表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/41

第二章 囚われの記憶 ーキャプテンー

 ひとりっきりの職員室で、早紀は目を覚ました。


 真っ白いベッドの上で、早紀はぼうっと天井をみつめていた。


 眠くはなかった。


 とてつもない空腹が襲っている。


 しかし、何も口にする気がしなかった。


 そして、ぼうっとした頭で今さっきの出来事について考えを巡らせていた。


 この私が、キャプテン……。


 現実味がしなかった。


 夢の中に居るような気がした。


 部員たちがこんなにも自分を慕ってくれていることにも動揺を隠せなかった。


 一体自分はその言葉通りの人間なんだろうかと早紀は思った。


 そして、結衣の栄光に自分が照らされているだけなんじゃないかと早紀は暗い気分になった。


 気づくと、柚木がベッドの横に立っていた。


「ひどい顔だね」


 柚木は少し笑って、起き上がろうとした早紀を手で制した。


「ちょっとした栄養失調だって先生が言ってた。あんた、昨日から何も食べてないでしょ? 駄目だよ。食事はスポーツの基本なんだから」


 そう言って柚木はよく冷えたスポーツドリンクを早紀に差し出す。


「水分ぐらいとっときな」


「ありがとうございます」


 早紀は少し体を起こし、ペットボトルのキャップをあけて少し飲んだ。


 一日ぶりの栄養が体に行き渡っていくのを感じた。


「ごめん……ね」


 柚木は早紀を見ながら普段は見せない暗い顔で謝った。


「私が昨日キャプテンになって欲しいなんて言ったから早紀は悩んでるんだよね? それに、今日も早紀の承諾を得ないままみんなの前で発表しちゃった。ごめんね」


 でもね、と柚木は続けた。


「どうしても早紀にキャプテンやって欲しかったの。早紀しか居ないと思った。確信してたの。だから今日、三年生を説得した。けっこう大激論したけど、最後にはみんな心から理解してくれたよ」


 柚木は軽く笑った。


「みんなの前で発表したら、早紀は絶対に断らないだろうって思ったんだ。断れないだろうってね」


「先輩らしいですね」


 スポーツドリンクを少しずつ口に含みながら早紀は言った。


 それが柚木なりの不器用な優しさであることは、早紀は痛いほどわかっていた。


「でも、よくわかったでしょ? みんながあんたのことどう思ってるか。あの子らは、本気であんたを頼りにしてるよ。あの子らは本音と建前を使い分けるような器用な人間じゃないからね。私も含めてね」


 早紀はようやく、柚木の言葉を心から理解することができた。


「あんたは、自分が思ってるほどひどい弱くないよ。立派な人間だよ」


「先輩……」


 静かに涙が頬を伝った。


「だから、改めてお願いするよ。早紀、どうか来年度のキャプテンを務めてほしい」


 早紀は、静かに頷いた。


「ありがとう」


 柚木は手の甲で優しく早紀の涙を拭った。


 早紀は、心が少し軽くなるのを感じた。


 とともに、現実味を帯びた空腹を感じた。


 その後しばらく保健室で休み、昨日と同じく柚木とともに校門まで歩いた。


「じゃ、また明日ね。明日はちゃんと部活にでるんだよ」


「わかりました。明日もよろしくお願いします」


 柚木に、久しぶりの本当の笑顔を見せて、校門前で別れた早紀の目の端に、真っ白いワンピースの女性が映った。


 お姉ちゃんだ。


 結衣は、早紀に近づいて話しかけてこようとはしなかった。


 結衣に話しかけて、様々な感情を受け入れるだけの許容量がないことを早紀は感じ、結衣を無視して家路についた。


 結衣は追いかけてこようとはしなかった。


 足が重かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ