22日目
十一月のある日、教室で英単語の勉強をしていると最近何かと絡んでくるゆずが机から顔を覗かせるようにして話しかけてきた。
「単語テストあるっけ」
「来週のどっかでやるって言ってたよ」
見た目の通りおちゃらけた様子でゆずは「ヤバ〜まったくやってなーい」と言って笑っている。この前も同じことを言ってたがしっかり追試は回避しているのは裏で頑張っているのだろうか。
clumsy 不器用な
「最近陽華部活頑張っててさー私負けちゃいそう」
勉強している私のことは気にせず、話を始める。まあ、話をするのは嫌いじゃないしいいけど。
「ゆずって強いの?」
「んー、そこそこ?今年は県大会止まりだしね」
enough 十分な
「県大会ってすごいの?」
「凄いは凄いかもだけど、全国行ってる人と比べちゃねぇ」
「ふーん。頑張ってね、ゆず」
「最近はちゃんと呼び捨てで呼んでくれるね」
「まあ、何回も言われたらね」
夏休みが終わって授業が再開した数回目の英語の授業で先生が「単語テストの日程黒板に書いとくね~」と軽く言ったことをきっかけに面倒に感じてあまりしていなかった単語暗記を効率がいいとされる朝にしていたら「テスト面倒だね」と加藤さんが話しかけてきた。
急になんで?と思いながらも、陽華の友人を無下には出来ないため心の中で深呼吸をしてから顔をあげて話す。
「そうだね。加藤さんは勉強しないの?」
「ゆずって、呼んで」
今までまともに話したことがないのに心を色が青く見える程の速度で私に近づけてくる。もちろん戸惑う。
「……ゆずさんは勉強しなくていいの?」
「今はゆず”さん”でもいいけど、そのうち呼び捨てにしてね」
「……善処します」
距離の詰め方が凄い……。
「そういえば、夏祭り!陽華借りちゃってゴメンね!」
今更?だし、なんで?だしで余計に混乱が大きくなっていく。
「別にいいけど、なんで?」
「え?陽華が私と先に約束しちゃったから凪沙ちゃんの誘いを断ったって言ってたから」
さらに大きくなっていく。私が陽華との約束を白紙にしちゃったからなんだけど。
加藤さんが話題を変えようとするぐらいの時間、陽華の気持ちを考えてみたら一つの考えを思いついた。
陽華は加藤さんに誘われて、それを私を理由に断った。が、私が理由で夏祭りを一緒に行く人がいなくなってしまった。そこで加藤さんに声をかけようと思ったが、一度断った関係ですこし気まずい。そこで、私を理由にしてしまおう。
そう思ったわけだ。それならなるほど、合点がいく。ここは陽華の顔を立てて差し上げようじゃあないですか。
それからちょくちょくゆずは私に話しかけてきて、いつしかゆずの念願かなって”さん”が外れた友達のような呼び方になっていた。
「今のままだとねぇ、陽華は県大会で止まらないよ」
へえ、陽華頑張ってるんだなぁという感情が顔に現れたのか、ゆずは、
「陽華は部活のこと話さないの?」
「そういえばあんま話さないな」
「せっかく頑張ってるんだから話したらいいのにね」
inspiration ひらめき
「そうだ!こんど大会あるから見に来なよ!陽華のカッコいいとこ観れるよ!」
普段の陽華のかわいかったり、美しかったりするところもいいけど、カッコいいところが見られるというのは甘美な響きだ。ぜひ行こう。
「そうなんだ。具体的にいつ?」
「えっとねぇ、十一月の……。……忘れちゃった、陽華に聞いて」
一瞬真顔になったかと思ったら笑顔で忘れたというゆず。今日は陽華と帰れるし、そのときに聞こう。
「ゆずは出るの?」
「んーん、出ない。寒いのきらーい」
なんともゆずらしい。
いつしか腕についている時計を見ることにも慣れて、すっと時計を見る。
「あと何分?」
「一分ないぐらい」
「マジ?じゃあ戻るわ。陽華と仲良くね~」
言われんでもそうするわい。
☆☆☆
今日も今日とて学校が終わり、陽華と一緒に帰ることが出来る。そろそろゆずに教えてもらったことを陽華に聞いてみようと思い、話題を替える。
「最近部活頑張ってるんだってね」
「ゆずから?そうなの、頑張ってるの」
「それまたどうして」
中学の時も、少し前までも陽華は遊び感覚で部活動に取り組んでいた印象がある。ゆずが言ったときも不思議に感じ、陽華へ考えを巡らそうとかと思ったが本人に直接聞いたほうが速いのでやめていたことを聞いてみた。
「心変わり、かな」
「なんかあった?」
「別になんもないよ。そんな私がしっかりやってるのがおかしいか」
「おかしかないけど、ただ不思議だなって。そうだ、大会出るらしいじゃん。いつやるの?観たい」
「それもゆず?二学期入って急に仲良くなったよね」
察しがいい陽華には情報源が筒抜けだ。私の交友関係を把握してるからか?
「ゆずが急に絡んできたから。あんときはびっくりした」
「距離近いよねーあの子」
「それで、大会はいつなの?」
話の内容が変わっていたのを軌道修正。
「っとねー、十一月二十なんとか。あとで送っとくよ」
「せんきゅー」
「そういえば、来年の十一月、修学旅行だね」
そっか、修学旅行か。綾瀬と図書室で話しているときに「なんで東北ー!?」と愚痴っていたのを思い出す。ちょっと北に行けば北海道なのに、とも言っていた。東北だっていいところあるよと言うと「北海道は倍以上あるってー!」と悲しそうにいう綾瀬はかわいかった。自然と頬が緩んでしまう。
「なにニヤついてんの。そんな楽しみ?」
「そういう訳じゃないけど、いや楽しみは楽しみなんだけど。綾瀬が行先について色々言ってたのがかわいくて」
「そっか。まだアツアツだね。何か月目?」
「えっとー」
確か六月に付き合いだしたか?私も綾瀬も記念日とかに執着しないタイプだったから、「付き合ってnか月。おめでとー!」みたいなのやってないしいまいちわからない。もちろんnは自然数。ハーフアニバはソシャゲだけで十分だ。
「五か月ぐらい?」
「なぜ疑問形。それぐらい覚えてなよ」
「年を重ねると時間の流れが早くなるっていうじゃん?たぶんそれだよ」
「私が管理したげよっか」
「いや、それはいい」
そっかー、と笑いながら陽華がいう。そんなこんなでいつの間にかいつもの分かれ道に到着してしまった。残念。
「じゃ、また明日ね」
わが家への歩みを進めようとすると、陽華が小さい子供のようにブレザーの裾を引っ張る。
「もうちょっと話そうよ。向こうの川辺のほうで」
「いいよー」
しょうがないなー、陽華くんは。そんな風に頼まれちゃ断れないじゃないか。
「中学の時よく向こうで話したよね」
「ねー」
蝉の鳴き声からコオロギの音に移り変わるのがより顕著に現れる川辺で座って話していたのが、今となっては懐かしい。こういう落ち着く雰囲気もいいよね、と陽華といると頻繁に思う。




