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14日目

 華の金曜日。図書室で綾瀬(あやせ)と二人。

 私たちは横並びで並んで座っている。前までは本を読むための空間だったが、今は綾瀬と過ごすための空間として機能している。

「ねえ、凪沙(なぎさ)ちゃん」

「なに?」

「週末、デートしない?」

「どこで?」

「この前と一緒」

 一緒というとショッピングモールのことだろう。ちょうどいい。

「いいよ。私見たい映画あるから一緒に見よ」

「何見るの?ていうか凪沙ちゃんって映画とか見るんだ」

「見るよー。まあ、金曜夜と土曜夜にテレビでやってるのぐらいしか見ないけど。これ見たいなーって」

 そういって私はスマホの画面を綾瀬に見せる。そのために綾瀬に近づく。

 私は綾瀬の顔を凝視する。いつでも見られるというのに、見ずにはいられない。

「これ、ジャンルは?」

「サスペンス?タイトルが気になっただけだからよくわかんない」

 その綾瀬の顔がこちらに向けられる。正面からだと余計に意識してしまう、唇。

「わかんないのー?見てからのお楽しみだね。あ、吹き替えと字幕あるけど、どっち?」

「字幕。そっちのほうが雰囲気ない?」

「通っぽい感じしてかっこいいよね、私も字幕がいい」

 ニコッと笑いかける綾瀬の顔がとてもかわいらしい。キス、してしまおうか。いやしかし、学校で?いやいや、もうしてるじゃないか。

 いや、でも…。

≪キーンコーンカーンコーン≫

「あ、じゃあね。また明日」

「あ、はい。また…」

 悩んでいたら鳴ってしまった。戻るか。


   ☆☆☆


 私にとってこのデートはやり直しとしての側面が大きい。というのも、前は偽名問題に思考が半分以上持ってかれていた。心から綾瀬との時間、付き合う前の一番楽しいと言われる時間を楽しむことが出来なかった。

 だからこそ、今回、前回分も含めて十二分に堪能すると心に誓った。

 と、いうわけで私は集合時間の10分前にモールに到着した。当然綾瀬はまだ来ていないだろうと思ったのだが、私が着いた頃には綾瀬はそこにいた。

 先輩曰く「この前待ってもらってたから今回は私がね」とのことだった。

「待ってない。綾瀬が着くほんとちょっと前に着いてたって言ったじゃん」

常套句(じょうとうく)、常套句」

 ぐぬぬ。よく知っているではないか。

「綾瀬ネイルしてるんだ」

「お、気づいてくれると思ってなかった」

 さすがに気づく。デートのあるあるだしね。

「凪沙ちゃんはしないの?こういうの」

「あんまりしないなぁ。落とすの面倒だし、ずれた時の絶望感といったら…」

「まあ、確かにね。でも、私はちょっとでも魅力的に思ってほしいから」

 キュン。

 ナチュラルにこのセリフを言えるのか。とんでもない女と付き合ってしまったかもしれない。

「上映までまだだいぶあるけど、どうする?」

「放映時間的に14時過ぎに終わるから、今から腹ごしらえ」

「寝ちゃわない?ちゃんと見たいよー」

「寝てたら起こしたげる」

「やさしー」

「それだけが取り柄の女ですから」

「凪沙ちゃんって自己評価低いよね」

 そうか?

「んなことないよ」

「私の彼女なんだから、それで凪沙ちゃんの自己評価は高くならないと」

「そういうもの?」

「そうそう」

 確かに、以前の自己評価の値は『日菜月(ひなつき)陽華(ようか)と古い友人の酒々井(しすい)凪沙(なぎさ)』という情報で保っていたのだから、似たようなものだろう。

「ところでどこ向かってるの?」

「シュークリーム屋さん!前友達と来たとき食べたらおいしかったんだよね」

「へえ。どこにあるの?」

 モールの構造を理解していないせいで、既に若干迷子の私。綾瀬に着いていっているだけだ。

「この前の記憶を頼りに進んでるからよくわかんない」

「ええ…」

 2人で迷子になって映画間に合わなかったらどうしよ。

「着いた!」

 食べ終えて、少しお話をしていたらいい時間になってきた。

「そろそろ映画行こ」


 2人でシェアして一服。そして映画館へ。

 因みに、モール内の地図があったので、それほど迷わずに行くことができた。

「上映時間結構長いね。凪沙ちゃんトイレ行かない?」

「私はいいかな。そこで待ってるね」

「つれないこと言うなよ、ねェちゃん。連れしょんは青春だろ?」

 なんかテンションがおかしい。あのシュークリーム変なものでも入ってたかな。

 学校でもクラスメイトが連れしょんするのをよく見るが、まったく理解できない。男子は個室じゃないだろうからまだしも、私たち個室だぞ、個室。

「凪沙ちゃんが上映中に私が眠くなったらどうするのよ。それに凪沙ちゃんも途中でトイレなんて行きたくないでしょ?行っときなさい」

「はいはい。青春しましょ」

「わーい。やっぱ優しいね」


   ☆☆☆


 上映終了。

 よかった。すごくおもしろかった。陽華にも教えてあげよ。

「見たことないタイプの映画だった」

「だね。クライム映画っていうらしいよ」

「クライムってなに?」

「……犯罪。英単語勉強しようね」

「犯罪なんて試験に出ないよー」

 そうか?単語帳の前半で見た気がするが。単語帳で見たからといって出るとは限らない?例文もぱっと思い浮かばないし…。でも、あったよな…?

「そんなことよりご飯いこ。お腹すいちゃった」

「そうだね。何食べる?」

「その場で考える。今は舌と相談ー」


 私はうどん。綾瀬はラーメンになった。

「うどん結構久々かも」

「へー、いつぶり?」

「陽華と遊びに行った時以来」

「べつの子の話しないでー」

「いいじゃん。それに話振ってきたの綾瀬でしょ。なのにどうしろと?」

「確かにね、ゴメン。……リスク管理リスク管理」

 別に謝らなくてもいいのに。

 沈黙。少し気まずい。何か話題は…。とりあえず、食べよう。

 …。

 ……。

 あ、映画。

「綾瀬はどのシーンが一番好き」

 ラーメンをほおばっていた綾瀬が顔をあげる。そして、「ちょっと待って」と、手のひらを向けてくる。口に食べ物を入れた状態で話をしないのは綾瀬の美点の1つだと思う。

「映画の話?マフィアから逃げてる時の会話が1番好きかな」

「どこの?いっぱいあるじゃん」

「最後の!でもその前の衝突で2人の気持ちが変わったじゃん?そのあとの車内。あ、なら衝突のシーンが1番好きなのか?」

「わかる、いいよね。すごいおいしそうに2人がお酒飲んでるのが特に好き」

「あのお酒なんて言うんだろうね。瓶に入ってるだけで高そうに感じちゃう」

「そんなこと言ったらほぼ全部じゃん」

「私の中のお酒像がビールだから」

「あーね」

 やっぱ話しながら食べるの難しい。話してると食べれない。

 苦戦しつつも完食。

「ラーメン食べると水が進むよね、塩々しいから」

「それでいうと私、漬物食べると水飲みたくなる」

「あれも塩だよね」

「塩なのかな。漬けて塩味が出てるだけで塩自体は入れてないんじゃない?」

「いやいや、野菜の水分抜くために塩揉みこむんだから、塩でしょ」

「へえ、知らなかった。そういえば、塩と甘いものが合うっていうけど、私的には塩と水のほうがしっくりくるんだよね」

「わかる。塩キャンディとかちょっと苦手」

「えー、あれはおいしいよー」

「そう?」

 すごく楽しい。

「塩と言ったらテキーラ!って感じしない?」

「そうなの?」

心がぴょんぴょんするのを感じる。そして、ずっと前から気になっている、綾瀬の手。そんなことはないのだろうけれど、綾瀬の左手が何かを、明確な何かを望んでいるように見える。爪の色が見え隠れする。

「ラジオでテキーラには塩って言ってた」

「へえ、なんでだろうね」

 ほら、今も。主張を感じる。

「わかんない、飲んだことないし」

「私たち未成年だもんね。大学生とかになればわかるのかな」

「飲みサーってヤツだけじゃない?度数高いっていうじゃん」

「お酒のことわかんない」

 私も綾瀬に習って手を動かす。そこで初めて手汗をかいていたことを意識する。衝動に任せて行動しなくてよかった。

 そして、綾瀬の体温を直に感じる。

「やっと、握ってくれた」

「あれだけ主張されれば、私だってわかる」

「でも、ちょっと違うかも」

 そういって、遠慮気味に綾瀬の指がうごめき、私の間に滑り込む。

「私たち、恋人なんだから。ね」

 …。ふう、ふう。私がここまで衝動に突き動かされる人間だとは思っていなかった。理性さんに感謝。人目に感謝。

「凪沙ちゃん、アイス食べたくなっちゃった。買いに行こ」

「心を整理する時間を…」

「凪沙ちゃんが私の手を握ってきたんだよ?なら普通必要なのは私のほうだけど、私は平気。なら凪沙ちゃんも平気だよね。速く行こ!」

 そうだけど、そうじゃない。しかしその強制される感じ、嫌いじゃない。

 そんな私のことを綾瀬はつないだ手をリードのように引っ張って私を動かす。そのときの綾瀬は満面の笑みで、とてもかわいらしかった。

「凪沙ちゃん見て、あれ!映画ででてきたお酒じゃない?」

 ほんとだ。

「酒屋さんじゃなくてもあるもんなんだね」

「ね、ジャックダニエルズだって。ウイスキーなんだ。ウイスキーってなに?」

「さあ?」

「いつか一緒に飲もうね。それで、一緒にわかるようになろうね」

「なら綾瀬は21までお酒飲まないでね。一緒に、だもんね」

「そうなっちゃう?飲まずにいられるかな…」

「なんなら私早生まれだから22かも」

「凪沙ちゃん、早生まれなの?誕生日いつ?」

「2月の6。綾瀬は?」

「7月25日!祝ってね!」

 25日か。なんかあった気がする。

「ああ、思い出した。夏祭りの日だ」

 陽華に何度も言われていたおかげで思い出せた。おかげで円滑に会話がすすんでくれることだろう。

「知ってたんだね、凪沙ちゃん。それでさ、その日デートしよ?」

「陽華に誘われてるので、陽華も一緒でいいでしょうか…?」

 申し訳なさがあり、敬語になってしまう。

「…さすがに2人きりがいいな。どうしても陽華ちゃんとの約束断れない?」

「今度陽華に相談してみます…」

「ん」


 アイスを食べたら解散ということになり、今は寝る前の布団の中。

 私たちの関係は20歳になるまで続いているだろうか。続いていると思いたいが、高校生の恋愛は総じて儚いものだ。生涯(しょうがい)伴侶(はんりょ)となるのは創作か、ごく一部のみだろう。

 私はこの人生がそのどちらかであることを祈りながら眠りに落ちる。…週明け、陽華に聞かないとな。


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