隠れヒーロー/正義のヒーロー/立てこもり事件
「また遅刻!」
「はいはいごめんて」
女のいつもの説教を聞き流しながら、町の危機を救って来たって言えたらな、と隠れヒーローの男は小さくぼやいた。
まあまぁ、と眼鏡の少年が二人を仲裁する。「最近はちょっと早くなったし」と男に微笑む。
いつになく反省の色を見せない男に、ついにブチ切れた女が叫んだ。「あんなん秒速で片づけなさいよ!」
「え?」
ぐるりと振り向いて少年にも言う。「あんたも見てるだけとかさぁ!」
「えっ」
その実ーー国家の危機を救った後、男の奮闘を見届けてから先に来た、隠れ査察官の少年にも、だ。
女は、世界の危機を救った後、二人の奮闘を見届けてから先に来た、隠れヒーローだった。
***
「聞いて、きのう正義のヒーローに助けられた!」
「へぇ」
「あ、信じてないな。本当だって!バイト先の本屋で火事が起きて、天井が落ちそうになって」
「へぇ」
「その人が現れて本棚動かしてくい止めて!そのあと出口まで誘導してくれて」
「いや、避難誘導は店員さんに任せたけど」
「え?」
***
立てこもり事件が起きた。青ざめる人質たちの中、ポロシャツの男が犯人に言う。「女と子どもは解放してくれ」
「は?!」激昂したのは犯人ではなく、連れの女。「おまえ手柄を独占する気だな!させるか!」
「ほんと便利」と呟く呆れ顔の同僚を前に、非番の女警官は秒速で犯人をとりおさえた。




