13日目
「私、綾瀬先輩のこと好きになってたの」
凪沙が例の先輩、綾瀬とか言ったか、と付き合っているらしい。私は、ずっと…。
中学一年の時に孤立していた凪沙に話しかけて始まった私と凪沙の関係。
「いつから?」
今でこそ改善しているが、当時はもう私がいなかったらどうなってしまうんだと考える日が少なくないほどそれはもう心配で心配でしょうがなかった。例えば───
「はっきりとはわかんないけど、最近だと思う。偽名告白したのも好きになってたのを自覚してたからが半分ぐらいあるし」
───と、思い返せばきりがないが、とにかく目が離せなかった。
内省的に凪沙を好きになった理由を考えたことはなかったが、保護欲の延長だったのかもしれない。
「ほんと最近だね」
ほんとに、私はもっと前から凪沙との関係があったのに。凪沙が関わったこともないような人から好意を寄せられていることは昔からよくあるけれど、ここまで私の知らないところで発展してしまったのはこれが初めてだ。
始め、綾瀬さんと凪沙の関わりを楽観的に見ていたのが間違いだった。
今思えば理由はわからないが、凪沙は隠していたのかもしれない。私が関与できなくても仕方がない。
「うん、最近。でもね、関わった期間は好意の大きさに比例するとは限らないと思うし」
「そうだね」
ううん、比例するよ。少なくとも、私は。揺らいだことは一回しかないよ、この気持ち。だって、いきなり「私、実は感情が乏しいんだ」とか言い出した時はさすがに揺らいだよ。ここまで典型的な中二病を見たのは初めてだったし。
でも、綾瀬さんと関わりだしてちょっとしたらこんなこと言わないようになって、私はうれしかったんだよ。
「それで、私も正直よくわかんないんだけど、ありのまま起こったことだけを言うね」
もしかして、綾瀬さんが凪沙を救ってくれたのかな。私にできなかったことをしてくれて素直に感謝したい。
「電話の後、学校で会って」
私が凪沙を治してあげたかった。なんで。私のほうが凪沙を知ってるのに。私のほうがこの気持ちを抱いている期間は長いのに。
「数分校内を散歩して」
すごいなぁ。綾瀬さんは。
「それで気づいたら付き合ってた」
は?
「え、待ってどういうこと」
「何を言ってるか私にもよくわからない」
えぇ?
「何があったか彼女さんに聞いたらいいじゃん」
凪沙に彼女……。
「彼女さんやめて。聞いたら私が不誠実な女みたいじゃん」
「実際そうでしょ。気づいたら付き合ってたんでしょ?」
「でも、聞きづらいじゃん」
ピコーン。陽華ちゃんレーダーに反応あり。
「じゃあ、私が聞いてあげよっか?」
「え、いいの?陽華ありがと!だ…なんでもない」
大好き、って言いかけたな。私にはお見通しだよ、凪沙。彼女持ちらしく、人たらしな言動は控えようね。
「じゃあ、連絡先教えて」
「ちょっと待って……。はい、これ」
確認取りなよ…。追加するけども。早速聞いてしまおう。
『始めまして。凪沙の友人の日菜月陽華です。気になっていることがあるので聞いていいですか』
※※※
ピコん、と桐生綾瀬スマホに通知が届く。それは日菜月陽華が綾瀬をラインの友達に追加した音であった。
綾瀬はこの名前に覚えがある。忘れもしない、綾瀬の彼女と初めてもめたきっかけだからだ。名前に覚えはあっても友達に追加される覚えはなかった。
そんな陽華から初のメッセージが届く。なんでも聞きたいことがあるようだ。
『いいけど、なんで?』
困惑せざるを得ない。しかし、適当にあしらっては凪沙にどう言われるかが心配な綾瀬。平常心を心がける。
『凪沙の告白シチュエーションの説明を聞いてもよくわからなかったので、別視点からのを聞いておきたいと思ったばかりです』
『そうだなー。なんか雰囲気がいつもと違ったよ。でも、すごい綺麗だったよ。魔性の女って感じ?』
『そうですか。ありがとうございました。参考させていただきます』
☆☆☆
「だって、凪沙」
「だってと言われても…。もう綾瀬先輩だけが知ってるってことでいいよ…」
私の知らない私のことを綾瀬先輩だけが知ってくれているというのはなんだかうれしい。しかも、綾瀬先輩が私のこと魔性の女だって。へへへ。
「……ちょっと用事思い出したから近道で帰るね。またね、凪沙」
「うん、……またね」
陽華が帰ってしまった。夏真っ盛りだというのに、まるで秋のようにすぐに見えなくなってしまった。せっかくの時間がもう終わってしまった。
今は情けない顔をしていると思うから、そんな顔を陽華に見られないだけ良しとしよう。
さあ、私もさっさと帰ろう。帰ったら綾瀬先輩と電話でもしよう。
電話。恋人に、彼女に電話。声が聞きたいだけ。
今かけても大丈夫だろうか。綾瀬先輩は友達が多そうだからその人らと遊んでいたりしないだろうか。そうだとしたら迷惑だろうか。
でも、いいよね。彼女だし。電話をかけたらすぐに出てくれた。
『もしもし、凪沙ちゃん』
「もしもし、わたしです」
『どうかしたの?』
「恋人の声を聞きたいから電話しちゃだめですか?」
『…だめじゃない』
ほんとこの人かわいいな。私がちょっと甘いことを言うと照れてくれる。
「ねえ、綾瀬先輩。綾瀬って呼んでいい?」
『綾瀬はいいけど。タメ口?』
「一歳差なんてそのうち気にならなくなりますよ。だから、速いか遅いかだけ」
『そっか、そうだね』
少しの沈黙が流れ、ふと時計を見ると19時、つまりご飯時になろうとしていた。
時間が流れるのはあっという間だ。耳を傾けると下から私を呼ぶ声が聞こえてくるような気がする。
「夜も電話していい?」
『いいよ。何時?』
「23時に電話かけるね」
『あーい。またね』
夜中の電話は綾瀬が数分で寝落ちしてしまった。
電話をかけてすぐにあくびが聞こえてきたことから、普段は健康的な生活を送っているのだろう。彼女が私に合わせてくれたことをうれしく思う。
それにしても、眠そうな綾瀬の声かわいかったなぁ。




