王妃クエスト
一先ず、城に戻り文句を言いに、王様のところへ向かった。
「王様! 王妃様が家出ってどういうことですか!?」
「おお、王妃は元気にしておったか? 王妃は、可憐じゃっただろう? 焼いた青魚の身ような肌と、泥水のように艶やかな髪、鳩のようなつぶらな瞳」
「惚気ですか? まあ、確かに綺麗な人でしたけど……。椅子について、3時間語られましたよ」
「ほっほっほっ。王妃らしい」
「捕らわれていると言ったじゃないですか!?」
「そうじゃ。魔王城の玉座の椅子の魅力に捕らわれておるのじゃ。王妃は椅子フェチなのじゃ」
全身の力が抜けた。
「ただの椅子……。まぎらわしい……」
「いやいや、あの椅子はなかなか良い物じゃぞ。ワシも以前、こっそり座ったら……」
「いや、そんなことより! 自分の意思で出ていった人を連れ戻すのは……」
僕がそう言いかけると、王様は残念そうな顔をする。
「そうか……。それなら、1万Gは返してもらおうかの」
「あっ……。いや、それは……」
言い淀む僕を見て、王様がニヤリとした。
「王妃を説得してくれるな?」
「……はい」
僕の道は一つしかなかった。
「そもそも、夫婦喧嘩の理由はなんですか?」
「それが、王妃が何かに怒っておってな。その理由がワシにはわからず、余計怒らせて喧嘩になったのじゃ」
「めちゃくちゃ面倒事じゃねーか」
困り果てる僕を見て、大臣が前に出る。
「恐れながら、王様。城の者だったら、理由がわかる者がいるかもしれません」
「そうじゃな。勇者よ、城の中の探索を許可する。是非とも、原因を探ってくれ」
「これ、S級クエストだろ……」
城の中が、開放された。
【知らなくても困らない話・王妃の椅子談義】
「もう解散!」
「お疲れー」
「またいつでも呼んでねー」
魔法使いはともかく、意外にも戦士もさっさと去ってしまった。
「二人とも早いな?」
「あら? あなたは、まだ時間あるの?」
「あっ、はい」
「なら、わたくしと話さない?」
「いいですよ」
王妃と話すなんて経験は、滅多にないと思っていた。
「あなたは、どんな椅子が好み?」
「椅子!?」
「ええ! わたくしは最近、座椅子にハマっているの。床の存在が近く感じられるのが良いわよね」
「床の存在って……」
「あなたは、普段どんな椅子に座るの?」
「椅子っいっても……ゲーミングチェアなんですけど……」
「ああ! あの重心のかけるところを知り尽くした完璧な椅子ね」
「知ってるんですか!?」
「あと、北欧椅子の美しさも捨てがたいわよね。座ったことある?」
「いえ……」
「あとは、パイプ椅子! あの便利さだけじゃなく、座る人のことも考えたクッション部分。でも、学校の椅子も嫌いじゃないわよ」
「たぶん、異世界の王妃が知ってたらいけない情報が……」
そうして、王妃は三時間語り続けた。




