20日目①
夏休みが終わり、2学期がやってきて早1週間が過ぎました。最近は、英会話で”How are you?”と聞かれたら”I’m fine. Thank you.”と答えるぐらいの平凡な日常です。しかし、平凡とは言っても、ほかの人と違う点もあります。恋人です。それも同性で年上の恋人がいます。私、幸せです!とはいえ、今が人生の絶頂期だとは思いたくない今日この頃。なぜならカップルの発展度合いをランク付けした、ABCでいうところの今の私たちはB。Cがそのうちあると思いますから、今が絶頂期ではないと信じています。
***
最近、いや7月頃から不思議に思っていることが和泉にはあった。
「最近の綾瀬、どう思う?」
あたかも厳粛な会議が始まりそうな声色で向かい合わせた机の上に肘を付き、口の前で手を組み、友人らに尋ねた。
「どうって、なに」
察しの悪い柊が牛乳パックから口を離してそう言った。
「言う必要があるかよ。夏祭り、一緒に見てたでしょ?あれだよ」
「あー、あれか」
「そう!綾瀬の隣にいた子は誰!?」
7月某日。彼女ら3人は地元の夏祭りに行った。そしたら和泉からの誘いを断った綾瀬が小っちゃい子と楽しげに話をしているところを目撃した。
「親戚の子ってことになったじゃん」
「あたしは和泉の言ってることわかるなぁ」
「さっすが小林!彼氏持ちはやっぱ違うね!」
ひゅーひゅー、とからかいながら和泉は小林に肩をぶつけながら笑う。
「漫画の読みすぎ」
「その漫画みたいなことがあったから話してるんじゃん!普通唐揚げあーんはしないって!」
「たしかに?」
「静岡行った時もしょっちゅうスマホ見て笑ってたし」
小林は目の付け所がいい。和泉のなんとなくをどんどん解消していく。
「確かめるしかないね」
斜に構えているようでこういう話題の時は結局柊が一番興味がありそげだということを和泉、小林は再認識する。
「綾瀬に聞くの?」
「どうせいつもみたいにはぐらかされるよ」
「小っちゃい子に聞くのは?」
「聞けたら苦労しませんー」
あーでもないこーでもないと議論を進めていると、昼放課が終わる予鈴が鳴りだした。
「そろそろ綾瀬帰ってきちゃうから続きは部活のとき話そ」
「だねー。次の授業なんだっけ」
「数学」
「和泉楓子、寝ます!」
すると綾瀬が教室に入ってくるのが目に入った。
☆☆☆
昼には綾瀬とイチャコラして、今は週1部活に向かっている最中だ。今日はなにか用事があるらしく、陽華とは帰れないため少し憂鬱だが、1日ぐらいじゃめげない。
部室の扉を開けると、いつぞや一緒に麻雀をしたギャルパイセンがいつものように話をしている。ここ最近はタイトル買いをした『ロリータ』を読んでいる。このタイトルを見て手に取らない者はいるまい。
読書を始めて数分たった頃、気になる言葉が耳に入った。
「綾瀬に聞くしかないのかなぁ」
件のギャルのうちの1人からマイスイートハニーの名前が聞こえてきた。
そのため、耳をすましてしばらく盗み聞きしていると、いくつかのことがわかった。
1. 夏祭りの最中に桐生綾瀬の隣にいた人物との関係を探りたい
2. その人物は小柄であった
3. その人物と桐生綾瀬は親戚、あるいは友人にしては距離が近かった
4. 小柄な人物との接触が一番理想
5. 桐生綾瀬本人に聞くとはぐらかされる可能性が高い
6. 小柄な人物がどう考えても私なこと
さて、どうしたものか。
第1に、私は交際が周囲にバレてほしくない。単純に恥ずかしいからだ。
とりあえずはこのまま本を読むふりを続けることが最適だとは思うが、いずれは綾瀬に聞きに行くだろう。1番いい展開は綾瀬が「ただの友人だ」と言ってくれるのがいい。しかし、夏祭りでゆずさんに私との関係を聞かれたとき彼女だと言いかけたため危険性を孕んでいる。
2番目は私からこの場で「控えい、控えおろう! この私を誰と心得る! 畏れ少なしその探し人、酒々井凪沙その人なるぞ!」と正体を明かし、ただの友人だと嘘を吐くこと。ただしこれは私の性格を加味すると、論外。
妥協案を探すべく、思考の奥地へと赴いていたところ後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返るとギャルさんがにこやかに立っていた。ままならない、ね。
☆☆☆
「凪沙ちゃん、なに頼む?」
「水で大丈夫です」
どうしてこうなった。
部室じゃなんだというご配慮のもと、私とギャルたち──和泉、小林、柊の計4名は私が絶対に行かないような、喫茶店よりもカフェのほうが呼び名として適していそうな場所にいる。
「どうせならこっちのほう頼んじゃいなよ。奢るよ」
奢ってくれるのか、やさしい。
「じゃあ、それで」
慣れた様子で注文を済ませ、彼女らの視線が私に集まる。冷や汗が止まらない。
「あらためて聞くけど、綾瀬とはどういう関係なの?」
「さっきから言ってるじゃないですか。友人、ただの友人ですよ」
「そうは見えなかったんだよね~」
何度も友人だと言っているにもかかわらず、一向に信じてくれない。自分の考えをほとんど曲げない質と見た。特に柊先輩。
「ほんとのこと言ってほしいなぁ。あたしたちはただ知りたいだけなんだよ」
「ほんとですって」
「じゃあ聞くけど、友達に唐揚げあーんってする?」
私と陽華は例外だが、どう考えてもしない。
「する人だっているんじゃないです?」
「いーや、いないね。親戚ならワンチャンあるけど、友達ならないね」
「私、和泉にできるよ」
「狂人ムーブやめてもろて」
「ご注文のドリンクでーす」
ちょうどいいところに飲み物が来た。とっくになくなった水の代わりにドリンクを飲む。あぁ〜、緊張で乾いた喉に沁みる。
ゴクリ、と喉を鳴らすと口数の少ない小林先輩が口を開いた。
「ところで、凪沙ちゃんいくら持ってる?」
綾瀬を出汁に使ったカツアゲ!?人生初の体験に体を固めながら残高を確認する。陽華に奢った喫茶店や少しお高いロリータのせいで残高はほとんどない。
被害は軽微だと安心しているところに、悪魔の声が。
「ふーん、それだと凪沙ちゃんが飲んだ分払えないね」
え?
「お、奢ってくれるって話じゃ」
「素直に話してくれたら、って言わなかった?」
言ってない。絶対に言ってない。
「いや言ってn」
すかさず柊先輩が和泉先輩の口をふさぐ。
「そうだよ、ここに来るまでに言ったよ」
この柊先輩の行動が言ってないことを物語っているが、弱い立場の私になにか口を出す権利はない。
「言ってくれるね?」
にこやかに小林先輩が圧をかけてくる。この人が1番怖い。もう、逃げ道は走ってこの場から立ち去るしかないが、追いつかれる未来しか見えない。己の身体能力の低さを呪う。
「言う前に、桐生先輩と話をさせてくれませんか?」
「ダメ。口裏を合わせられたら困る」
あーあ。終わった。このまま学校中に知れ渡っちゃうんだろなぁ。
「それぐらいいいじゃん。合わせられないようにこの場で電話させればいいんだし。それにちょっとかわいそう」
大天使の言葉。まさに鶴の一声。和泉楓子様。
「だね。連絡先知ってる?」
「……知ってます」
「じゃ、電話していーよ」
「ちょっと待って」
「どした?柊」
まさかこの場で真実を言えと?鬼!悪魔!妖!
「電話で綾瀬も召喚しない?」
「ありわね」
「そういうことだから、凪沙ちゃんよろしくね」
それは私としてもそのほうが安心できる。利害の一致で綾瀬の召喚も決まり、私は皿洗いを回避すべく綾瀬に電話をかけた。




