15日目
さて、件の話を如何様に陽華に話したものか。
そんなことを考えていたらいつの間にか陽華と下校していた。話すだけなら簡単だが、偽名問題を綾瀬に簡単に話せなかったようにこれも簡単に話せるものではない。まったく、『この世に一つとして簡単に解決する問題はない』とはよく言ったものだ。
「そろそろ夏休みだね」
「入ったとて1週間は演習があるから実質再来週からなのが忌々しい」
「ほんとにねぇ。でも本格的に入ったら夏祭り!楽しみだね」
うう....。陽華とも行きたい....。でも、綾瀬とも行きたい。
「夏祭りなんだけどさ。綾瀬からも誘われてて....。それで、綾瀬も一緒に行ってもいい?」
考える陽華。顎に手をあてている。さながら座っていない考える人だ。
「私はいいけど。綾瀬先輩はいいって言ってるの?」
「....聞いてない」
「私が凪沙の彼女だったらちょっとヤダかな」
「はい」
「今年は綾瀬先輩と楽しんどいで。私は友達と一緒に回るから」
「わかった、今年は綾瀬と楽しんでくる」
「ていうか、下の名前で呼び捨てなんだね。進展速くない?」
「そうなの?陽華はどれぐらいで呼び捨てにしてるの?」
恋愛経験豊富な陽華先生の意見を聞いてみよう。それで、私たちの関係の進展具合を図ろうじゃないか。
「なぜ私が付き合ったことがある前提で話す」
「え?よく告白されてたじゃん。先輩後輩関わらず」
「なんで知ってんの....。私凪沙にその手の話した覚えないんだけど」
「風のうわさで必然と」
「マジか......」
「マジマジ。本気と書いてマジ」
「うわー....、付き合ったことないよ。全部断ってる」
「ひぇぇぇ。もったいないことするね」
私がそう言うと陽華は明後日のほうを向いてこう言った。
「うっせ、ばか」
☆☆☆
校長の長い話はなく、スムーズに終業式は終わった。
「終わったねー、一学期」
「早いもんだねー」
たまたま教室に戻る途中に陽華とあった。これは運命だろう。神様は私たちを引き合わせようと躍起になっているに違いない。
私が見つけた時に陽華はシューズ袋をサッカー部の小学生のように蹴っていた。子供っぽいところを見られて少しうれしい。
「陽華って夏休み部活どんだけあるの?」
「腐っても運動部だからね、毎日とは言わないけど週の半分以上部活あるよ」
「猛暑を避けるための夏休みの名折れだね」
「名折れって、使い方それであってる?」
「国語の先生ですかぁ、陽華さぁん」
何も考えずに話しているのが透けてしまう。確かに少しおかしいかもしれない。
「違うが、でもニュアンスは伝わってるからいいんじゃない。てか夏休みって猛暑を避ける目的なの?」
「さあ、この前見た動画でそう言ってた。真偽は知らん」
「あり得そうだよね。あのくそ暑いなか勉強なんてしたくないもんね」
エアコンなしで勉強することを予定しているのだが、私。エアコンを付けたら某ハゲのようにさいきょーになれない。
「この後ご飯行かない?」
内側から外側に連れ戻される。
「急だね」
「いいじゃん、私たちの仲なんだから。それとの約束でもあった?」
窓からの熱風が私たちの髪を揺らす。
「……あっつ」
この陽華からはなんだか哀愁を感じる。なんか、いい。
「ご飯行こっか」
と、いうことでHR終わりの陽華の教室の前。陽華のクラスの先生がなにかを一生懸命話しているのが廊下までうっすら聞こえてくる。声は聞こえても教室からの冷気は届かず、廊下はすごく暑い。
「あれ、酒々井さんじゃーん。人待ってるの珍しいよね」
思わず背筋が伸びる。確か彼女はクラスメイトの…………、っっっぅぅぅぅぅ。加藤さん!名前は……
「あれ?おーい」
まずい、長考が過ぎた。名前はいいや、えっと、何を聞かれたか……
「ですね」
耐えた。
「もしかして陽華待ち?」
「っす」
なんで話しかけてきたんだろ。すごく気まずい。てかなんで目的わかったんだろ。接点あったけ──あ、涼しぃ。
「あれ、凪沙?ゆずもいるじゃん」
天使降臨。感慨一入 。千謝万謝 。
「陽華、ちーっす」
「ちー。それでゆずはなんで凪沙に絡んでんの?」
「私も人待ちで酒々井さんも待ってたら話しかけてみた。陽華の友達でしょ?」
そんな理由で……。これがギャル……。
「あー…。凪沙、こういうやつだから気にしすぎないでね」
「ゆずー。待っててくれたのー。帰ろー」
そう言いながらもう一人のギャルが出てきた。
「じゃあ、帰るね。またね、陽華、酒々井さん」
「あれ、陽華じゃん。じゃねー」
嵐のような数分間だった。その嵐たちはくそ暑そうに2人で腕を組んで階段へ向かってなにやら騒ぎながら歩いて行く。これが、ギャルッ!
「私たちも帰ろっか」
「だね」
私たちは彼女らのように腕は組まずに階段、廊下、昇降口、駐輪場と順に場所を変える。
「なんか食べたいものある?」
陽華が自転車のスタンドをあげながら私に聞く。
「んー、移動しながら考える」
「じゃあ向かうはイオンだね」
☆☆☆
私はうどん、陽華はハンバーガーを食べた。ビッグカフナバーガーではもちろんない。
それで今は陽華と一緒にぶらぶら歩いている。時々お店に入ってみたりもするが特に何もなく時間だけが過ぎる。
「それそろ帰る?」
「だねぇ」
……私たちの間に今さら会話は必要ないが、それはそれとしてただ陽華の隣で歩くだけというのはつまらない。
───あ、ここ前綾瀬と来た服屋だ。夏祭り、陽華との約束なくなっちゃったなぁ。夏祭り…誕生日じゃん。プレゼントとか買ったほうがいいのかな。
「誕生日ってプレゼント買ってあげたほうがいいかな」
「なんの話?」
「や、綾瀬が誕生日なのよ。だから買ったほうがいいかなって」
「あーね。買ったほうがいいんじゃない。友達の私に買ってくれてるんだからなおさらでしょうよ」
「だよねー」
何買おうかな。……。思いつかん。
そうだ、陽華と一緒に選ぼう。三人寄ればなんとやらだ。
「帰る前に雑貨屋行こ。プレゼント買ってく」
「っけー」
キーホルダー、アクセサリー、付箋。グラス、マグカップ、サングラス。
いろいろ物がありすぎて目移り、戸惑い。陽華へのプレゼントを決めるときと違い、何も定まらない。
「おすすめとかない?」
こんなときの陽華大先生。
「綾瀬さんを知らないしなんとも言えないよ。私の選ぶときとかどうしてたの」
「フィーリングでちょちょいと」
「同じように決めなよ」
「これが難しいのなんの」
「いっそ一緒に選んだら?サプライズしたい?」
ハッとした。まさに天啓。そうか、プレゼントというのは何も隠れて選ぶ必要はないのだ。
「ありがと!そうするよ」
その後、暑さにマケズ、湿気にもマケズ一緒に家まで帰った。今回の件から私が得た教訓は、恋人との時間は楽しいが、同じように友人との時間もかけがえのない大切な時間ということだ。




