表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された私、王子と入れ替わったので今度は私が選びます  作者: しろねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/11

第6話 影の調査


 三日前。


 メリッサは侍女へ静かに命じた。


「アルヴィンの動きを調べてちょうだい。それから、最近のラインハルト様のご様子も。」


「かしこまりました。」


 侍女は深く頭を下げ、部屋を後にする。


 一人残ったメリッサは窓辺へ歩み寄った。


 庭園を眺めながら、小さく呟く。


「……あの人は、変わった。」


 庭園での会話。


 思い出を間違えたこと。


 自分に触れられるのを避けたこと。


 どれも以前のラインハルトでは考えられない。


 まるで――


「別人みたい。」


 その違和感だけが、心から離れなかった。


     ◇


 三日後。


 侍女が報告に訪れる。


「調査の結果をご報告いたします。」


「聞かせて。」


「アルヴィン様は、ここ数日、毎夜のように殿下の執務室へ通われています。」


「毎夜?」


「はい。人払いをされた状態で、一刻近く。」


 メリッサは静かに目を細める。


「話の内容は?」


「ほとんど聞き取れませんでした。ですが、一度だけ……。」


 侍女はさらに声を潜めた。


「『元の姿に戻る方法』という言葉だけは、はっきりと。」


 空気が止まる。


「……元の姿?」


「聞き間違いかもしれません。」


 メリッサはゆっくり立ち上がった。


「いいえ。」


 その瞳から笑みは消えていた。


「何かが起きている。」


     ◇


 一方その頃。


 執務室では、エルフィーナが書類を閉じていた。


「失礼いたします。」


 アルヴィンが入室する。


「何か分かった?」


「はい。」


 アルヴィンは静かに答えた。


「メリッサ様が、私を調べ始めています。」


「……やっぱり。」


「それだけではありません。」


 一枚の紙を机へ置く。


「殿下――いえ、ラインハルト様も、客館の外へ出ようとなさったそうです。」


 エルフィーナは顔を上げた。


「え……?」


「止められたそうですが。」


 胸が大きく波打つ。


「私に……会いに?」


「おそらく。」


 アルヴィンは小さく頷いた。


「殿下も、今の状況を理解されたのでしょう。」


 エルフィーナは静かに目を閉じた。


 婚約破棄の日以来、一度も顔を合わせていない。


 会いたい。


 聞きたいことが山ほどある。


 それでも。


「今は危険ね。」


「はい。」


「メリッサ様に見られれば、すべて終わります。」


     ◇


同じ頃。


 ラインハルトは、自室の机に置かれた小箱を静かに開いた。


 中には、小さな押し花が丁寧に並べられている。


『慈善院のミアと摘んだ花』


『北部視察の帰り道に見つけた花』


 一つひとつに、几帳面な字で思い出が綴られていた。


「……こんなものまで。」


 思わず息が漏れる。


 慈善院の子どもたちの名前を覚え、忙しい政務の合間にも花を押し、何気ない一日さえ大切に記していた。


 自分は、そんな彼女を何一つ見ようとしてこなかった。


 婚約者として隣に立ちながら、その努力も、その優しさも、その笑顔の裏にあった苦しさも。


「私は……何を見ていたんだ。」


 胸の奥が、鈍く痛む。


 もし、もう一度話す機会があるのなら。


 謝りたい。


 そして、真実を確かめたい。


 ラインハルトは静かに立ち上がった。


「……会いに行こう。」


 そう思い、客館を抜けようとした瞬間だった。


「エルフィーナ様。」


 護衛騎士が道を塞ぐ。


「王命により、真偽が判明するまでは客館の外出には許可が必要です。」


 ラインハルトは立ち止まる。


「少し庭へ出るだけでもですか。」


「申し訳ございません。」


 王命。


 その一言で動けなくなる。


 拳を握り締めるしかなかった。


     ◇


 その夜。


 王宮の回廊。


 エルフィーナはアルヴィンとともに王の呼び出しを終え、静かな廊下を歩いていた。


 その時だった。


 角の向こうから、誰かの足音が聞こえる。


 エルフィーナは反射的に足を止めた。


 同じ頃。


 反対側の回廊では、護衛に連れられたラインハルトが歩いていた。


 二人を隔てるのは、たった一枚の壁。


 あと数歩進めば、互いの姿が見える距離だった。


 しかし。


「こちらです。」


 護衛の声が響く。


 ラインハルトは別の廊下へ導かれていく。


 エルフィーナもまた、アルヴィンに促され歩き出した。


 二人は互いの存在に気づかないまま、すれ違う。


 あと少しだった。


 本当に、あと少しだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ