第二章 囚われの記憶 ー再会ー
ぼうっと、早紀は足だけを動かして家へ向かって歩いた。
あのグラウンドの白ずくめの女性に出会ったのは、その時だった。
横を向いたその女性は、純白のワンピースを身にまとい、大きなふちの白い帽子をかぶっている。
風でスカートと、大きな帽子のふちがはためく。
ふちに隠れて顔は見えない。
真っ白な彼女を、夕日がオレンジ色に染め上げていた。
奇麗な人だな。
早紀は思わずその光景に見とれて立ち止まった。
早紀のブロンドの髪が風でそよいだ。
ふっと、女性がこちらを向いた。
風で帽子のふちがはためき、女性の顔があらわになった。
それが誰かを知った途端、早紀は歩むのをやめた。
「お……ねえちゃん……」
三年ぶりの再会だった。
早紀は驚き、立ちすくむ。
結衣は無表情のまま、早紀にゆっくりと歩み寄ってくる。
早紀はその場から動けずに、固まったままだった。
「久しぶりだね」
結衣は、顔をかたむけて、微かな笑顔を早紀に向けた。
早紀は何も応えることができなかった。
しばらく、沈黙の時間が続いた。
結衣が何か言おうと口を開いた。
刹那。
「今更、何しにきたの!」
早紀の鋭い言葉が宙を切った。
他の言葉は思いつかなかった。
頭では何も考えられなかった。
真っ白だった。
真っ白の頭の中に、赤い血が飛び散ったように思えた。
あんなに会いたかった姉だったが、今は怒りしか頭の中なかった。
他には何も考えられなかった。
憎くて、憎くて、たまらなかった。
結衣は、悲しそうな顔を笑顔で隠して、続けて何か言おうとしたように思えた。
「何も聞きたくない! ストーカー!」
結衣の言葉を聞くと、自分の中で何かが崩れてしまいそうで、自分の中で今築き上げている何かを守るた
めに、早紀は結衣を拒絶した。
そのまま踵を返し、結衣の前から走り去った。
びっくりするほど、体が重かった。
結衣は何も言わず、早紀の後ろ姿をただ見つめていた。
早紀は家まで一度も立ち止まらずに走り通した。
余計なことを何も考えたくなかったからだ。
頭の中をクリアにしたかった。
しかし、早紀の頭は霧がかかったようにもやもやに包まれていた。
霧の中から出てくるのは、今日一日の出来事。
それも、早紀を苦しめる悪い出来事ばかりだった。
自分をあざ笑う生徒たち。
ののかに暴言を吐いた自分。
柚木のキャプテンの話。
そして、結衣。
走っても走っても、それらはどこまでもついてきて、振り払うことはできなかった。
家の門扉を勢いよく開け、閉めることもせずにそのまま玄関へ倒れ込んだ。
這いつくばるように廊下を進み、一直線にトイレへ向かった。
胸が苦しかった。
大粒の汗が早紀の体を濡らした。
普段なら、練習ですらこんなに汗をかくことはない。
汗で顔に張り付いたブロンドの髪が進路の邪魔をする。
かき分けることもせずにトイレにたどり着くと、そのまま便器に様々な思いを吐き出した。
気分が悪くて、目眩がした。
世界がぐるぐるまわっている錯覚に見舞われた。
心に溜まった老廃物を吐き出すように吐き続けると、最後には吐くものがなくなり、ただ、胃液ばかりを吐いた。
レバーを引いてそれらが流れていくのを見ながら、自分を苦しめている思いもこのまま流れていけば良いのにと早紀は思った。




