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云々蒐集短譚  作者: 里崎
20/30

鎧の男と小さな少女

マセた少女に封印を解かれたゴーレムの話。


#ファンタジーワンドロライ 参加作品

お題「仮面」「神の兵」「宿命」

山向こうの街に出稼ぎに行っていた若者たちが血相を変えて村に帰ってきた。傷だらけ、ボロボロの格好に、何事かと顔見知りの村人たちが集まってくる。

「隣国が飛竜と契約を結んだ! 近くの街はどこも壊滅状態だ。もうすぐここにも攻め込んでくる」

村人たちがどよめく。何人かが村長を呼びに走る。

若い男たちのほとんどは近くの街や村に出稼ぎにいっていて、村に残っているのはほとんどが老人や女子どもだけだ。

ぴゅーーー、と山の向こうから長い笛の音。飛竜を操る笛だ。

洗濯物を干していた女性が、庭先の子どもを家に引っ張り込んで扉を閉める。数人は家財道具を持って近くの森へと飛び込んだ。


ーー突風が吹く。


晴れた上空にいくつもの巨大な影。ひ、飛竜だ! 大群だ!と誰かが叫んだ。

初老の男女数人が、使い古した農機具を構える。口を大きく開けて急降下してきた一匹の飛竜が、彼らを一撃で蹴散らした。

そのまま近くの小屋の屋根を吹っ飛ばす。ばきばきと木材の折れる音。中にいた者たちの悲鳴。どこかから赤子の泣き声。馬や牛の暴れる音。

誰かが、嗚呼、とため息まじりに小さく呟いた。


村人たちがみな、抗うことを諦めた、そのとき。


一匹の飛竜が、ぎえええと苦しそうな悲鳴を上げて斜めに落下していく。墜落の衝撃で地面が揺れる。もうもうと立ちのぼる土埃。

「なにが……」

閉め切った木戸の、狭い隙間から外の様子を見ていた一人が、茫然と呟く。無気味な威嚇の声を上げた飛竜が、青空から次々と降ってきてーー


そこに一人の少女がぽつんと立っているのが見えた。

「おい!! 逃げろ!!!」

背筋をしゃんと伸ばしたままの少女が、何かを手招きするような仕草をしてーー


いくつかの剣撃音。


ーー飛竜たちが、ぎえええと苦しそうな悲鳴を上げてもれなく地に伏した。その背から転がり落ちた敵国の兵士たちが逃げようとするのを、巨大な影が古びた大剣を振るって打ち倒す。土埃の途切れ目から、その巨大な影の横顔が見えた。

「は、破壊神の衛兵……」

山をいくつも超えた先、遙か崖下に広がる破壊神の領地。そこを守るために造られた無機質なゴーレムの兵士だ。

ちっぽけな人間の村を守る理由も縁もないはずなのに。

信じられない光景に、村人たちはどよめいた。

身動きする敵がいなくなったことを確認してから剣を収めた土色の衛兵は、拍手をしていた小さな少女をひょいと抱え上げて、のっそりとした足どりで村の奥へと消えていった。


***


ーーそれは、数日前の出来事。


薄暗い空間。硫黄臭のただよう洞窟の奥深く。地下水混じりの冷風が吹くたび、ぼろぼろと土くれが落ちる。

ほのかな青い光が周辺一帯でゆらめいて、壁面に深く打ち付けられていた錆びた鎖が地面に落ちた。ひどく重い音がそこらじゅうに反響する。

数十年の眠りについていた一体のゴーレムが、ゆっくりと目を開ける。

彼の目の前に立っていたのは、葉っぱの仮面をかぶった小さな少女一人。村の祭祀で使うお面だ。

「……俺は魔女に封印されたはずだが?」

ふふ、と緑色の仮面の下で少女が上品に笑った。「たいていの封印は魔女のキスで目覚めるのよって、いつもお母さんが言ってたよ」

聞き覚えのある、軽やかな声。

壁面から離れたゴーレムは、ふらふらと少女に近づいて、巨大な図体を丸めてしゃがみこみ。

ぺり、とその仮面をめくった。

「きゃ」と少女が可愛く言って、恥ずかしそうに目を細める。

見覚えのある、だが幾分か幼い顔立ちを、土人形のうろのような目でじいっと見つめ。

「エレナか?」

「おばあちゃんは、私が生まれる前に亡くなったよ?」

「孫か」

さらに顔を近づけるゴーレムの額に、ちょっと爪先立ちをした少女が唇を押し当てた。唐突にかまされたでこちゅーに黙って見返すゴーレムに、マセた笑顔を向ける。

「いくつだ?」

「13。けっこんは、あと半年まってね」

「……相変わらず貧しい国だな」


***


杖の先から放たれた青い光が、破壊神の領地から抜け出し付近の町を無意味に荒らしていた一体のゴーレムを、洞窟の奥深くに厳重に固定した。

封印魔法を詠唱し終えた黒いローブの女性は、ふぅと息を吐いて杖を下ろした。少女によく似た、だが幾分おとなびた顔立ちの女性。

「残念ながら私じゃないのよ。ねぇ?」

そう呟くと、ふわふわと周囲をただよっている白い小人ーー先詠みの精霊と、そうっと笑い合った。

「でも、もうすぐ逢えるから。あと数十年まってね」


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