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迷惑かつ面倒_9


 色々あって眠れないのと、要人が多いので起きて警戒を軽くするついでにさっさと依頼の品を縫ってしまおうとしていると、ヴァーミリオン殿下が現れ、俺に話があると言ってきた。なんだか胸騒ぎはしたが、断る理由もないので話を聞こうとすると、いつの間にか現れた女性――


「お前達はこの世界のなにを知っている――とな」


 ゴルドさん(女体化中)は、角度によって色が変わる綺麗な瞳を怪しく輝かせながら俺に問うてきた。

 実際は俺だけではなく、クリームヒルトやメアリーさんも含む問いだろうが、三者の中でこの場には俺しかいないので、俺に問うているのだろう。


――さて、どういう意味合いを含むのだろうか。


 ゴルドさんは俺達を転生者、という事は知らないとは思う。

 俺達に会う前に嫌がらせ(変身による関係調査)をするために情報収集はしていたそうだから、もしかしたら知っている可能性もあるが。

 ともかく俺にその件を問うたのは……他にも聞いたのか、俺が一番口が軽いと思ったのか、弟子に聞くのは忍びないと思ったのか、あるいは……


――ヴァーミリオン殿下が聞こうとしていたからついでに聞いたのか。


 ゴルドさんの言葉と、ヴァーミリオン殿下の僅かな反応から、ヴァーミリオン殿下が他者に聞かれたくない話というのは今ゴルドさんが問うた内容と同一だろう。意味は別かもしれないが。

 そして出した名前と内容からすると……この二人は、俺達がこの世界と似ている、あの乙女ゲーム(カサス)に関して気付いている……とまではいかなくとも、なにか違和感を持っている、のだろうか。


「世界のなにを知っている、と問われても……禅問答、でしょうか」


 しかし答える訳にも行かないし、説明しきれるとも思えない。だから怪しくても誤魔化すしか無いだろう。

 それに、あの乙女ゲーム(カサス)についてヴァーミリオン殿下に説明するのは俺はよくないだろう。……ヴァイオレットさんに対しては、俺が話すべきだろうが。


「東の国にあると言う、神ならざる者が神へと至るためにやる問答、というものか」

「…………そうです」

「お前、今なんとなくでその言葉を使っていなかったか?」

「気のせいです」


 禅問答ってそういう意味だっけ。俺の中ではなんとなく答えの無い問答をしあう的な意味という認識だったんだが。


「ともかく、私は世界のなにを知っていると言われても……」

「クロ・ハートフィールド。この国の現在の国王と王妃は誰だ?」

「? レッド国王陛下とコーラル王妃ですよね」

「ではマゼンタ・ランドルフは知っているね」

「っ!」

「確かその名前は……」


 マゼンタ・ランドルフ。

 以前ヴァーミリオン殿下に質問された名前だ。その後バーガンティー殿下が仮面を被って登場し、クリームヒルトに愛の告白をして有耶無耶になりはしたが。

 だがそれとこれとなんの関係が……?


「待て、ゴルド。それ以上は――」

「ちょっと黙って居てくれたまえ――【(フゥ)】」

「――、――!? ――!」

「ヴァーミリオン殿下!?」

「ちょっと一時的に喋れなくしただけだよ。錬金魔法の道具で、副作用は無いから安心しろ。――大人しく話を聞きなさい」


 ヴァーミリオン殿下がなにかを喋ろうとし、ゴルドさんは妙な道具……漫画とかに出て来る陰陽師が使いそうな呪符をヴァーミリオン殿下に放ち、言葉を喋れなくしていた。

 ……下手に動くと、俺も無理矢理()()()()されそうだ。今は大人しく話しを答えよう。


「今は共和国に嫁いでいる王族さ。実は私は彼女と幼馴染……というよりは、幼少期は身体が弱くて彼女の療養先である私の地元の屋敷によく忍び込んで遊びに行っていたものだよ」


 それは意外なつながりというか……確かマゼンタさんって四十代中盤くらいだったから、ゴルドさんもその程度の年齢なのだろうか。という事は本当に若返っているんだな……。


「月日が経つと彼女は健康的に育ってね。去った後はもう会う事は無いと思っていたんだが、意外と覚えが良いと言うか、偶に彼女が外で冒険者の真似事をしている時に会うと、仲良く話してくれたものだ」


 ……王族なのに冒険者になるのは、血というのは侮れないのだろうか。現在の王様も若い頃は似たようなモノだと聞くし。現殿下達は現役だし。


「だが二十年ほど前になるかな、療養先の屋敷に居ると聞いた。なんでも誰とも会わずにいると言う。偶々戻っていた私は、久々に会えると思い忍び込んで彼女に会った。……すると、彼女は腹を大きくしていたよ」

「……えっと」

「言っておくが、寝取られたとか悲恋とかそういう類ではないからな。私の好みとは外れていたのでな」


 それは良かった。いや、良かったかは分からないが、俺は前世の母親関係無しにそういうのは苦手である。

 だが二十年ほど前? マゼンタさんは今共和国に嫁いでおり、結婚したのは……あぁ、その子は――


「さて、質問だ。そのお腹の子は誰の子で、子供は誰だろうか?」

「知りませんよ。……こういっては不敬でしょうが、冒険者であれば多くの相手と会う事も有るでしょう。そして多くの恋も生まれるでしょう。ですが王族という立場上は相手を確かめられない相手の場合もある。だから隠す事にした、という可能性もある。……私に言える事は、それ位です」

「クク、そうか。結構、結構。思ったよりは不敬な事を言うようで安心した」

「……なにが言いたいんです」


 ゴルドさんは分かっていてこちらの反応を楽しんでいるように思える。……クリームヒルトがゴルドさんに対して評していた事が、なんとなく分かった気がする。


「気にするな。そしてこれは十六年前になるか。再び――」

「――!」

()()()が動くと私はこの話を王国中に広める。私になにかあればシュイとインが脱出して広めるように命令してある」

「……っ!」


 さらに話を続けようとするゴルドさんに対し、ヴァーミリオン殿下は動こうとしたが言葉と睨みだけで止めていた。

 ……この話は、以前ヴァーミリオン殿下にマゼンタという名前を問われ、クリームヒルトに確認して思い出した事柄だ。ヴァーミリオン殿下が止めたいのはよく分かる。分かってしまう。……だが、お前ら、というのに若干違和感があるな。


「さて、話を戻すが。子を産んだアイツが十六年ほど前に再び屋敷に戻って来た。以前に来た時と同じ状態でな」

「よくご存知ですね」

「私にも色々あるという事だ。どうやらその腹の子の父親は以前の子と同じであるそうだ。そして再び子を産み、子は再び父親に認知され父親の子供として育てられた」

「……言葉遊びがお好きなのですか?」

「おや、なんの事だろうか。なにか知っているから私の言葉に違和感があるのではないか?」


 うわ、このニヤケ面殴りたい。

 分かっているくせに分かっていないふりってこういう時に凄く腹立つな。


「この情報はね。数少ない相手しか知らない。その生まれた子供にすら実の母親は伏せられていた。妊娠中に世話した者達も、父親は知らされていなかったようだ。……だから知っているのはマゼンタと、子の父親と、父親の妻。そして極僅かな側近と、私」

「…………」

「まぁ、結局はその子達にもバレたみたいだけどね。けど、この情報はほとんど知らない情報なんだ。なにせバレたら大問題だからね。――よ、っと」

『――!?』


 ゴルドさんは指をパチン、と鳴らすと、同時にこの場の明かりが全て消えた。

 なにが起きたか分からず、俺達はつい警戒態勢になろうとするが、それよりも早くゴルドさんは俺に近付いて、虹色の瞳で俺の瞳を覗き込む。


「さて、その子供二人は現在の誰であるかを知っているのではないか?」

「……知りませんよ」

「いいや、お前らは知っているよ。この状況から予想が出来るのではなく、前々から知っているはずだ」


 ああ、そんなに詰め寄らなくても知っているし、忘れていた訳でも無い。

 情報としては大まかに把握してはいたが、具体的な詳細を思い出さないでいた事実。

 この世界は似ているだけなのだから、実は違うのではないかと思い込んでいた事柄。

 つまりは――


「その子はヴァーミリオン第三王子。そしてスカーレット第二王女。そんな王国のシークレットを、お前らは以前から――いや、この世界に生れ落ちる前に知っていたのではないか?」


 ここに居るヴァーミリオン殿下、そしてスカーレット殿下の父親は現国王のレッドで、母親はマゼンタ。

 妾の子ですらない、不義の子であるという事だ。


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