいてくれていることもわかってはいたが、強がりでなく、早紀は一人で乗り越えられる気がしていた。


 結衣に話してしまうと、また結衣に頼ってしまう弱い自分が出てきそうだという理由もあったが、それよりも早紀は、強くなった自分を信じていた。


 結衣は早紀の長い髪を静かに愛撫した。

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