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第三章 再び、あの場所へ ー妹の手料理ー

「晩ご飯、つくったげるね。お姉ちゃんどうせ料理できないから」


 くるっと一回転しながら、後ろ手に手を組んで早紀はそう言った。


 さすが早紀、全部見透かされていると思いながら、結衣は頷いた。


 早紀がキッチンに走っていったので、結衣はスリッパを履いて家に上がった。


 毎日のように早紀の家に来ているが、練習は庭で行ったし、家のなかに入るとしても、いつもばたばたとシャワーを借りて朝練へ行っていたので、こうしてまじまじと眺めることはなかった。


 改めて家のなかを仰ぎ見ると、とても懐かしい感じがした。


 そこかしこに思い出が隠れている。


 結衣は大きく息を吸い込む。


 この匂いは、我が家の匂いだ。


 私の部屋はどうなっているんだろうか。


 結衣は確かめるために二階へと足を運んだ。


 かつて結衣の部屋だった扉をあけると、なにも変わらない風景が飛び込んできた。


 早紀の私物が転がっている以外は……。


「早紀ちゃん」


 台所に降りていくと、既にいい香りが立ちこめていた。


 リビングに続くドアを開けると、オープンキッチンで早紀が小気味よく包丁を動かしていた。


 後ろでひとつにまとめたブランドの髪が首に垂れてとても艶かしい。


 大きくなったなぁと、結衣はまるで親戚のおばさんになったようにそう思った。


 しばらくドアにもたれてその風景を眺めた後、話しかけた。


「早紀ちゃんさー。もしかして私の部屋で毎日寝てる?」


 料理する早紀の手が、ぴたっととまった。


「え? そ、そんなことないよ」


 こちらを向いた顔は、明らかに動揺している。


「じゃあ、なんで早紀ちゃんのパジャマとか下着が転がってるのかなー」


「それ以上言うと刺すよ」


 早紀は包丁を持った手を結衣に向けた。


「ご、ごめんなさい」


 笑いながらそう言うと、結衣は食卓に座った。


 リズムよく振り下ろされる包丁の音。


「本当に料理、巧くなったね」


「あたりまえじゃん。お姉ちゃんとちがって毎日料理してるんだから」


「幸子さんも料理できないもんね」


「そうそう」


 何気ない会話でも、お姉ちゃんとだととても楽しい話題のように感じるから不思議だ。


 あんなに湯鬱だった日々も、お姉ちゃんとだったら笑い話にできる。


「まあ、あの二人はほとんど外食だけどねー」


「ああ、そっかー。お母さんは毎日料理つくってくれるよー」


「だってお姉ちゃんに料理させたら、おなか壊しちゃうもんね」


「早紀ちゃんひどいよー」


 くすくす笑いながら他愛もない会話を続けた。


 それだけで、とても幸せな気分に浸ることができた。

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