迷惑かつ面倒_10
ヴァーミリオン第三王子、およびスカーレット第二王女は現王妃の子供ではない。
王妃と血が繋がっていないという情報は、あの乙女ゲームでもヴァーミリオンルートに入ると出ては来る。隠していた事が学園……と言うよりは国に情報が洩れて、ヴァーミリオンは様々な目で見られる事になる。
今までも肩書に寄って来る輩が多かった。だがそれが弱いモノだとヴァーミリオンは知っている。故に両親の事を知っているヴァーミリオンにとって、肩書に寄って来る輩が嫌いであり重圧であった。俺は読んでいないが、小説で己が血を呪うほどの独白があるほどには。……ついでに言うと、生まれを強調していたヴァイオレット・バレンタインに対しても同じような感情を向けている。
だからこそヴァーミリオンは、肩書が無くとも自分を好いてくれるヴァーミリオン・ランドルフという男を好きになってくれる相手を望んでいたのである。
それでもヴァーミリオンは、アッシュやシャルといった肩書無しに昔よく遊んでくれた友と呼べる存在や、なんでもないヴァーミリオンを好きでいてくれた主人公と共に強くなったり、父親は現国王である事から王族特有の魔法を使えるため、それを使って復活した大型竜種を屠って国の窮地を救ったりする。
そしてそれが国民にも認められ、後に主人公と共に幸せに暮らす。なんでもない“ヴァーミリオン”という存在として。
――だからこそ、王族を投げだすのを許さなかった主人公の言葉が響く訳だが。
なおこれはヴァーミリオンルートのノーマルエンドである。
グッドルートはノーマルエンドにおけるヴァーミリオンという存在を認める選択肢において、
『そんなに女に甘えたかったら娼館でも行って堕落してろやゴラァ!(超要約)』
と頭突きを喰らわせて王族としての在り方を強制するので、このエンドとは違うルートに行く。滅茶苦茶ではあるが、それが親の件で本気を出せずにいたヴァーミリオンの覚醒に繋がるのだ。
大抵のプレイヤーがノーマルエンドを通り、カサスにおける最終であるトゥルーエンドに行く。そしてノーマルエンドでは母親の情報はそれ以上は明かされない事から、いわゆる妾の子とかそういう類なのかとプレイヤーは思う。
だがヴァーミリオンのグッドエンドに続くルートにはノーマルエンドには出て来ない情報が少し出て来る。そして、トゥルーエンドを進めると妾ですらない、他の相手と婚姻すらしている相手との子である事実が明かされる。
明言はされて居ないが、それらを総合すると、
――第三王子と第二王女の母君は、国王陛下の妹で、父親は……
クリームヒルト……白曰く、この考察はほぼ公式が認めているらしい。ゲーム内でヴァーミリオンの母親の名前を明記し、国王陛下の妹の名前も出て来る。ただハッキリとは言っていないだけ、との事だ。
そしてそれがあの乙女ゲームの世界やこの世界の王国においては罪になっており、ついでに日本では罪にはならないが好ましくは無いものとして見られているため、問題行動として伏せられている。
ただ明言はされて居ないので、実は勘違いの盛り上がり的なモノとも思っていたのだが。
――それが結局、この場に居るヴァーミリオン殿下も同じみたいだ。
ゴルドさんの発言に対しての、ヴァーミリオン殿下の反応を見る限り間違いないと言えよう。
暗くて見え辛いが、あまり表情を崩さない(対メアリーさんを除く)殿下が表情を歪めているのだ。生涯墓にまで持っていくと心に決めた事をあっさりとバラされたので仕様が無い事ではあるだろう。
「さて、第三王子は私と同じ事を聞こうとして来た。それは何故だろうか」
「…………」
そんな苦しみなど知った事では無いかと言うように、ゴルドさんはさも当たり前の様に聞く。
同時に指をパチンとならし、ヴァーミリオン殿下に貼られていた符が取れる。
「……俺が感じたのは違和感程度だ。お前の様に確信を持って詰め寄れるモノでも無い」
ヴァーミリオン殿下は少し黙った後、下手に話さないではいられないと判断したのか問いに対する答えを返す。
「とある時に、クリームヒルトが兄妹間の血の繋がり関連で、兄妹愛を異性愛にするのはどうかという話が上がったのだが」
「どうしたら兄妹間のそういった話題になったかは気になるのですが」
「なにを言うクロ子爵とアイツは日本出身で変――いや、この話題は関係無いな」
待って欲しい。なんかヴァーミリオン殿下の中での日本のイメージがおかしいのは気のせいか? それどころか俺やクリームヒルトの関係性に誤解があるのは気のせいなのか?
「ともかく、その際にクリームヒルトの口からマゼンタという名前が出てきた。まるで、その話題だとマゼンタという女が関わっているかのようにな」
その話題の発端はともかく、クリームヒルトのことだから目の前にいたヴァーミリオン殿下も含めてつい出てしまった、という感じなんだろう。でなければわざわざいう事でも無いし。
「……それにメアリーも思い返せば…………」
「殿下?」
「……いや、それよりもお前もクリームヒルトも先程の件についてなにか知っているのならば、何故知っているのか聞かせて貰えるだろうか」
「…………」
「ゴルドが言っているような、世界云々の話は信じられるものではない。ではないが…………クロ子爵。なにかを知っているのならば答えて欲しい」
そこまで言うと、ヴァーミリオン殿下は黙って俺を見て答えを持った。まるでゴルドさんの疑問は真っ当な質問で、真実の可能性が高いかと言うように。
正直ここで答えを待たれても困る。答えは俺に依存した抽象的なものになるし、ゴルドさんは“さぁどう出る?”とでも言いたげにニヤニヤ笑ってる。その笑みを今すぐ止めたい。
――だが、メアリーさんにも違和感を覚えている、のか。
マゼンタさんの件で俺やクリームヒルトに疑念を抱いているだけではなく、ヴァーミリオン殿下にとっての意中の相手であるメアリーさんにも違和感を覚えている。
それが発言や行動に違和感を持っているためのモノなのか、知らぬはずの事をさも当然の様に振るわれての気色悪さなのか、あるいはただの勘でしかないのか。
俺が答える事柄ではない。/知って貰うべき事柄である。
メアリーさんが語るべき。/第三者として伝えるべきだ。
俺が話しても意味がない。/俺から話すから意味がある。
故にこれは逃げではない。/説明から逃げてはならない。
だから責任逃れではない。/関わった責任を果たすべき。
それにまだ確信してない。/確信は未だしていなくとも。
どのようにも誤魔化せる。/誤魔化して良い問題で無い。
……さて、色々と考えたが、俺は……
「俺から貴方達に話す事は特にありませんよ」
そんな、面白くもない答えを返すだけだ。
「……ほう?」
「正確には世界についてです。生憎と私は第二王女殿下と第三王子殿下の出生は変わらず仲睦まじき国王陛下と王妃様の子であると信じておりますし、具体的な証拠でも無い限り私は貴方方は変わらず尊敬出来る御方です。第二王子とかいうのは除いて」
なんだかんだ第三王女以外の王族と接する機会があったが、第二王子以外は色々奔放な所はあるが、尊敬出来る事には変わりない。優秀であり、性格も身分が違う俺なんかと対等に話そうとしたりと親しみやすいし。第二王子は除いて。
「つまりは私の話を信じないし、お前はなにも知らずにいる、という事か?」
「今日会ったばかりの相手を信じるのは無理があるでしょう。それにしがない成り上がり子爵風情が、王族の出生に関わる秘匿事項を知っている訳が無いでしょう」
「…………お前は、そうやって誤魔化すのか?」
「誤魔化すとはなんの事でしょうゴルドさん」
紅く変わった瞳でゴルドさんは俺を見る。
色から攻撃的な印象はあるが、俺はそれをただ受け流す。
「私にとってのヴァーミリオン殿下は、第三王子で学業優秀、身体能力優秀、魔法優秀、見目も整っており、友の事を思ってこのような辺境の地まで来て下さるような情にも深い方です。そして私は殿下の恋愛も応援しています。彼女は“ヴァーミリオン・ランドルフ”を好いており、殿下は“メアリー・スー”を好いているとは思いますから。……私は短くしか接していませんが、強大なモンスターを前にして、妹達を守るために独りで立ち向かおうとしたりした殿下は素晴らしき方だと思っています」
「クロ子爵……」
「まぁ、メアリーさんより魅力的なヴァイオレットさんの魅力に気付けない点に関しては節穴だと思いますが」
「おい」
「その点だけは譲れません。というか正直性格面ではヴァーミリオン殿下と私は相性が悪いです」
「おい」
この感想自体は俺の本音である。
運動能力を除けば俺はあらゆる面でヴァーミリオン殿下の足元にも及ばない。それに例えあの乙女ゲームのストーリーになぞらえた行動を受けて、メアリーさんを好いていたとしても好いている感情は本物だ。
……だが、本物だとしても今までの行動について知ったらどうするかは分からないが。そしてそれを伝えるべきは、今ではない。
「もしやお前はヴァイオレット・バレンタインを領域外の状態から好いており、夫婦となる目的は達成したから関わる気はない、なんてつまらん事を言うつもりか」
「領域外の妹っぽい存在はいますが、領域外とはよく分かりませんね」
「領域外の妹……?」
領域外という言葉を聞いてどこかの見た目は子供な探偵な作品を思い出したが、今は関係無い。そういえば俺の死後あの作品どうなったのだろう。いい加減あの黒幕な組織名を言われるたび、俺が率いている組織っぽく言われている気がして微妙に苦手だったが、決着は……って、それは関係無い。
領域外というのは恐らく前世だけではなく、あの乙女ゲームにおける世界構築に関しても言っているのだろう。いわゆる創造主、と言った感じで評していると思われる。……どこまで掴んでいるんだか。
「ともかく、ゴルドさんの疑問も話もよく分かりませんし、ヴァーミリオン殿下の疑問は私が今答えるべきではない。それだけです」
「そうか」
誤魔化しかつ問題の先送り。
ヴァーミリオン殿下の疑念は消えず、ゴルドさんにとっての面白い回答ではない。
いずれバレるだろう事に対して、責任を負いたくないからと取り繕う。
両者にとって不安と不満要素が残るだけの結果だ。
……この事をクリームヒルトとメアリーさんに話さないとな。場合によってはヴァイオレットさんにも……。
「では私がこの話をヴァイオレットにしても問題無いわけだな」
「はい?」
「なにせ私の話は分からないのだろう? ならば私の疑問はあの女にぶつけても良いわけだ。もしかしたらお前の旦那は、お前と夫婦になるために騙していた可能性があるとな」
……ああ、なるほど。
どうやら言葉が足りなかったようだ。
「どうやら話が伝わっていないようなので言い直しますが」
「ほう?」
俺達が抱えている問題についてどう話すべきかは分からない。だがこれだけはゴルドに言っておかなくてならない。
「俺がお前に世界とやらについて話す事はなにも無い。そしてこれ以上俺達の想いを壊すな」
こんな第三者の愉快犯に、関係性が壊される事だけはどうしても許せない。そんな身勝手な俺の感情だけは分かる。
「……なるほど、なるほど」
俺の言葉に対してなにを思ったのかは分からないが、なにか納得するような言葉を言って頷く。
そしてにこやかな笑顔になり、俺達に質問をする。
「では質問を変えよう。クロ。……クロはヴァイオレットを愛しているか?」
「? ……ええ」
「ではヴァーミリオンはメアリーへの気持ちが本物だと言えるか?」
「……当然だ」
「そうかそうか」
脈絡のないその回答に満足したかのように頷くと、ゴルドはパチンと指を鳴らして明かりを再び付けた。……俺の屋敷なのに、なんでこんな事出来るんだ。
「その言葉を忘れないようにしたまえ。では私は今日は休ませてもらおう」
「待て、ゴルド。王族のあのような事を軽々に話しておきながら、ただで済むと――」
「クク、なにを言っているんだ。あの話はクロも理解しきれなかったただのホラ話だ。しがない錬金魔法使い風情が作った王族の話だよ。それともお前は思い当たる節でもあるのか?」
「…………」
「不敬罪で捕まえたいなら捕まえれば良い。元々追われる身だからな。どうせ捕まえられん」
捕まえられないという言葉に嘘偽りは無いのだろう。恐らくこの屋敷の皆が捕まえようとしても逃げられる。そんな実力を持っていると、なんとなくだが俺にも分かる。
そしてこれ以上のこちらからの追及も受けないつもりだ。ゴルドがそう決めた以上はそうする事しか出来ない。そういった性格の持ち主だと、今日だけでも思い知らされている。
「そうだ。私のブラの方の調整もよろしく頼むよー。報酬は弾むからなっ!」
「は、はぁ……」
「あ、それと調整するブラだが、これも頼むよ。本当は明日渡そうと思っていたんだけど、既に始めているようだからねっ。追加報酬は渡すからな! じゃあおやすみ!」
「え、こ、これですか!? 待ってください!?」
ゴルドはそう言うと懐から出したブラを取り出し、俺に渡してきた。
渡してきたのは主な色が紫色であり、黒いレースが施されているアダルティなものであった。
なんでこんな男を誘惑する目的のような物を調整して欲しいと思っているんだ。なにに使う予定なんだ。そして生暖かいのは懐に仕舞っていたからだと思いたい。懐から出す時の動作が怪しかったが……いや、アレは懐から出していたに違いない。
「あ、さっきまでつけてたやつだからな。どう使っても良いが……ああ、もしもつけていた後の胸の食い込み具合を見たいのなら――」
「おやすみなさい」
「おやすーみ! ちなみにつけていたのは冗談だから安心しろ」
「信じられませんが、分かりました」
「なるほど、今まで付けていたと信じたい訳だな」
「そういう意味ではありません」
……なんとなく、クリームヒルトが言っていた面倒な相手、とい言っていたのが分かった気がする。
ゴルドという存在は、迷惑かつ面倒だ。
「……とりあえず、申し訳ありませんヴァーミリオン殿下。もし先程のお話がゴルド……さんの質問と同じ内容ならば、私は答えられません。なにせよく分からないのですから」
「……そうか。俺も確信を持っている訳では無いから別に構わん。あと……」
「はい、どうされました?」
「……クロ子爵。元男の女性物の下着を作ると言うのは元本職としては複雑かもしれんが、あの輩は下手に反応すると楽しむタイプだ。無心で作ったほうが良い」
「別に大丈夫ですよ。というか前世じゃ男性用ブラとか普通にありましたし」
「……そうか、日本だからな。あっても不思議ではない」
「待ってください。その納得のされ方は納得出来ません」
なんだか日本を違う意味での変態国家だと思って居なかろうか。
◆
「……さて。私の疑問に関してお前から言う事は有るか?」
「…………」
「まったく、盗み聞きの後付いて来ておいてだんまりか。まぁ、お前は世界が見えていない上に、様々な経験に乏しそうだったからな。その乏しさはまだ埋められていないようだ」
「……余計なお世話です」
「当然だ。余計が無ければ楽しむものも楽しめんからな」
「最低ですね」
「どう思われようと構わん。……ああ、それと可愛い弟子に対しての一つアドバイスだ」
「思ってもいない事を……なんです?」
「明日、というかもう今日だな。気をつけたほうが良い」
「?」
「――場合によっては、仲良き者達が離れ離れになるぞ」
「誰と誰がです?」
「それは明日にでも分かるだろう」
「……それっぽい事を言ってるだけじゃないですか? そしてそれっぽい事があったら意味深な顔をするだけの“最初から言っておけば良かっただろうが!”的な有能そうな無能キャラかなんかなんですか、お師匠様は」
「お前、私に対しては毒舌だな」




