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第二章 囚われの記憶 ー抜擢ー

 いつもの通学路が、今日は永遠に続いているように感じた。


 このまま学校につかなければ良いのにと早紀は思ったが、道は無情にも、いつものように早紀を学校へと導いた。


 靴を履き替え、階段を上がり、廊下を歩く。


 廊下のいつもの場所にののかのグループが居ることを早紀は目の端で確かめた。


 聞こえてくるいつものこそこそ話。


 学校中の生徒が自分の悪口を言っているような錯覚に陥り、早紀は再び吐き気に見舞われたが、ぐっと堪えて廊下を歩ききり教室へ入る。


 いつものようにまっすぐ自分の席へ向かい、座り、後はひたすら担任が教室に入ってくるのを待った。


 今日はいつもよりも時間が進むのがやけに遅い。


 授業中、早紀は時計の秒針ばかりを見ていた。


 昼休みは、何も食べず、教室から出る元気も無く、机につっぷして過ごした。


 一日の授業が終わると、そのまま重い足取りで部活へ向かった。


 一日中身構えていたが、ののかが特段何かを言ってくることはなかった。


 いつも通り空気のように無視され続けただけだった。


 プライドの高いののかのことだ。


 早紀に言い負かされた話を他人にしたくなかったのかもしれない。


 それはそれで気味が悪かった。


 いつか想像もしないようなひどいことをされそうで、早紀は少しおびえた。


 部室につくと、早紀の同学年の生徒が世間話をしていた。


 学校で唯一、早紀が楽しく話をできる生徒たちだ。


 共に苦しい練習を耐えてきたからこそ生まれるなんともいえない信頼感が早紀の心を少し和ませた。


 それでも、彼女たちに今の苦しい心境を相談することは憚られた。


 今のこの関係を壊したくないと思ったからだった。


「早紀大丈夫? 顔色悪いけど?」


 そのうちの一人が早紀の異変に気づいて声をかけてきた。


「大丈夫、ちょっと食欲がないだけ」


 早紀はとっさに笑顔を取り繕った。


「えー、夏バテ? 気をつけなよ」


 部活仲間たちは楽しげに笑った。


 早紀もつられて笑う、ふりをした。


「みんなおはよう」


 柚木先輩を先頭に三年生が部室に入ってきた。


 どこかで会議をしていたらしい。


「今日は部活を始める前に、来年度の部の編成と、それから今年のインターハイに向けてのメンバー決めを行います」


 途端に、部員全員の顔が引き締まった。


 彼女らは良い仲間であると同時に、ライバルでもあることを早紀は改めて感じた。


 尚更彼女たちには相談はできないと早紀は改めて心の鍵を閉めた。


「もうみんなそろってるね?」


 柚木は部室を見渡しながら言うと、ホワイトボードの前に立った。


 書記役の三年生がその後ろに立つ。


「それじゃまず、今年のインターハイのメンバーだけど……」


 柚木は次々とメンバーの名前を呼び上げた。


 名前が呼ばれるたびに選手たちは一喜一憂する。


 なにしろ部員は百人を超えている。


 それも、全国から集まった生え抜きの選手たちばかりだ。


 その中からメンバーに選ばれることは、それだけでこの上ない名誉だった。


 その中でも、女子短距離二百メートルに出場する選手は特別だった。


 かつて結衣が担当していた二百メートル走は、結衣が全国制覇して以来、毎年続けて全国優勝を果たしている十八番の競技だからだ。


 その競技に選ばれた選手は必ず全国優勝することが求められ、そして百人を超えるこの部のキャプテンが代々その競技を任せられていた。


 今年は誰が選ばれるんだろうかと、部員全員が注目していた。


 その発表は最後に回された。


「それじゃ、次は女子二百メートルだけど……」


 柚木は一度言葉を切った。


「この競技の選手を決めるのに、私ら三年は一番議論を重ねたんだ。なにしろみんなよく頑張ってくれていたから、誰を選ぶか本当に難しかった。だけど最後には、私らは満場一致でこの子しかいないってことに行き着いた。そしてその子には、来年のこの部のキャプテンを任せようと思う。だから今から名前を呼ぶ選手は、自分自身を誇りに思って、自信を持ってこの大役を引き受けてほしい。そして他の選手は、彼女を支え、ともに成長していって欲しい」


 柚木の言葉に、部員たちは聞き入っていた。


 部員全員が柚木が誰の名前を挙げるか、だいたい検討をつけていた。


 本人以外は……。

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