第二章 囚われの記憶 ーいちにちぶんー
今日は一日分にしては沢山のことがありすぎた。
到底処理しきれそうにない。
今日はお父さんが出張で良かったと早紀は心から思った。
一体自分はどうしたら良いのだろう。
何を頼れば良いのだろう。
一人で生きていこうと、姉に捨てられた日心に決めた。
しかし、早紀の心は脆く、弱く、何かにすがらなければ生きていけないことを、今早紀は心から感じていた。
唯一早紀の心の支えだった結衣さえも拒絶した今、一体どうしたらいいのだろう。
一人ではもう、どうしようもない。
早紀はトイレの床に崩れ落ちたまま、絶望的な禅問答に陥っていた。
なんて脆いんだろう。
どうして私はお姉ちゃんと違うんだろう。
どうしてお姉ちゃんにできることが私にはできないんだろう。
お姉ちゃんなら、クラスメイトとも上手くやるし、常に成績は学年トップで追試を受けることもない。
部のキャプテンも軽々と受け入れ、再び部を全国優勝へ導くことができるだろう。
男子に告白されたとしても、きっと上手く切り返して後々禍根を残すようなことはしないだろう。
どうして私にはそれができないんだろう。
私は精一杯やってるのに……。
どうして私はお姉ちゃんと違うんだろう。
早紀は声をあげて泣いた。
どうしようもないのはわかっていた。
どうかしないといけないのもわかっていた。
しかし、どうしたらいいのかなんてわからなかった。
苦しかった。
吐き気は収まりそうにもなかった。
どれくらいそうしていたか早紀にはわからなかったが、そんなことはどうでも良かった。
外はもう暗いことがトイレの窓からわかった。
早紀はゆっくりと体を起こして風呂へ向かい、しわしわになってしまった制服を脱ぎ捨て、シャワーで一日分の出来事を洗い流すつもりで体を洗った。
汚れは落ちたが、心に刺さった釘は一本も抜け落ちることはなかった。
そのまま髪の毛を乾かす力もなく二階へ向かい、よろよろとベッドへ倒れこんだ。
倒れてから、結衣の部屋のベッドに寝ていることに気づいた。
ベッドには微かに結衣の匂いが残っているような気がして、早紀は布団を顔にかぶり思いっきり息を吸い込んだ。
一日の出来事が次々にフラッシュバックして、体は疲れきっているはずなのに眠ることができなかった。
明日はこのまま休んでしまおうかとも少し考えたが、それは決してしてはならないと早紀は自分を戒めた。
自分に負けてしまうことは絶対にしてはならない。
明日休んでしまうと、そのまま学校を辞めてしまいそうで、それだけは決してあってはならないと早紀は思った。
そのまま早紀は一晩中悶々と様々な記憶のフラッシュバックに耐え続けた。
一秒が何時間にも感じた。
もうこのまま朝などこないんじゃないかと思っていた頃、窓の外が明るくなってきているのを早紀は感じ、ようやく眠りにつくことができた。
二時間後、早紀は目覚ましにたたき起こされた。
短すぎる睡眠時間にも、早紀はまったく眠気を感じなかった。
体が石のように重い。
強烈な吐き気を感じる。
着替えなくちゃ……。
早紀は機械的に起き上がり、新しい制服に着替えた。
空腹は感じていたが、物を口に含むと吐きそうな気がしたので朝食は食べなかった。
せめて水分補給しようと飲んだ牛乳は、気持ち悪くなってすぐに吐き出した。
どうやら早紀の胃は、すべてのものを進入禁止にしているようだ。
その事実だけ確認すると、早紀は水筒も用意せずに学校へ向かった。




