剣士の第一歩
謝罪が受けられた小林先生たちは一年生パーティーが散らかしたところを修理するなど後の終末を手伝っていた。魔力を使っている魔族兄弟と"殺気"を使っている富士村と原田は超人な身体能力で作業が十倍の速度で進んでいた。
その間に小林先生は東集落の老婆と作業の様子を監視しながら話していた。
「手伝いまでしてもらって、本当にいいのかい?」
「いいですよ。たぶん、あの二人は最初からそのつもりで付いてきたと思います。私のほうこそ、何もできなくてすみません」
「何を言う。あんたは混乱でHPが減ってきたやつらを治してくれたじゃないか。おかげで人手が埋めたよ。それにしても、まさか魔族まで治したとはねぇ」
小林先生は魔族兄弟と富士村と原田の喧嘩が終わった後、富士村と原田の傷だけではなく、魔族の傷も癒した。
「それは大したことではないですよ。それぞれの魔力を使ったらから私自身のMPは減ってないし。他の人たちを治すときにも結局彼らの魔力を使ってしまったし」
「ありゃ本当に奇妙な光景だな~」
他愛のない会話のようにこの世界の常識から離れる話をしている二人であった。この世界、とくにヴァージニア教国の人間は魔族をいい目で見ていなかった。神の加護を重視する国の人間はその加護を捨てた魔族と考え方はかみ合わなかったからであった。
「でも、集落の人たちはあまり神の加護についてこだわりいないようですね」
「まあ、加護自体は感謝してるよ。ただ、あたしたちも自由に生き方を選びたいんだ。あたしたちはずっと前から、そりゃあたしのじいちゃんの次代の前からこの集落に住んでたんだよ。魔王の脅威があってもここを捨てて結界都市に逃げるのは真っ平ごめんだ」
「そうなんですか……」
「そういう意思を持っている人からかね、集落に住んでる人たちの中に一人か二人が魔族化する。だが、国の人間にとっては神に逆らった人だと見られても、あたしたちにとっちゃぁただの集落の一員さ。あたしにとって、アイツらはやんちゃなガキのまんまなんだよ」
そう言って、老婆は作業していた魔族兄弟を優しく見つめていた。それは母が我が子を見ているように。
「...やっぱり、こちらの人たちも皆、ちゃんと生きていますね」
「ん?」
「先ほどグリッドさんも言っていましたが、元の世界では私たちは普通に痛みを感じていました。この世界に来てそれがいきなり感じられなくなって、戸惑っていました。本当に自分が生きているのかなって思っていました」
「え、今は感じていないのかい?」
「はい。その感覚を取り戻したのはあの二人ともう一人の子だけです。本当に、大人として情けないと思っているほど強い子たちです。まあ、それはともかく、正直に言いますけど、私は最初この世界の人間が私たちの根本的に違うと思っていました。でも、それが間違ったと今思い知られました」
「...その言い方のわりには眩しいほどの笑顔だね」
小林先生は思った。今回の件は確かに不幸な事件で色々な人に迷惑をかけてしまった、だが、そのおかげで、この集落の人たちに出会えることができた。自分で選んだ生き方をしている者たち。痛みを感じなくても、喪失感があって守ろうという意志を持っている。だから、和解ができた。目の前にじゃれあいながらも一緒に作業していた魔族兄弟と学生の二人のように。
「うん。これなら、この先も大丈夫かな」
「いや、流石に楽観しすぎでしょ。あんたたちはこれからも魔王との戦いのために色々準備してできるだけ戦力を上げるつもりでしょ。だったらもっと危険な場所に行くこともあるんだし、別の集落や魔族に会うことになるかも知れないよ。都市に住んでいない人たちは神の言葉に従わない覚悟だけあってそれぞれ自分が決めたルールというものがあるんだよ。今回みたいに絶対うまくいくと限らないと思うがね」
「そうですね。でも、こちらも守らなければならない校則と学生たちがありますから」
「...覚悟を決めたってことね。確かにグリッドのガキが言うとおり、あんたたちはどちらかというとあたしたちに通じるね」
笑い合う小林先生と東集落の老婆。アレクシス彼女たちのやり取りを横で見ていた。国の人間である彼女は理解に難しい話ではあったが、理解したいと思っている自分がいた。世界の運命を動かすために祖父が犠牲になった彼女は心のどこかにその運命を否定したかったからだ。
***
小林先生たちが集落に来て三時間くらい、太陽が西に向かい始めた。作業が一段落したということで、アレクシスはそろそろ戻ろうと提案した。基地から結界都市に戻るのに一時間がかかる。これ以上残ると、結界都市に着いたときには夜になるからであった。それを了承した小林先生は作業していた学生二人を呼び出した。作業で泥まみれになっていた二人と魔族兄弟は集落にある井戸でその泥を洗った。
そして、グリッドにとって故郷である東集落を去る時間が来たのであった。
「そんじゃまあ、オレちょっと行って来るわ」
「アニキ~...」
「また情けねえこと言ったら今度はぶっ飛ばすぞ」
「ううん。わかったよアニキ。集落はオイラが守るからぁ!アニキは思う存分修業して強くなるのを待つんだぁ~」
「おうよ!次は絶対にあの二人を泣かせようぜ!!」
そう言って魔族兄弟は軽く拳をぶつかりあった。
「いや、泣かないが」
「ま、やれるもんならやってみろってんだ。勝負ならいつでも受けて立つぜ」
「もう、荒っぽいは先生の前に言わないでよ」
「ホントだね。まったく、どの世界でも男の子というのはホントに変らないようね」
笑顔で別れようとしているグリッドだが、一人不機嫌な人がいた。メイであった。
「おいメイ。いい加減そのブサイク面を直せねえか?」
「別に、生まれてからこんな顔だけど」
「何で拗ねてるんだよ?」
「別に、グリッドにとって私はどうでもいいでしょ。ここにいる残り時間もいつもその異世界の人間と遊んでいたし。もういいよ。修業でもなんでも行けばいいよ」
「いや、遊んでねえけど。作業してたんだけど。っていうかメチャクチャ拗ねてるじゃん。ったく、しょーがねぇな」
「え、グリッド...?」
グリッドはメイに近づき小指を差し出した。
「約束だ。オレは絶対に帰ってくる。オマエらに一丁男前になったオレの姿を見せるからな」
「...約束だからね」
「ああ。そして、オレがが帰ったその時は、メイ...」
「帰った時にって、ちょ、グリッド!?」
「オマエに...」
「う、うん...」
いい雰囲気になっている二人に周囲の人たちは興味本位で見ていた。特に女性陣はロマンチックな展開に興奮していた。ところが、いい笑顔で言葉を発した。
「オマエに都市のお菓子をいっぱい食わせるからな!!好きだろ、甘いもの!?楽しみに待ってろよな!!!」
「そうじゃねえだろこのボケカスがあああああ!!!!」
「ぐほおお!!」
「グリッドなんて、もう知らない!!」
その悲劇が残したのはビンタされてみっともなく転んでいたダメな男だけであった。
「なあ、オレ、何か間違ったこと言った?」
「バッカだなぁ。おめぇは先走りしてたんだよ」
「そうだな。お土産はやっぱりまず本人の希望を聞くべきだ」
「あ、そっか。そりゃそうだよな。いらないモンを渡したらいやだもんなぁ」
(((((ダメだ、この男たち!!!)))))
ダメ男な発言を次々と発した富士村、原田、グリッド三人はその場にいた人たちにもうダメ男として認識された。
「お互い、バカな男の子ばっかり大変だね」
「あ、はははは。強さにこだわる男の子って皆そうなのかね」
「コホン、では挨拶が済んだらそろそろ出発しましょう。もう結構時間が遅れていますので」
「...なあ、アンタも運んでもらうほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「いやね、正直言ってアンタの馬、遅いんだよ。オレら三人だけで走ればさっきの場所までは三分もかかれねぇんだ。早い方がいいだろ?」
「確かにそうですが...」
「一理あるな。良かったら、俺がアレクシスを運んでやろう」
「きょ、キョウイチさんが!?」
「ああ。それで問題があるのか?」
「そ、その...馬は...」
「こっち扱ってもらえばいいじゃん。誰かが都市に野菜を売りに来たときに返してもらうということで。いいだろ、婆さん?」
「ああ、構わないさ」
「......それでは、よ、よろしくお願いします!」
「ああ」
「アレクシスさん、経験者として一つアドバイスをあげます。心を無にするほうがいいよ。その方がダメージも減れます」
「コバヤシ殿、なんだか目が虚ろに見えるが...」
移動手段が決まって、そろそろ出発の時間であった。
「そんじゃあな、皆」
「またね~アニキ~。フジムラさんにハラダさんも~」
「ああ」
「また会おうぜ、ホブ」
「風を引くんじゃないよ、グリッド。コバヤシ先生、会えてうれしかったよ」
「ええ、こちらこそ。この世界について教えてくれてありがとうございました。さようなら~」
「では、我々はこれで参ります」
「グリッド!!!!」
出発しようとする富士村たちに遠くから大声でグリッドの名前を呼んだ人がいた。
「約束、絶対守りなさいよねえええ!!!絶品のお菓子ではないとまたぶっ飛ばすから!!!!だから、絶対に帰ってきなさいぃぃぃぃ!!!」
「へっ、ああ!!!行ってくる!!!!」
こうして、東集落の剣士、グリッドは、世界に名を知られる剣士になる前の第一歩を進み出た。




