星空の吸血鬼
[星空に棲む吸血鬼の少女♀×片想いしてる浴衣姿の眷属♀]
#ファンタジーワンドロライ 参加作品
お題「吸血鬼」、「アンデッド」、「星空」
#キスの日 記念
夜風を含んで大きく膨らむ、白いレースカーテン。大理石のタイルの上をひたひたと進んできた白い素足が、赤い鼻緒を引っかける。桐材の下駄が、カラコロと小気味よくウッドデッキを鳴らす。
鼻歌と共に丸いガラステーブルに置かれたのは、二つのワイングラスとステンレス製のワインクーラー。葡萄畑の描かれた古いラベルの赤いボトルが氷を押しのける、涼しげな音。
ガラステーブルの天板に落ちた丸い水滴に細い指先が触れて、戯れにまっすぐ引き延ばした。
2人掛けのカウチに腰かけた浴衣の女性が、濡れたままの赤い髪を無造作に掻きあげた。毛先からぽたりと垂れた水滴が、浴衣のすそに描かれた大きな撫子の花に染みて、すぐに消える。
彼女の頭上に大きく広がるのは、真っ暗な星空。赤みを帯びた一等星が楽しげにまたたく。
それが、ふと消えた。
闇空がカーテンのように揺らめいて、真っ黒なレースワンピースが浮かび上がる。闇の空から溶け出るように姿を現したブロンドヘアの少女が、黒いワンピースをひらひらと踊らせながら、ベランダの手すりに金色のハイヒールを乗せる。鈴を転がしたような声で、夜の挨拶をひとつ。
音もなく、流れるような動きで浴衣の女性の隣に座りーー
衣紋の抜かれた白い首筋に吸い寄せられるように、白い牙を立てた。
重なり合う二人の背後で、白いカーテンがふわりと揺れる。
黒い革製のチョーカーを付けた喉元がゆっくりと上下する。満足そうな笑みを形作った薄い唇が首筋を離れ、ごちそうさま、とささやいてーーそれを追うように、綿絽の袖がするりと伸びて黒いチョーカーをなぞり、細い肩を抱き寄せる。
ゆっくりと、二人の唇が重なった。ピンクゴールドのチェーンピアスがしゃらりと鳴って、ふっくらとした頬の上を滑る。
星空に向かって、白いカーテンが大きく広がる。
「……これは、必要ないんだけど?」
吸血鬼の少女は、離れていく唇を見つめ、虚を突かれたような顔で呟く。
楽しげに笑う赤毛の女性が、衿を整えながらごちそうさま、とささやき返した。「わたしには必要」
「……酔ってるね?」
「酔ってません」
「酔っぱらいは、みんなそう言う」
ラメ入りの金色のヒールがウッドデッキに落ちて、硬質な音を立てる。カウチの手すりに肘を載せた少女は、しなやかに身をのけぞらせて広い空を見上げた。
木々のざわめき。遠くから鈴虫の音。
吸血鬼の少女がぽつりと言った。
「……ねぇ、私のこと恨んでる?」
赤い髪を掻き上げて、からっと笑った女性が、
「まぁ、二郎系食べたいときだけね。それに、」
袂を押さえながら赤いボトルとワインオープナーに手を伸ばす。ワインクーラーの氷がぶつかり合う音。
「自分の生まれ年の酒が、こうやって100年モノの熟成状態で飲めるし」
「……古今東西、酔っぱらいってどうしてこう」
澄んだ音で打ち鳴らされたワイングラスの向こうで、赤みを帯びた一等星が楽しげにまたたく。




