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第三章 再び、あの場所へ ー新しい風ー

 実際、早紀の実力はどんどん伸びていった。


 部活の方も順調で、早紀はテキパキと部長としての職務を全うし、誰もが信頼するリーダーだった。


 タイムも走るたびに新記録をたたき出し、試合では当然のように一番高いところに上った。


「はい、じゃあ、みんな並んで。今から外周行くよ!」


 早紀にキャプテンを指名してから、柚木は部の仕事を早紀に一任していた。


 早紀は柚木に教わりながら、生徒の指導と、先生に提出する各種書類の整理など、事務の仕事もテキパキとこなした。


「一年の子はどうして遅れてるの? ああ、一年だけ特別授業があるんだ。わかった。じゃあ、他のみんなは行くよ」


 早紀に続いて外周をランニングしていると、敦子が柚木に話しかけて来た。


「もうすっかりキャプテンですね」


「そうだね」


 柚木は、前を走る早紀の姿が、結衣に重なるような気がした。


「私たちが引退する前に早紀にキャプテンの仕事に慣れてもらおうって思ってたんだけど、杞憂だったみたいだ」


「そうかもしれませんね」


 敦子はくすっと笑う。


「やっぱり、私は早紀がキャプテンに適役だったと思います。未だにちょっと悔しい気持ちはありますが」


「敦子……」


「でもやっぱり、ふさわしい人がキャプテンをした方が、部のためになるに決まってます」


 今度は柚木がくすっと笑った。


「そう言ってくれると、指名した私も嬉しいよ。早紀を支えてやってよ」


 敦子は少し暗い顔をした。


「はい。でも早紀、クラスの子たちと上手くいってないみたいで」


 それはなんとなく、柚木は感じ取っていた。


「そうなんだ。相談とかされたの?」


「それが全然」


 寂しそうに敦子は早紀の背中を見つめる。


「相談とか、してくれないんですよ。こっちから話をきりだすのも、なんか違う気がするし。どうしたらいいのか」


 ふっと、ため息をつく。


「早紀のクラスには、陸上部の子いないですし。早紀と同じクラスの友達が言うには、教室で早紀はいつも近付き難いオーラを出してるみたいで、気軽に話しかけられないって」


「早紀が相談してきたときに、全力で応えてあげたらいいんじゃない?」


 柚木は敦子にそう応えた。


 早紀が話したがっていないことを、こちらから詮索すべきではないと、柚木も思った。


「そうですよね。ありがとうございます」


 敦子は明るさを取り戻し、走るスピードを上げて、早紀の隣まで走っていった。


「早紀ちゃん、キャプテンが板についてきてるじゃん」


 敦子の代わりに柚木の横に並んだのは、早紀をキャプテンにするのに反対していた三年生の部員だった。


「そうでしょ?」


 柚木は誇らしげに答える。


「ねえ、なんとなく、結衣先輩とかぶらない?早紀の後ろ姿。勇ましくて、頼りがいがあって、輝いて見える」


「んー」


 しばらく考えた後、 「確かにね」 と笑顔を覗かせた。


「でしょ」


「私は、前からそう思ってたけどね」


 にっと笑い、柚木もスピードを上げて、早紀の横へ走り出した。


「柚木先輩、さっきから私語が多いですよ」


 早紀と並走を始めると、柚木は早紀にお叱りをうけた。


「ごめんごめん」


「何を話してたんですか?」


「え? 何でも。駅前に出来たクレープ屋さんの話だよ」


「もー、まじめに部活してくださいよー」


 柚木は笑顔で、話をはぐらかした。


 全てが順調に回りだしたかのような早紀だったが、それでも今だのののかのいるあの教室に登校するには心が重く、疎外感を拭いきれなかった。


 ああ、今年ももうすぐ体育祭だなと、そんなことをずっと考えていた。

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